小説『リリカル世界にお気楽転生者が転生《完結》』
作者:こいし()

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 午前の訓練終了後、なのは達スターズとフェイト達ライトニングのメンバーはデバイスルームへやって来ていた。無論、フォワード陣のデバイスを支給するためだ。ちなみに珱嗄も一緒に付いて来ている。
 とはいえ、珱嗄がデバイスを持ってないと知ったのは昨日の事。流石に優秀なデバイスマイスターだとしても、一日そこらで専用デバイスを作製するのは不可能だろう。それこそ、珱嗄の様に世界中の全ての技術を持っていない限り。

 さて、リリカルなのは第二期終了時に珱嗄は神崎零から原作知識を受け取ったので、この先の展開をきちんと理解している。とはいえ、細かい部分はこの10年で忘れてしまっているのだが、それでもどんなイベントがどんな順序で起きるのか、どんな登場人物がどんな立ち位置で出てくるのか位は分かる。事細かな心情や行動の動機、何の目的を持ってそんな行動を取るのか。そんな細かい所は覚えていないのだ。
 また、珱嗄はそんな原作知識のおかげで本日のイベントを理解していた。


 ―――ファーストアラート


 敵キャラとして配置されている今回の黒幕、ジェイル・スカリエッティ。彼がどこぞの暴走列車に積み込まれたロストロギア、レリックを回収する為に高町なのはを以前撃墜したアンノウンを送り込む。
 アンノウンの正体は、ガジェット。勿論、8年前だ。現在の物とは歴然とした性能の差がある。だがその程度なら気にする要素でもない。言ってしまえば今回のファーストアラートで珱嗄が出る必要がない。明らかな過剰戦力だ。

「これがフォワード達全員の専用デバイスだよ」

 そんな事を珱嗄が考えている内に、フォワード陣に配布される。そして各デバイスについてそれぞれ説明していくのは、デバイスを作った本人。機動六課デバイス調整班のシャリオ・フィニーノ。愛称、シャーリーだ。

「ふあ……」

 珱嗄はデバイスを貰っていないので、説明中は暇になる。周囲に置いてある機材をキョロキョロと見渡して近づく。
 とりあえず手近にあったコンソールに触れてカタカタと動かす。目の前に浮かんでいるモニターが珱嗄の指に応じて複雑な文字式を次々とスクロールしていく。珱嗄はそんな流れては消えていく文字式を視界に収め、コンソールをカタカタとブラインドタッチで入力していく。
 実際、何をしているのかと問われれば、何もしていない。珱嗄はただそこにあったコンソールを叩いているだけ。なんとなく理解できる範囲で弄っているのだ。

「………」

 後ろでペラペラと説明を続けるシャーリーの言葉を作業用BGMにしてコンソールを叩き続ける。するとモニターの中で一つのゲームが出来上がる。所謂、ブロック崩しと呼ばれるゲーム。珱嗄はこの短時間でデバイスに関するデータしかないローカルディスクの中に、ブロック崩しなんていう平凡なゲームを作りあげてしまった。

「暇だなぁ……」

 ピコピコと残っているブロックを消していく珱嗄。自作なだけに攻略法も分かってしまうので、やはりつまらない事には変わりなかった。

「……」

「こんな所かな。えーと……珱嗄さんは?」

「あそこでブロック崩しやってます」

「何やってるんですか!?」

 珱嗄がブロック崩しを初めて5分ほど。ようやく説明が終わったようで、なのはによるデバイスの重要性と道具としてみないでパートナーとして大切にする事の教えを受けた後、なのはが珱嗄を探す。すると珱嗄を指差してスバルが言った。なのははその指の先でブロックを消し続ける珱嗄を見てガビンッ! という効果音が似合いそうなリアクションを取る。
 珱嗄はそれを見てブロック崩しを止め、データを完全に削除した。

「で、何?」

「ああ、うん。えっとね、珱嗄さんのデバイスなんだけど……結構時間が掛かっちゃうみたいで」

「別に創らなくても良いけど?」

「そういう訳にはいかないよ。デバイスが有ればそれだけ戦いも有利になるし」

 なのははそう言う。珱嗄はそんななのはにじゃあ時間掛けても良いから作ってと頼み、話を切り上げた。

「じゃあ―――」

 なのはが次の言葉を発しようとした瞬間、珱嗄の原作知識にあったイベントが起こった。


 ビイイイイイイ!!!


