小説『リリカル世界にお気楽転生者が転生《完結》』
作者:こいし()

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 俺は今、地上本部の護衛の為、地上本部に居る。ヴィヴィオの説得には随分と手間が掛かったが、フェイトの上手な子供の扱いによって説得に成功した。神崎が残る事も有り、寂しくは無い様だ。それに、すぐに帰ってくると約束したからね。ヴィヴィオは強い子だから、2,3日位なら大丈夫だろう。
 神崎君もいるから危険は少ないだろう。彼を倒していけるだけの能力がナンバーズの彼女達にあるとは思えないし。

「といっても、暇だよねぇ」

 地上本部の屋上。かなりの高さが有る故に随分と冷たい風が吹き荒ぶ場所だ。俺はそこで胡坐を掻いて唯景色を眺めていた。原作を予想するなら、機動六課という主要メンバーが護衛しているのだから、高確率で地上本部は襲われるだろう。
 が、その結果原作でどうなったかは予想するに難くない。戦闘した感想からするとなのは達原作キャラがナンバーズと戦闘した場合、わずかな差でナンバーズの方に軍配が上がる。だがまぁその時の気持ちの問題でアニメは勝敗が変わる。さらにいえばこの世界、リリカルなのはみたいに魔法少女系のアニメは特にその傾向が強い。

 負けるわけにはいかない! という台詞が出たらフラグだ。もはや手は無いという状況は変わらず、満身創痍な癖に、火事場の底力なのか計り知れない力を出して逆転する。怖いね、ほんと怖いよ。

「……レジアス・ゲイズ、か。なるほど、中々に良いキャラしてるね。歴戦の勇士だの言われてるみたいだけど、裏じゃそこそこ黒い事やってるみたいだし」

 ゆらりと笑ってそう呟く。管理局という物は中々に腐ってる様だ。そこに所属している俺も俺か。臭い物には蓋をって事かね、上層部はその蓋にレジアス達の功績と六課みたいなまともな部署を置いてる訳か。
 傍から見れば滑稽極まりないな。

「さて」

 立ち上がる。風が吹いて俺の着物の裾をゆらゆらとはためかせた。時刻は夕刻、空も茜色に染まって来た頃だ。既に地上本部の意見陳述会は始まっている。警備もより一層気合を込めているだろう。
 だからこそ、襲うのならこの時間を見逃すはずがない。そしてそれを裏付けるように、俺の気配察知範囲に奴らが入ってきた。

 ナンバーズ数名

 ジェイル・スカリエッティによって作られた小娘達がやってきた。


「いいね、この展開は……面白い」


 

 ◇ ◇ ◇




 まず最初に地上本部を襲ったのは、管理局サーバーへのクラッキング。珱嗄に返り討ちされた少女、クアットロのIS、シルバーカーテンによる電子の織りなす電脳攻撃だ。
 少しづつ機能を落とされ、防御機能を展開させる管理局に対し、同じく返り討ちにされた一人、セインのディープダイバーによる内部への爆破。さらに、調整の終わったナンバーズの一人、チンクによる供給管制室の爆破、ディエチの砲撃、協力者であるルーテシアの召喚魔法によるガジェットの登場等々、多重攻撃が行なわれた。

 俺はそんな攻撃を受ける中央本部の屋上に居る。動けばどうとでも出来るだろう。ナンバーズの場所はそれぞれ把握しているし、今攻撃をしているナンバーズ以外にもフォワード陣に近づくナンバーズもいる。

「……おかしい」

 そうおかしいのだ。状況が、では無い。今の俺の心境が、だ。普段通りならばこの展開は面白く、心踊る心境になる筈なのだ。でも、俺の心境はどこか焦っている様な、じれったい様なそんな感じ……嫌な予感がすると言った方が良いかもしれない。

「……とりあえず、止めるとしよう」

 嫌な予感が膨らむ。一体何が起きようとしているのか分からないが、現状起きている事を阻止しないといけない。まずはまぁ……電子機能をダウンさせているクアットロ当たりから止める事にする。

