小説『リリカル世界にお気楽転生者が転生《完結》』
作者:こいし()

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 最初に動いたのは、神崎零。というより、珱嗄は一切その場から動いていない。ただ神崎が動きだして珱嗄に肉薄したのだ。その速度は、フェイトの全力の更に上。つまり、珱嗄を除けば機動六課最速であり、管理局最速だ。いやまぁフェイトが管理局で二番目に速いとかそういう訳ではないのだけど、フェイトを大きく突き放した速度は、他にもいろんな人を突き放しているのだ。
 そんな速度で自分と珱嗄の間の距離を縮め、自身の間合いに珱嗄が入った瞬間、その夫婦剣を珱嗄に向けて振るう。

 だが、珱嗄の速度はその上を行く。神崎の両腕を珱嗄の両手が掴み、その動きを止める。神崎の動きが目視出来なかった観戦室のメンバーにとって、気が付けば珱嗄が神崎の腕を掴んで両者の動きを止めていた、という程に、両者の動きと反応速度は速かった。

「嘘……速すぎ…」

「全然見えなかった……」

 スバルとティアナのそんな言葉は、珱嗄と神崎には届かず、二人は一瞬の停止から動き出す。神崎の腕を珱嗄が放し、神崎は珱嗄からバックステップで距離を取る。届かなかった夫婦剣を、珱嗄に投げ付け、更に夫婦剣を投影。珱嗄は投げ付けられた夫婦剣を両の手刀で後方へ弾き飛ばす。
 神崎は更に投影した夫婦剣を投げ付け、珱嗄がまた弾く。神崎はその行動を繰り返し、計4回程行なった。結果的に、珱嗄は全て弾き飛ばしたのだが、神崎が夫婦剣を更に投影した後、何やら呪文を唱えると、その周囲に転がった夫婦剣達は珱嗄に向かって迫って飛んできた。

「剣が……!?」

 キャロが小さくそう呟くが、そんな呟きは中から響いた轟音でかき消されてしまった。


 ―――壊れた幻想(ブロークンファンタズム)


 神崎の口からその言葉が放たれた直後。珱嗄に迫った刀剣達は、一斉に大爆発を起こしたのだ。宝具の使い捨て、宝具をその宝具が内包する魔力を使って爆発させ、破棄する。その爆発を利用して相手を倒すのだ。
 これは、宝具をその魔力の限り投影し作り出すことができる神崎やかの正義の味方だからこそ出来る技能。

 そして、その爆発が終わり当たりは爆煙で包まれる。あれだけの爆発は、恐らく現在のなのはのディバインバスターにすら匹敵する威力。珱嗄の敗北かとなのは達は思った。
 だが、珱嗄はその爆煙からぼふっと音を立てて出てくる。その姿を見れば、無傷である事が分かった。あの爆発からどのようにして自身の身を護ったのかは分からないが、あの爆発を防げたという事実が神崎を含めたその場にいる全員にとって驚愕だった。

 だが、そんな驚愕は束の間。珱嗄はゆらりと笑って神崎へと接近する。神崎は近づく珱嗄の気配を感じ取り、夫婦剣をその方向へと投げ付けた。そして更に投影したのは、捻じれた剣と弓。
 珱嗄は投げ付けられた夫婦剣を弾くのではなく、柄を掴んで自身の武器とする。神崎が唱えれば爆発する危険物だろうが、珱嗄は爆発しようが関係無いと言ったばかりにその夫婦剣を両手に神崎へと近づいた。


 ―――偽・螺旋剣(カラドボルグ)


 神崎の口からその宝具名が唱えられた瞬間、空間を捻じ曲げながらその捻じれた剣を矢として珱嗄に放った。珱嗄は迫りくる矢に対し、夫婦剣を重ねる様に片手で持ちかえ自身の魔力で強化する。そして、その二枚の剣を迫りくる螺旋剣に振り下ろした。
 夫婦剣と螺旋剣がぶつかった瞬間両者が爆発する。珱嗄は振り下ろしたと同時に夫婦剣から手を放してその爆発を飛び越えた。何度も空を蹴って上昇し、模擬戦ルームの天井へとその足を付ける。

 爆発と同時、珱嗄を見失った神崎を見据え、珱嗄は天井を蹴って神崎へと近づく。神崎は天井から聞こえた風切り音に珱嗄の接近に気がついた。
 だが、その時には珱嗄は既に神崎を自身の間合いに入れていた。珱嗄は既にその足を振り上げ、神崎に振り下ろしていた。所謂、踵落とし。

「ぐっ……!」

 呻き声を上げながら、神崎は両手をクロスさせてその踵落としを受け止めた。10年前の調子に乗っていた頃なら、初撃の時点で珱嗄に返り討ちにされていた神崎は、確かに成長していた。
 そこから受け止めた足を珱嗄はすぐに引き、くるりと回って地面へと着地する。そして着地と同時、前へと蹴った。神崎は、その接近に意表を突かれ動きを硬直させた。

