小説『リリカル世界にお気楽転生者が転生《完結》』
作者:こいし()

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 あれ? あれは誰だっけ? 俺はそんな疑問をヴィヴィオがやってきた翌日、考えていた。時刻は朝。フォワード陣は朝の訓練をしていた。だが、今までと違う事がある。4人のフォワードに1人増えているのだ。紫色の長髪に、何処かスバルに似た顔立ち、装備しているデバイスもまたスバルと同様の物だった。
 俺はしばらく彼女を眺めながら、原作知識を辿ってみた。すると、彼女の名前はギンガ・ナカジマ。スバルの姉である事が分かった。

「パパ、どーしたの?」

「んあ? ああ、何でもないよ。少し気になる事が有っただけだ」

 現在、肩車でヴィヴィオを担いでいる俺。ヴィヴィオの服は未だにバリアジャケットのままだ。どうやら服に付いては俺とお揃いだからか気にいった様で、喜んで着こなしている。
 あの後、フェイトがヴィヴィオに付いて聞いた来たので、ありのままを話しておいた。故に、フェイトから六課内にヴィヴィオの事は知れ渡っている。とりあえず、俺が親代わりに世話をする事を伝えておいた。ヴィヴィオが俺をパパと呼んだ事もあり、それに付いての細々とした事務処理は全て子供好きのフェイトが嬉々としてやってくれた。

「さて、ヴィヴィオ。何をしようか」

「んー……分からない」

 ヴィヴィオは困った様にそう言った。多分、生まれたばかり故に、どんな遊びがあるのかも分からないのだろう。昨日も、昼食やアイスを美味しそうに食べていたが、始めてみる様な顔をした後、おそるおそる一口目を口に運んでいた。美味しいと分かった後は結構パクパクと食べていたがな。
 といっても、今日の朝食では俺と同じ物を出したのだが、俺が食べると何の疑いもなく食べていた。どうやらあの戦闘以来、俺への信頼はかなり高くなったようだ。

「なら少し俺と散歩でもしよう。但し、普通の散歩じゃない」

「?」

 きょろんとした顔を浮かべるヴィヴィオだが、俺はそんなヴィヴィオに対してゆらりと笑う。そう、俺がヴィヴィオに提供するのは唯の散歩じゃない。俺が出来る事を活かした少し特別な散歩。
 予想が付いている者もいるかもしれない。俺は、此処まで度々やって見せた事がある。


 空中歩行


 俺が提供するのは


「空の散歩だ」


 俺は空を指差して、ヴィヴィオにそう言ったのだった。




 ◇ ◇ ◇




「わぁああ!」

「どうだヴィヴィオ」

「凄い! 凄いよパパ!」

 俺は空を駆けて空中を散歩していた。戦闘時の様に唯走るのではない。蹴る時だけは速く蹴って宙に滞空し、ふわりと浮かぶ。ソレを繰り返す。例えるならばワンピースの月歩。落ちる前に蹴る。それだけだ。
 そうして空を掛け、気付けば既に標高230m。高さ的には現実世界の東京タワーの3分の2あたり。下を見ればそこには機動六課の隊舎があり、チカチカと訓練しているフォワード達の魔力光が見えた。

「気持ちいいだろ? でもなヴィヴィオ。この先、お前は自分の力でこの景色を見られるんだぜ?」

「そーなの?」

「ああ、きっと出来るさ。なんたって俺の娘だからね」

 そう、嫌でも出来る。俺の娘以前に聖王の正式なクローンだ。空を飛ぶくらい、簡単だろう。それに、魔力的な素質で言えば、アリシア以来の才女だ。いよいよ空飛べなかったらおかしい。

「そっかぁ……えへへ」

「さて、そろそろ戻ろうか。魔法を使わない体術で高い所にいるのは、肉体的にも余り良くない。慣れてなければ酔う事もあるしね」

「うん!」

 俺はヴィヴィオを連れて下へと降りていく。近づく地面に足を伸ばし、上手く衝撃を逃がして着地する。かなりの高さから落ちたにもかかわらず、その足元から発した音は、トンっという乾いた小さな音だった。

「よし、それじゃあヴィヴィオ。今度はなのはちゃん達の訓練を見に行こうか」

「な…のは…?」

「ああ、知らなかったか。なのはちゃんって言うのはね―――」

 俺はヴィヴィオに六課の事を教えながら、訓練場へと歩を進めたのだった。



 
 ◇ ◇ ◇




「ふむ……やはり彼には敵わなかったか……」

「どうしますか、ドクター」

「どうやら、彼は身体的な強さを持ってはいるが、魔法面も同等に強力な武器になっているようだ。それも、私が新開発したまだ解明されてもいない【超重力効果の珠玉(グラビティボール)】をあんなにも一瞬で解除してしまった所を見ると……いやはや怖いねぇ、身体能力は異常、魔法面は災害レベルと見ていい。とすると彼に対する手段は殆ど無いと言って良い」

 ジェイル・スカリエッティは珱嗄の戦闘データを見ながら考える。今までに見ない最高の素体である珱嗄の肉体は、彼にとってはとてつもなく研究心をくすぐられる物だった。
 だが、珱嗄を捕らえるにはそれこそ、世界一つを相手にするくらいの準備が必要だ。それによる被害を考えると、手を出すのは効率的ではない。

 だが、ジェイル・スカリエッティにとって最大の不幸は、その珱嗄がヴィヴィオを守る立場に立ってしまった事。レリックを回収する機動六課という組織に、珱嗄がいる事自体不幸だったのに、聖王の器すらもその手の内に握られてはたまったものではない。
 レリックと聖王の器。この二つがジェイル・スカリエッティの目的の物なのだから。

「さて……どうしたものか」

「……それはさておき、ドクター。ナンバーズの調整も着実に進んでいます」

「ああ。そうだね……可及的速やかに調整を済ませてくれ」

 ジェイル・スカリエッティは思考する。珱嗄をどうにかする策を練るべく。そして、その天才と呼ばれた頭脳を使って捻りだす。聖王の器、ヴィヴィオを奪還する方法を。

「仕方ない……こうなったらまずは、彼と聖王の器を引き離す所から始めるとしよう」

 ジェイル・スカリエッティはそう呟いて、とある人物へと通信を飛ばした。



「ああ、私だ。少し頼まれてくれるかな? ――――レジアス・ゲイズ中将殿?」




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