小説『リリカル世界にお気楽転生者が転生《完結》』
作者:こいし()

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 それから数日。フォワード達の訓練は隊別のチーム訓練から個人個人の実力を伸ばす個別スキル訓練へと移行していた。幸いなことに、機動六課にはスターズとライトニングを率いるなのはとフェイトが居る上に、副隊長のヴィータとシグナムがいる。故に、それぞれがフォワード一人一人について鍛えることが可能。
 それに加えて珱嗄と神崎、アリシアまでいるのだ。ある意味最高の修行環境が整っていると言って良いだろう。
 だが、珱嗄は基本ものぐさなので面白くもない訓練にはあまり参加しなかった。とはいえ、そんな珱嗄とは反対に、セカンドアラートの件で少なからず珱嗄に尊敬と憧れを抱いたフォワード勢は珱嗄に自身の訓練を付けて欲しいと思っていた。
 神崎零はかなり誠実な人物になったので、昔とは違ってフォワード勢に真摯に向き合い訓練の手伝いをしている。神崎の実力を彼女達に見せた訳ではないが、やはり神崎の管理局内のネームバリューから彼の訓練はフォワード達の実力を原作よりも伸ばしていた。

 さて、これが現在の訓練状況な訳だが、現在八神はやては108部隊に出張で出払っている。目的はレリック対策捜査の協力要請。やはり、ジェイル・スカリエッティの力は思ったより強かったようだ。

「で、何の用かな?」

「ああ、珱嗄さん。そろそろアンタの記憶を皆に戻しても良いんじゃないかと思ってな」

 そんな中、機動六課内では珱嗄と神崎が向かい合ってそんな話をしていた。神崎零は、転生者の特典である『無限の剣製(アンリミテッドブレードワークス)』を使って記憶を戻すことが可能。そういう剣を生み出せばいいからだ。例を上げるなら『破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』とか魔法効果や契約を打ち消す剣だ。
 これならロストロギアの効果だって打ち消すことが可能だろう。元々、珱嗄の作ったロストロギアは対象の記憶を世界中の人々に自分で封印させる効果を持つのだ。つまり、その鍵を解いてしまえばいい。それに、元々珱嗄と関わりの無い人間には効果がないのだ。

「俺が関わったのはあの時のアースラの人間と聖祥の生徒、なのは達位か……まぁはやてには後でどやされそうだけど……まぁいいか」

「いいのか?」

「ああ。でも一人一人解除してくのは面倒だろ? 仕方ないからコレ使おう」

 そう言って珱嗄が取り出したのは、以前なのはに使わせた青い立方体のロストロギアの色違い。赤い立方体だった。何の模様もないので、ただの立方体にしか見えない。

「今どっから取り出したんだ?」

「そんなもん懐からだよ」

「……そうか。それで、そいつは?」

「元々、なのはに使わせた記憶消去のロストロギアはこれとセットなんだよ。これは記憶消去解除のロストロギアだ」

 珱嗄はそのロストロギアに魔力を込めて、発動させる。赤く輝くソレは、部屋を光に包みこむ。そして世界中に分散する様にその魔力を拡散していった。

「……これで戻ったのか?」

「まぁね。少ししたらアリシア当たりが飛び込んでくるさ。面倒だけどね」

「ま、それはアンタの責任って奴だな。甘んじて受けろ」

「はいはい」

 珱嗄がそう言うと、扉の向こうから慌ただしい足音が聞こえてきた。

「……なんか寒気がするんだが」

「こりゃ怒ってるなアリシア」

 神崎はぶるっと震え、珱嗄は苦笑した。

「ど、どうするんだ?」

「……まぁ、10年間も姿をくらませてたからなぁ……どうしよ?」

「………」

「………」

 珱嗄と神崎は青ざめた顔をしつつ、笑みを浮かべた。顔にはダラダラと嫌な汗が流れる。
 だが、そんな二人とは裏腹に足音は扉の前でこつんと音を立てて止まった。そしてゆっくりと扉が開かれる。少しづつ開いていく扉の隙間から、何か嫌なオーラが漏れ出して来ている。

「……」

「……逃げよう。神崎君転移」

「賛成だ。転移魔法てんk―――!?」

 神崎が転移魔法を発動させようとしたその時、地面に鎖が敷き詰められた。

「なっ!?」


 ――――【魔法殺しの鎖(マジックオブキリングチェイン)】、知ってるよねぇ?


「……なんだこの副音声的な声は」

「滅茶苦茶怖いんだけど」

 転移魔法はドアの前のアリシアによって封じられる。そして、神崎の身体が何重ものバインドで拘束された。

「!?」

「あらら、神崎君終了のお知らせ」

 珱嗄はそんな神崎を見てひきつった顔をしながらそう言った。すると、珱嗄の身体にも同じ様にバインドが掛かる。解除しようとするが、何故か魔法が使えない。見た限りバインドには魔法を封じる効果は無い。なのになぜ使えないのか。また、体が鉛の様に重くなり、動けなかった。

「……何コレ」

 そして、珱嗄がもがいているその隙に扉は開かれた。その奥にいたのは真っ黒な笑顔を浮かべたアリシア。まるで天使の様な笑顔を浮かべているが、その迫力は大魔王並だ。


 ――――今まで何処行ってたのか知らないけど


「……えーと」


 ――――O☆SHI☆O☆KI、しないとね。今まで心配掛けたんだし。


「……どうしたものかなぁ」


 

 その後、機動六課には二人の男の叫び声が響いた。そして後にその片方が語る。


「俺、完全に巻き込まれたよね。何もしてないのに………」



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