 だがそれの一瞬が珱嗄にとっての好機であり、神崎にとっての悪手。
 
 珱嗄は神崎の硬直の隙に、その腹へと拳を叩き込んだ。神崎は完全な隙を衝かれた一撃に直撃を喰らい、後方へとくの字になって吹き飛んだ。
 だが珱嗄はそこだけでは終わらない。吹き飛ぶ神崎に純粋な速度だけで追いつき、吹き飛ぶ先へと移動する。そしてそのまま飛んできた神崎の背中を蹴り飛ばした。

「ガッ……!!」

 神崎は、どうにか体勢を立て直して地面を削りながら吹き飛ぶ身体を止め、腹と背中に走る傷みに耐えながら更に投影した黄金の剣を構える。
 そして、更に自身のインテリジェンスデバイスを起動させてバリアジャケットを纏った。その格好は、白いロングコートに黒い軍服の様な服を下に着て、黒いズボンとブーツを履いた様な物。そして片手に黄金の聖剣を持ち、もう片手にはグローブタイプのデバイスがその手を覆っていた。キャロのデバイスとよく似ている。

約束された勝利の剣(エクスカリバー)!! そんで、アサルトバレット!!」

 神崎は片手で聖剣をふるって膨大な黄金の光を珱嗄に放つ。そしてオマケとばかりに高密度の魔力弾を珱嗄に向けて数発放った。
 だが、珱嗄はそんな攻撃に対してもゆらりと笑って対処する。そのB+程の魔力を使って、魔力弾を全てアリシアの拘束魔法【魔法殺しの鎖(マジックオブキリングチェイン)】を使って捕らえ、消失させる。そして黄金の光は障壁を張って数秒留め、その場から脱却。障壁が割れて黄金の光がその奔流を珱嗄が居た場所共々叩き付け、抉り去る。

 珱嗄はそんな攻撃からその身を既に退避させており、神崎に対して魔力弾を生み出し攻撃する。そして、その魔力弾に気を取られた神崎の後方へと自身の全速力を使って回りこむ。その速度は、神崎にも反応出来なかった。
 地面にその足を踏み込み、自身かと思う程の震脚を起こす。そしてその震脚は地面を割り、少しの亀裂を奔らせた。そして、その踏み込みと同時珱嗄の拳が神崎の背中へと叩き込まれる。音は無く、神崎の背中にミシミシとめり込む拳は、神崎のバリアジャケットを抜いてその衝撃を神崎の身体へと確実に入れた。

 そして、神崎は吹き飛ばずにその場で膝を着き、倒れ伏した。意識ははっきりしている。だが、体が動かない。何故こうなっているのかが神崎には分からなかった。
 そんな神崎をよそに、パァン! と鋭い音が響く。音を置き去りにした珱嗄の拳は、数秒遅れて拳の音を響かせた。そして珱嗄は神崎の身体を持ちあげて、抱えた。



「俺の勝ち」



 神崎が倒れてから響いたその騒々しい程の沈黙が、珱嗄のそんな短い言葉を響かせたのだった。




 ◇ ◇ ◇




「な、何が……何をしたんだ……?」

 神崎は、珱嗄に抱えられながら医務室へと向かっていた。そしてその移動中に珱嗄へとそう問いかける。実際、ここまではっきりした意識を持っていながら、体が動かせないという事実が理解不能だったのだ。

「簡単なことだよ。プロボクシングとかでも起こる様に、顎を掠めた拳が相手の脳を揺らして体のバランスを崩す様に、俺はお前の背中に拳を叩き込んでその衝撃をお前の平衡感覚を保つ場所へと伝達させたんだ。結果、脳や腰、足先、関節、様々な場所に力を入れることができなくなったお前は、立つことすらままならなくなったわけだ」

「……な……なるほど……そりゃ、敵わ無い訳だ」

 神崎は自嘲気味に苦笑した。10年間、鍛え続けた結果、強くなったとは感じていたのに珱嗄との距離が一切に縮まらない。そんな感覚を神崎は感じていた。

「まぁでも、俺に対して一対一の勝負の中、初撃でやられなかったのはお前が初めてだよ。この世界では、だけど」

「……」

「強くなったじゃないか」

 珱嗄は神崎に対してゆらりと笑ってそう言う。

 正義に(つよく)なった、主人公に(つよく)なった、英雄に(つよく)なった、強者に(つよく)なった。

 珱嗄の言葉に含まれた、そんな言葉。神崎が勝手に憧れたそんな珱嗄の言葉が、神崎の心にやけに響いた。

「……ああ、強くなったよ。なのは(・・・)達を護れる位には」

 神崎はそう言って、薄く笑った。




 ―――そして、この模擬戦を切っ掛けに、一人の少女が才能の差に絶望し始める。そして、そんな少女を待たずして事件は次々と起こるのだった。


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