小説『リリカル世界にお気楽転生者が転生《完結》』
作者:こいし()

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 珱嗄が飛行機で飛び立った面々に合流した後、突っ込みたい所は色々あるものの任務も有ったのでとりあえず一緒に行く事で落とし所を付けた。
 ということで、珱嗄は現在遊園地に向かう子供の様に、それでいて収容所へ連れられる囚人の様な雰囲気を放つフォワード陣が並んで座っている正面に座っていた。

「そういえば、今回の任務って何? 俺防犯ブザーが鳴ったあたりから置いてけぼりなんだけど」

「いや防犯ブザー鳴ってないから最初から置いてけぼりだよソレ。鳴ったのは警報、今回の仕事は聖王教会からの出動要請。教会騎士団の調査部でロストロギア『レリック』らしきものが発見されたの。場所は山岳丘陵。リニアレールで対象は移動中で、さらにそのリニアレール内部にガジェットが侵入しているらしいんだよ。リニアレールのコントロールも奪われていて、ガジェットの数は最低でも30。空戦型も見られているらしいんだよ」

「へぇ、というかレリックって何?」

 珱嗄がそう言うと、話していたアリシアはガクッと肩の力が抜けた。機動六課に来てその目標物の事を知らないとは思わなかったからだ。

「はぁ……レリックは第一級捜索指定ロストロギアだよ。詳しい事は分かってないけど、超高エネルギーを持った結晶体で、魔力を受けると大爆発を起こす危険な物なんだよ。六課の設立の理由の一つだよ、コレ」

「ふーん」

 実は珱嗄はこの事を原作知識で知っている。だが、レリックがどのような物かは知らなかったのだ。あくまで、珱嗄の原作知識は神崎零の持っていた物だ。つまり、彼が覚えていない所は知らないし、彼が知らない事は分からない。実際、彼の原作知識は結構穴があいている。どうやらアニメのみの原作知識の様だ。

「……まぁソレは良いとして。何アレ、フォワードの面々凄い緊張してない?」

「あー……まぁ初出動だもん。新人としてはかなり緊張すると思うし……」

「あそこで何とか励まそうと頑張ってるなのはちゃん。物凄い空振ってるけど」

「……なのはちゃんは訓練とかならプロなんだけど、人を励ましたりするのは苦手だからね」

 珱嗄はその言葉になるほどと頷いて、またなのはを見る。わたわたと言葉を選んでいる様子は、とてもじゃないが人を励ましたり勇気付けたり出来そうではない。
 むしろ、下手な事を言って更に落ち込ませそうな勢いだ。

「珱嗄さん、どうにかして来てよアレ」

「なんで俺が」

「だって私もフェイトも励ますのは苦手だし……この中じゃ一番年上でしょ?」

「………はぁ、めんどくさ」

 珱嗄はアリシアの無責任な言葉にため息をつき、言ってる事は正しいので立ち上がる。正直、フォワードの4人とまだ一切関わりを持っていない珱嗄は、訓練を共にしたティアナやスバルとも寝ぼけ半分で自己紹介した位しか話していない。エリオやキャロとなんかお互い顔を少し見た程度だ。
 そんな仲で赤の他人である自分に何を言えというのだ、と珱嗄は思う。しかしまぁなのはが下手打って落ち込ませて任務が失敗に終わるのは少し残念だ。珱嗄としても初出動なのだから。

「あーおいおい、そこの新人共」

「「「「?」」」」

「!」

 珱嗄が新人に話し掛けると、4人は一斉に珱嗄に視線を集め、なのはは期待に満ちた視線を珱嗄に向けた。珱嗄はそんな視線にまたため息を吐きたくなったが、とりあえず二の句を考えて行き当たりばったりに口を開く。

「なんでそんなに緊張してんだよ。今回の任務はリニアレールからレリックを回収するだけの簡単なお仕事だ。誰かと戦う訳でも無し……」

「今回はガジェットが出てきてますけど……」

「……」

 珱嗄はくるっと振り向いてアリシアを責める様な視線で見る。するとアリシアはテヘッ☆とペロッと舌を出し、こつんと自分の頭を軽く小突いた。
 珱嗄はその行為にイラッと来たので、とりあえず自身の首を親指でクイッと横一線になぞった。その意味は、『後で絞めるから覚悟しとけ』。アリシアはその意味を正確に受け取った様で、青ざめた顔のままひきつった笑顔を浮かべた。

「えーと、まぁあれだ。ガジェットなんて機械のゴミクズだし、生きてすらいないんだから怖がる必要はない。というか、お前らこの1ヵ月訓練して来たんだから少しは自信持てよ」

 珱嗄はそう言うが、気持ちは分かる。この1ヵ月訓練して、自分達が強くなっているのは分かる。


 ―――でも、駄目だったら?


