「ほら、やってみ?」
「うん……むむむ〜!」
『むむむ〜!』
『出来てる出来てる、凄いぞヴィヴィオ』
現在、俺はヴィヴィオに念話を教えていた。訓練を見学していた俺とヴィヴィオだが、その中で全員が魔法を使う様子を見て、俺が空を飛べるようになるだろうという事を言った事も有り、ヴィヴィオは魔法が使いたいと言い出した。
まぁ、どうしても駄目という訳ではないので、危険の無い念話だけでも教えてやろうと思い、教えてやった訳だ。すると、簡単な魔法とはいえ未だに幼いヴィヴィオは少し教えただけで念話を習得してしまった。とはいえ、俺との念話だけだが。今のヴィヴィオの念話は俺が少しサポートしてやっている部分もある。完全に一人で念話を飛ばすには少し時間が掛かるだろう。
「出来た出来た!」
「おお、流石は俺の娘だ」
褒めると、ヴィヴィオは嬉しそうににっこりと笑う。いつものように、心が休まる様な護りたくなる笑顔を浮かべるのだ。その度、俺は思う。本当に柄でも無いなぁと。この世界で初めて、護りたい物が出来たんだろうと、そう思う。
「相変わらず仲良いな。珱嗄さん」
「神崎君じゃないか」
「かんざきにぃ」
「おう、こんにちはヴィヴィオちゃん」
やって来たのは神崎君。原作知識を持っている同士、ヴィヴィオの保護に対してかなり情報を持っている人物だろう。ただ、俺がパパと呼ばれている事に付いては少しだけ羨ましかったようで、若干不貞腐れていた。
まぁ関係は無いな。俺が呼べと言った訳じゃないし、元々助けたのは俺だしね。目的はレリックだったけど。
「とはいえ、これからどうしようか」
俺は神崎君にそう言う。すると神崎君は困った様な顔で苦笑する。そして真剣な面持ちで言った。
「ああ、俺の原作知識は――――此処で終わりだからな」
そう、神崎零の原作知識は此処で終わりなのだ。この先は何があるか分からない。どうやら彼はリリカルなのはをアニメで見ていたようで、ヴィヴィオを保護するフォワードの休日回を見終わった所で、転生する羽目になったらしい。
それはつまり、俺の原作知識もそこで終わりという事。ここからは、どこで何を誰が起こすか分からない上に、レリックの使い道も分からない。
「でもま、そっちの方が―――面白い」
「!」
俺はゆらりと笑ってそう言う。
そう、だからなんだというのだ。原作知識なんて、元より俺は持っていない。それに、先に起こる事が分かっている事は、つまらない。やはり未来は未定であるべきだ。なにより予定のある未来なんて面白くないのだから。
「アイツらの目的はなんだか知らないけどヴィヴィオとレリックなんだろう? なら、どっちも護ればいい。それにこっちの戦力を見てみろ。俺とお前は転生者で、アリシアはそんな俺から魔改造を受けたチート、はやてもその気になれば内側から力ずくでリミッターを破壊出来る魔力量を保有しているし、伊達に500年分のベルカの魔法を全て習得しているだけあってやっぱりチートだ。なのはとフェイトも原作通りにエース級だし、フォワードも主要キャラなだけあってかなり可能性を秘めてる。負ける要素は見当たらないな」
俺はそう言った。すると神崎君はその言葉を聞いて安心した様に笑う。
「確かにそうだな。俺達はともあれ、珱嗄さんがいれば負ける気はしねぇや」
俺と神崎君は笑いあう。ヴィヴィオはそんな俺達を見て、訳は分かってなさそうだがつられて笑った。そう、俺達は負ける要素は無かったのだ。心配する要素は無い。
だが、これが油断。俺がティアナに言った慢心という物だ。確かに、俺達に敗北の要素は無かった。そう、戦闘における『敗北』の可能性は無かったのだ。
しかし、この時俺達は身落としていた。勝負は何も、戦闘だけで構成された物ではないのだと。敗北の要素は無かったとしても、俺達には『出し抜かれる』可能性はあった。
策と策のぶつかり合い。武ではなく知での勝負。俺は、いや俺達はその事を身落としていた。
故に、俺はこの時全くと言って良い程思わなかったのだ。まさか、あんな結果になるなんて―――
◇ ◇ ◇
「地上本部の護衛任務?」
「そ。レジアス中将達による地上本部公開意見陳述会が開かれるらしくてな。うちらはそれの護衛や」
「なるほど」
午後の事、はやてはそう言って俺達に任務の説明をする。地上本部へ行くのは部隊長八神はやて、スターズとライトニングの隊長、なのはとフェイト。それにその下に付いているフォワード全員。あとは俺とアリシアだ。神崎は用心の為に六課に残る事になった。
「ヴィヴィオは流石に連れてけないか。神崎君、任せた」
「任された」
地上本部など、敵陣にわざわざ宝引っ提げて乗り込む様な物だ。当然、宝であるヴィヴィオは連れていけない。少しぐずるかもしれないが、なんとか宥めるとしよう。
「ん、それじゃ今日の夜にヘリで出るから各自準備しといてな」
『了解』
「ほな解散や」
はやての言葉で散っていく俺達。神崎君と共に俺はヴィヴィオの下へと行く。隊舎の談話室で大人しく待っているヴィヴィオにどうにか仕事で離れる事を認めさせないといけない。
「さて、どうしたものかな」
呟き、ゆらりと笑ったのだった。