「あらあら、来ましたねぇ……この前はどうも」

「ああ、尻尾巻いて逃げ帰った割には余裕だな。随分と図太い神経を持ってるみたいだな」

「なっ……ふん、そんな事を言ってられるのも今の内ですよぉ?」

 クアットロはくすくすと笑う。何がおかしいのか気になる所ではあるが、用心するに越した事は無いだろう。すると、横から砲撃が迫ってきた。以前と同じ砲撃、おそらくディエチの砲撃だろう。
 前と同様に素手で弾き飛ばした。

「やっぱりこの程度で潰されてはくれませんか。まぁ予想通りです」

「……何を企んでる?」

「ふふふ、その顔が歪む様を見てみたいものです。なので教えてあげましょう!」

 楽しげに笑うクアットロは何処か憎たらしい。だが、確実に俺に対して悪い情報を持っているようだ。その口が吊り上がり、楽しそうに、面白そうに、愉快そうに言った。そして、俺はその言葉に言葉を失った。



「貴方の大事な大事なヴィヴィオちゃん。無事にまた会えますかねぇ?」




 ◇ ◇ ◇




「くっ……!」

「………」

 機動六課に残る神崎は、2人のナンバーズと戦っていた。背後にある機動六課は既にガジェットによって壊滅的に破壊され、炎によって炎上している。地面にはシャマルとザフィーラが沈んでおり、神崎自身もまた満身創痍であった。

「不味いな……」

「そんな身体で勝てると持ってるの?」

「はっ……生憎と、俺は恩人からこの場所と大事なお子さんを任されてるんでね」

「でも、勝てる要素は無い。お得意の【無限の剣製(アンリミテッドブレードワークス)】も封じられ、魔力も尽きた。そんな君に僕を倒せる筈がない」

 そう言うのは、ナンバーズの一人。オットー。男だか女だか分からない容姿をしている人物だ。
 
 神崎は、そんなオットーの言葉に息を呑む。確かに、【無限の剣製(アンリミテッドブレードワークス)】は封じられ、それにより魔力もほぼ尽き掛けている。
 珱嗄に対する超重力効果の珠玉(グラビティボール)の様に、神崎もまた対抗策を練られていたのだ。それが、バインド魔法とリミッターを軸に作りあげたマジックアイテム。拘束の効果を消失させ、リミッターの制限の効果を特化させたアイテム。その名も、【戦場に散る剣士(リストレインストラグラー)】。
 対神崎零用の制限アイテムだ。

 その効果は、AMFとほぼ同じ。違うのは、魔力とは別に稀少技術(レアスキル)の発動を抑制する点だ。コレのせいで、神崎は投影を発動出来なかった。そして、使いなれない魔法を使って善戦するも戦況は圧倒的に敗色濃かった。


 だが、神崎零は諦めない。


「……確かに、俺にお前を倒す策は無いし、魔力も尽きた。でもな、俺は諦めないって10年も前にあの人に誓ったんだよ」

「?」

「だから」

 神崎は、そう区切って歯を見せてギラリと笑った。その眼には未だに闘志が煌めいており、その笑みには絶対に諦めないという気概が輝いていた。
 そして珱嗄の使った事のある、なのはのスターライトブレイカ―にも使われる周囲の魔力を収束する技術を使う。集めて集めて集めて、自分の許容量の限界を超えて更に集める。そして、自身に効果を及ぼしている特殊なAMFを無理矢理押しのけて、自分の両手に夫婦剣を投影した。




「俺は最後まで歯向かうぞ。構えろ、悪あがきって奴を見せてやる」




 神崎はそう言って、オットーへ向かって飛び出した。




 ◇ ◇ ◇




 不味かった。油断していた。慢心していた。そのせいで見事に出し抜かれた。空を蹴って駆ける。全力で駆けて、機動六課へ戻る。中央本部がどうなろうと知った事ではない。ヴィヴィオが危険なのだ。
 神崎君は実力が高い。だが、失念していた。俺に対してあのマジックアイテムを持ってきたジェイル・スカリエッティが、管理局最強と名高い神崎零に何の対策もないとは思えない。

