小説『リリカル世界にお気楽転生者が転生《完結》』
作者:こいし()

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 珱嗄と神崎の模擬戦から数日。フォワード勢は二人の高速戦闘を目視することが出来ず、結果的に何も影響を貰う事が出来なかった。その点に関しては珱嗄と神崎もやっちったと頭の中で軽い反省をする。だが、そんな中射撃を戦闘スタイルとしており、そのため動体視力がすぐれているティアナだけはかろうじて神崎の動きを目視することができていた。残念ながら珱嗄の速度は無理だったが、元々ティアナが手本とすべき物を持っているのは神崎だ。神崎の戦闘が見れればそれで良かった。

 だが、その目視出来た事がティアナにとっていい影響を与えたという訳では無かった。

 スバルやキャロやエリオという才能もあって実力も伸びている三人と才能の差を感じ、努力しても実力が伸び悩んでいるティアナからしてみれば、神崎という才能に満ち溢れ、管理局最強という実力のある男は眩しすぎた。自身の非才を嘆き、落ち込んだ気持ちは止まることなく思考をネガティブにして行った。
 だが、そんな神崎を敗北させた男。珱嗄は、ヴィータ曰く才能よりも努力で強くなった男とのこと。故に、ティアナには珱嗄の存在が一筋の希望となっていた。

 努力であれだけ強くなれるなら、自分だってそうなれる筈だと。努力は才能に勝るのだと。

 そして、そんな悩みに苛まれる中、機動六課は通常通りに活動する。無論、仕事は回ってくる。今回、ティアナ達フォワードに回ってきた仕事は、ホテルアグスタで行なわれるオークションの警備。ガジェットが出てくる可能性があるし、出回るオークション品を狙ってやってくるかもしれない強盗を対処しなければならない。
 その為、なのはとフェイトとはやてはオークション会場に入り込んで中の警備、フォワードと副隊長陣は外の警備だ。また、神崎は中の警備のサポート、珱嗄は外の警備のサポートに配備された。

 模擬戦を見る限り、あれだけの速度で動ける二人なら問題の起きた場所への迅速な移動と行動が可能という点を考えての配備だった。



 ◇



「あまり堅苦しい格好は苦手なんだけど」

「まぁ仕方ないだろ。それに、珱嗄さんも大人なんだからそれくらい弁えようぜ」

 そう話すのは、珱嗄と神崎。身長的には珱嗄の方が高いのだが、そう差の無い二人はかなり高身長だ。しかも、神崎は言うまでもなく珱嗄もそこそこ美形に入る方だ。
 そんな二人がいつもの局員服と着物を脱いで、ピシッとした黒いスーツを着ていた。神崎はきっちりとスーツを着こなし、誠実な雰囲気を纏い、珱嗄はネクタイを少し緩ませ少しだけ緩い雰囲気を纏っていた。
 二人の周囲からの印象はまさしく正反対だったが、どちらも同じ様に周囲の女性達から好意的な視線にさらされていた。

「でもな、俺は外の警備なんだし仕事服着なくても良いんじゃないか?」

「まぁそうだけど……シャマルの嗜好だからな」

「ああ、なるほど」

 珱嗄は配置上確かにスーツを着なくても良い。だが、シャマルの趣味嗜好からして珱嗄にもスーツを着せたかったのだろう。結果、珱嗄もスーツを着る破目になったのだ。

「さて……はやて達も来たな」

「じゃあ俺は配置に付くわ」

 はやて達が受付で挨拶をしているのを神崎が見つけた瞬間、珱嗄はすばやくその場を退避、即座に配置に付くべく外へと出て行った。
 神崎はそんな珱嗄を見てため息をつくが、それもその筈。珱嗄は記憶を戻して以来、はやてとの接触を避けていた。何故なら、はやては家族を大切にする人物だ。また、なにより家族に優しく厳しい人物でもある。故に、10年間行方を眩ませ、心配を掛けた珱嗄に対して怒っていない筈がない。
 珱嗄ははやての怒りはアリシア以上に大きいと考えて接触を避けているのだ。だが、それは結果的にはやての機嫌を更に損ねる原因になっていた。

「おお零君、お兄ちゃんは?」

「あ、ああ……今外に」

「……また逃げたかあのアホ兄は……ホンマ何考えとるんやろなぁ」

 はやては顔に影を落としてにっこり笑顔を浮かべたままなにやら黒いオーラを撒き散らしながらそう言った。よく見れば青筋が出ている。それに、声がなんだかダブって聞こえた。

「ひっ……」

「お、落ち着いてはやてちゃん!」

「そうだよ、落ち着いて……」

 神崎はそんなはやてにアリシアの影を見て怯え、なのはとフェイトはそんなはやてをなだめる。珱嗄への怒りは既にゲージを振り切ってはやての身体から溢れかえっているのだ。

「……ふぅ……分かったわ、今は仕事中やし……あの馬鹿兄に対しては帰ってからにしよ」

 そう言うはやてだが、その表情は暗い。やはり両親を失ってから自身の初めての家族である珱嗄に対し、心配掛けて怒っている以上に、再会出来て嬉しいと思っているのだ。本当なら、今すぐにでも抱きしめてお帰りと言ってあげたい、心配したと泣きたい位なのだ。