 あれだけ訓練して、あれだけ泥だらけになって、泣きたくなるくらい辛い訓練をこなして尚、何も出来なかったら? それを思うとそれだけで緊張し、不安が募る。
 そんな気持ちは、珱嗄にもなのはにもフェイトにもアリシアにも分かる。皆そうだったからだ。珱嗄だって一番最初、転生を行なう前の世界で経験した事がある。

「まぁ気持ちは分かるけど……お前らが完璧にやる必要はない。俺は寧ろ失敗して痛い目見ろと思ってる」

「え」

 なのはが変な声を上げたが、珱嗄は気にせずに続けた。

「失敗して痛い目見て、落ち込んで見直して次に生かせばいい。それを何度か繰り返した結果、皆強くなれる。それまではお前らの失敗を俺達がフォローする。それが、俺達大人の役目だ。だから、いつまでもウジウジと緊張するな。シリアスは苦手なんだ」

 珱嗄がそう言うと、フォワードの面々は少しだけ肩の力を抜いてリラックス出来た様だ。表情からも緊張が消えていた。

「オッケ―? スバル、ティアナ」

「はい!」

「ありがとうございます!」

「えーと、エリオとキャロだったか。お前らも大丈夫?」

「はい!」

「大丈夫です!」

 珱嗄はそれぞれに確認を取ると、全員から元気な返事が返ってきた。ちらりとなのはとフェイトを見ると、二人とも安堵の表情を浮かべ、珱嗄に笑顔を向けた。
 珱嗄は嘆息し、アリシアの隣に戻る。そしてアリシアが肘でつついてきたので、珱嗄はアリシアの額にデコピンをかます。バヂンッ! という大きな音が鳴り、アリシアは沈黙した。

「はぁ……この世界はやっぱり、シリアスが多い」

 珱嗄は飛行機の天井を見上げて、誰にも聞こえない位小さな声でそう呟いたのだった。



 ◇ ◇ ◇



 それから数分。ようやく現場に辿り着く。アリシアはなんとか復活し、額を擦りながら少しだけ涙目だった。その隣で珱嗄はやる気無さそうな雰囲気を醸し出しながら暇そうにしていた。

「あのー、現場着きましたんで! そろそろ行けますよ!!」

 そこに、操縦士であるヴァイス・グランセニックが声を掛けた。すると、飛行機の後方が音を立てて開く。飛行中故にぶわっと冷たい風が流れ込み、珱嗄達の髪や服を揺らす。
 そしてなのはとフェイトとアリシアが立ち上がり、開いた後方へ移動する。

「それじゃあまず、私達隊長陣が飛行型ガジェットを撃墜。ある程度墜としたらフォワード陣と珱嗄さんはリニアレールに飛び乗って、レリックを回収。ガジェットに遭遇したら各時撃破すること。知ってると思うけど、ガジェットにはAMF、アンチマジックフィールドが搭載されてて魔法のほとんどが無効化されちゃうから気を付けてね。大丈夫、珱嗄さんも言ってたけど失敗したら私達がちゃんとフォローするからリラックスして頑張ってね!」

『はい!』

「それじゃ、行くよ!」

 なのははそう言って、飛び降り飛行魔法で飛行型ガジェットへ向かって行った。続く様にフェイト、アリシアが飛び降りていく。そして珱嗄が立ち上がると、続く様にフォワード陣も立ち上がって珱嗄の後ろに着いた。

「……まだ不安か?」

 珱嗄は後ろにいる4人に振り向かずにそう言った。すると、スバルがそれに応える。

「不安です。いくら珱嗄さん達がフォローしてくれると言っても……失敗したらって思うと」

 振り向かない珱嗄の背中に、弱音を吐いてしまうのはひとえに珱嗄がスバル達の顔を見ていないからだろう。
そしてスバルの言葉に全員が同じ気持ちだったようだ。

「ふーん……まぁ不安ならそれでもいいさ。俺達がどう言おうと、結局不安は取り除けない……それは抱えていけ。そしたら、将来自分達と同じ新人を見る立場になった時に自分もそうだったと思える様になるさ。大丈夫、俺が付いてる。今はお前ら新人を俺が護ってやる。自分の精一杯を出し尽くせ」

 珱嗄は顔だけ振り向いて、ゆらりと笑った。すると、フォワード達はその笑顔に元気づけられたのかふっと笑った。そして、そんな珱嗄に尊敬と憧れを抱いた。自分達もこんな風になりたいと。

「じゃ、行こうか。隊長達もそこそこ頑張ってくれてる様だしね」

「はい!」

「何時でも行けます!」

「頑張ります!」

「全力で!」

 珱嗄がそう言うと、フォワードは後ろから一歩出て珱嗄に並ぶ。その言葉からは勇気とやる気が感じられ、ほんの少しの不安があった。だが、それでいい。それくらいの気持ちと不安が有れば、慢心せず、油断せず、良い感じに動けるのだから。

「いいね。それじゃ、行くぞ〜」

 珱嗄は間延びした声で飛び降り、フォワード達もそれに続く。
 そしてすぐにリニアレールに飛び乗って、レリックの捜索を開始する。

「よし、全員いるな。それじゃスターズは此処から前方、ライトニングは後方を捜索。俺はライトニングに付く。各時、レリックを発見したらすぐに念話で知らせること。ガジェットに遭遇したら各時撃破、いいな?」

『はい!』

「それじゃ、捜索開始」

 珱嗄の指示に従って、全員動き出す。スターズの二人は前へ、ライトニングと珱嗄は後ろへと動きだした。そして、ライトニングの前に早速ガジェットが現れた。
 エリオとキャロは急に出てきたガジェットに一瞬動きを止めてしまった。だが、珱嗄は走るのを止めずに直進。3体のガジェットにその手刀を叩き込み、魔法を使うことなく通り過ぎざまに破壊した。

「す、すごい」

「エリオ君、私達も行かなきゃ!」

「う、うん!」

 珱嗄の後ろを急いで付いていき、エリオとキャロは改めて珱嗄の強さに尊敬の念を抱く。そして、自分達も負けていられないとデバイスを起動させて気合を入れたのだった。



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