「!」

 見えてきた機動六課は、クアットロの言っていた様に酷い惨状だった。燃えている。そして遠目だが、そこにはキャロとエリオの乗るフリードが見えた。おそらくアイツらもロングアーチからの連絡で機動六課に向かったのだろう。
 そして、その二人が見る先、そこには意識の無いヴィヴィオを連れたルーテシアがいた。そしてその隣にナンバーズもいる。ソレを見た俺は更に足に力を込めて空を蹴る。もっと、もっと速く。


 エリオが飛び出し、ナンバーズに落とされた。


 まだ遠い


 キャロがバインドで捕らえられ、地に落ちる。


 まだ遠い


 ガジェットが俺に向かってくる――――



「邪魔だぁあああ!!」



 向かってくるガジェットを破壊して進む。


 まだ遠い


 先程より進んだおかげで、見えてきた物も有った。機動六課の前に、シャマルとザフィーラ、そして神崎零が沈んでいた。その両手は砕けた夫婦剣を握り締めており、その姿はまるでまだ戦おうとしている剣士に見えた。

 
 もう少し


 ルーテシアとナンバーズの一人が俺に気付いた。


 もう少し


 転移魔法を展開し始めた。そしてナンバーズの一人がガジェットと共に機動六課にとどめの一撃を放った。六課が崩壊する。


 あと一歩


「っ……ヴィヴィオぉぉぉぉぉ!!!!」

「! ……ぱ、ぱ…? パパぁ!」

 
 ヴィヴィオが目を覚ました。俺は後少しの一歩を蹴った。手を伸ばしてヴィヴィオの身体の何処でもいい、何処かを掴めればそれでいい。とにかく掴むんだ。
 転移魔法が発動し、ヴィヴィオの身体を光に包んだ。

 同時、俺の身体に衝撃が走る。背後からの攻撃、視線を移せばそこにはナンバーズの一人が緑色の光を放っていた。そのせいで、俺の身体はヴィヴィオから遠ざかった。伸ばした手は届かない。

「く…っそ……!!」

 瞬間、ヴィヴィオの顔を見ると、俺は目を見開いた。笑っていたのだ、ヴィヴィオは。
 そして、ついこの前に教えた念話を飛ばしてきた。



『パパ……きっと助けに来てね……』



 念話にもかかわらず、震えた声。精一杯勇気を振り絞って耐えているのが分かった。自分が連れ去られる事も分かって尚、俺にそう言ったのだ。俺はその勇気に、歯を食いしばって返した。



『ああ……待ってろヴィヴィオ、すぐに助けに行く――――お前の父親は最強だからな』



 ヴィヴィオは俺がそう返すと、ニコリと笑って消えていった。瞬間、悔しさに歯噛みする。ああ言った物の、この場で助けられなかった事が悔しかった。
 だが、今は悔しがっている場合じゃない。そう考えて、振り返る。そこに居るのは、俺を攻撃したナンバーズ。

「―――」

 空を蹴って、肉薄する。

「!?」

「くたばれ」

 腹を蹴って、吹き飛ばす。だが、そいつは吹き飛んだ先に逃げた。追撃しようと追うが、大量のガジェットが行く手を塞ぐ。

 そして、ガジェットを全て破壊し尽くした後には、ナンバーズの一人の姿はもう見えなかった。



 ◇



「………」

 飛行魔法で空中に滞空し、空を見上げた。

 惨敗

 その言葉が今の俺にはピッタリだった。自分の実力に慢心してこんな結果になった。まさしく惨めな敗北だ。

「ふー……」

 しばらく悔しさが纏わり付いた後は、ふつふつと嫌な何かが込み上げてくる。拳を握りしめ、無意識に歯を食いしばっていた。

「やってくれるなジェイル・スカリエッティ。……俺の娘を誘拐することが、どれ程の悪行が教えてやる」

 今はもう、ヴィヴィオは俺のバリアジャケットを着ている訳ではないから、居場所も分からないし、原作知識もないから拠点も分からない。だから今すぐには追いかける事は出来ない。

 だが


 ――――お前は俺を怒らせた。今はただ、それだけでいい。


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