 ファーストアラート。否、珱嗄が来た事によってこのイベントは名称が変更される。実質ファーストアラートは珱嗄の侵入疑惑の時だ。
 つまり、今回の警報は



 セカンドアラート



 二番目の警報は、彼女達に戦いの最初を持ちこんでくる。この一ヶ月間鍛えられてきた新人達と、鍛えてきた隊長達の機動六課での最初の戦い。

 向かう敵は、ガジェット、黒幕はジェイル・スカリエッティ。狙う目標はロストロギア、レリック。

 珱嗄という転生者と、なのは達原作のキャラクターが交差し物語を変える。元々原作キャラだけで解決できる物語は、珱嗄という異物によって違う展開を進む――――




 ◇ ◇ ◇



「あれ? はやて、皆は?」

「……えーと、珱嗄さん。アンタなんでこんなとこおんねん」

「え?」

「「………」」

 さて、ファーストアラートもとい、セカンドアラートが鳴った後の事。珱嗄以外のスターズ、ライトニング、エスケープ、フォワードの面々は現場へと直行した。そう、つい先ほど飛行機が飛び去った後なのだ

「え? 皆もう行っちゃった?」

「行ったで。多分もうあと10分もすれば現場に着くやろ」

「……やべ。はやて、現場何処?」

「……此処やけど、どうするん? 飛行機はもうないし、あったとしても操縦士がおらんで?」

 はやては珱嗄に地図を渡して現場をチェックする。珱嗄をその場所を見て、ふむと頷いた。はやてはそんな珱嗄にどうするのかと問う。確かにもう現場に行くには手段がないのだ。
 だが、珱嗄はゆらりと笑って地図をはやてに放り投げる。そして言った。


「決まってる。走っていくんだよ」


「え!?」

 はやてはその言葉に驚愕を露わにして珱嗄を見る。しかし、珱嗄は笑うばかり。挙句、トントンと軽くジャンプして調子を確かめている様にも見える。

「でも、陸路じゃ確実に間に合わへん! 大人しく待ってた方が……」

「誰が陸路で行くって言った。俺が行くのは空路だ」

 はやての言葉を珱嗄は即座に否定する。そう、珱嗄が行くのは陸路では無く、空路。珱嗄の身体能力はハンターハンターの世界で生きていた時から、この方法を取ることが出来た。更に強化された今、出来ない筈がない。

 
 宙を走る


 音速を超える速度は、優に空気を蹴って進むことが可能。珱嗄の身体能力は、その音速を軽く追い越す。飛行機の速度は平均して約500〜1000km/h。こちらも亜音速という速域から音速の速域の中で飛ぶが、珱嗄はその先へ行く。たった今飛び立ったというのなら、そんなに距離は離れていない。
 故に、珱嗄はそれに追いつくことが可能なのだ。

「じゃ、行ってくる」

「あ、ちょっ……」

 珱嗄ははやての前から去り、外へ出る。そしてそのまま足に力を込めて、空へと跳び上がった。そして落ちる前の空を蹴って更に上へ上へと昇る。そして―――



 ―――音速を超えた速度で前へと蹴りだした。



 衝撃波と撒き散らして空気を切り裂き、その身体を唯直進させていく。その速度は、珱嗄の身体を切り裂く狂気となるが、それは珱嗄の魔法で防御される。リミッターで制御されているといっても身体を防護する位の魔法なら使えない筈は無い。

「さて、飛行機は何処まで行ったかな……あまり遠くまで行って無いと良いんだけど……」

 珱嗄はそう呟いて視界に飛行機を探す。方向的には合っているので何れ見えてくる筈なのだ。

「―――……! みっけ」

 しばらく走っていると、前に飛行機を見つけた。そして更に速度を上げる。するとすぐに飛行機に追いつき、飛行機の上へとその足を付けた。若干変な音がしたけどまぁいいだろう。

「さて、転移」

 そして珱嗄は簡単な転移魔法を使って飛行機の上から飛行機の中へと移動する。


「よっと、置いてくなんて酷いじゃないか。お前ら」


 珱嗄は唖然としている面々の視線の中、そう言った。


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