「はやてちゃん……」

「大丈夫や、なのはちゃん。この仕事が終わって、無事に帰ったらあの馬鹿兄にしっかり説教したる」

「! ……嫌な予感がする」

 神崎は、ぽつりとつぶやいた。はやての言葉は、死亡フラグを呼び寄せる言葉。そして、この世界はアニメの世界だ。つまり、その言葉の効果が発揮する可能性は高い。

 そして、この嫌な予感は当たる。機動六課にとって、はやてにとって、不幸な出来事がこの任務で起こる。それこそ、はやてが珱嗄に説教するという未来が失われてしまう程の出来事が―――



 ◇ ◇ ◇



 ティアナside


「―――そう、分かった。それじゃまた」

 私は自分の配置について、同期のパートナーのスバルと念話を終えた。そして、スバルからの情報で自分の所属している機動六課の異常性を改めて思い知った。
 八神部隊長の身内で構成された部隊。オーバーSランク所持者の多さ。他のどれをとっても度が過ぎていると思う。そんな強力すぎる部隊になんで私のような凡人がいるのか?これが疑問でしかなか
った。
 なぜなら、10歳でBランク保持のエリオに、竜魂召喚という特殊な稀少技術(レアスキル)を保有しているキャロ、荒削りでも一撃必殺の力があるスバル。それに対して、なんの才も持っていない私はただのオマケでしかないのだろうか? ネガティブな思考だと分かっていても、否定する事が出来ない自分にさらに気落ちしてしまう。

 でも


 最近、気になる存在が現れた。泉ヶ仙珱嗄さん。彼の身体能力は異常だ。魔法を使わずに私達機動六課の隊長達や管理局最強と呼ばれている神崎零さんを相手にして圧倒的な勝利をもぎ取って見せた。それも、魔法を殆ど使わずにだ。きっとその裏には狂気とも言える感情に身を委ねた辛い努力をしたに違いない。
 でもそれは私に、努力で天才を圧倒できるという事実を確証づけてくれた。

 ただ、神崎さんの様な才能溢れる人を見ていると、やはり才能は必要なのかと感じてくる。非才の私には、その存在はとても眩しく見えた。

「……っ」

 努力するにも最低限才能は関与してくる。そんな事は分かってるし、理解もしている。だが、才能の無い人間が努力してはいけないなんて決まりもないし、その結果が実を結ばないなんて決まりもない。
 実際に、珱嗄さんの様に努力で実を結ばせた人がいるのだから。

「証明するんだ……兄さんの、ランスターの弾丸は……敵を貫くんだって……」

 相棒のクロスミラージュを握り締めてそう呟く。そう、兄さんはその実力を馬鹿にされ、責任を押し付けられて死んでいった。私は兄さんの魔法を周囲に認めさせるためにこうして戦っているのだ。
 その為に、皆に隠れて深夜早朝に一人で訓練を重ねている。寝る間も惜しんで努力しているのだ。


『皆! ガジェットが出現したわ!副隊長たちが前線に出て頑張ってくれてるけど、警戒はして!』

すると、シャマルさんからの連絡が入る。そして即座に副隊長達が前線に出てガジェットを破壊していくのが見えた。その勢いは圧倒的。

「す、凄い…副隊長達、強い……あれでリミッター付き……」

 シャマルさんから前線のモニターを繋げてもらって副隊長達の戦闘を見ていると、やはり自分との差を見せつけられる。守護騎士という存在はここまで凄い物なのかと。
 すると、スバル達が駆けつけてきた。

「ティア!」

「「ティアナさん!」」

 私はスバル達を見て、気持ちを入れ替える。このフォワードの中で遠距離から後方支援をするポジションにいる私は、視界を広くして的確な指示を前にでるエリオやスバルに出していかねばならない。
 ならば、才能の差に打ちひしがれている暇は無い。証明すればいいのだ、私の……兄さんの魔法の強さを。

「皆、副隊長達が前線で頑張ってくれてる! だからこっちに来たのは私達で対処していくわよ!」

『了解!』

 私はそう言ってスバル達に指示を出す。クロスミラージュを握り締め、気合を入れて動く。初任務の時だって、上手く行ったのだ。ならば、もう一度成功を収める事だって出来る筈。
 
「さぁ……行くわよ、私」

 私はそう呟いて、走り出した。



 ◇



『皆! ガジェットが出現したわ!副隊長たちが前線に出て頑張ってくれてるけど、警戒はして!』

 珱嗄はそんなシャマルの通信に、ヴィータ達が出ていくのを見送った。気配を察知すれば、ガジェットはオークション会場へ向かう様にやって来ていた。さらに、その方向を集中的に探ってみると二人の怪しい気配を感じとれた。一人は大柄な人物、一人は子供。だが、持っている魔力は中々に高かった。

「怪しい、が……今はガジェットだな」

 珱嗄はそう呟き、その足をフォワード達の方へと向ける。珱嗄のいる場所は、オークション会場の裏。フォワード達は真反対にいる。その為、結構掛かりそうだと考える。

「ま、大丈夫だろ。フォワードは着実に強くなっているし、ヴィータ達もいるし」

 珱嗄はそう考えて、呑気に歩く。

 だが、その考えが結果的に不幸な出来事を呼び寄せる。その不幸の凶刃は少しづつ、機動六課に、珱嗄に近づいていた。

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