小説『リリカル世界にお気楽転生者が転生《完結》』
作者:こいし()

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 ヴィヴィオは今、四肢をバインドで手術台の様な物に拘束され、動けずにいた。だが、泣き叫んではいない。瞳には涙を浮かべているが、その視線は気丈にスカリエッティを射抜いていた。ガシャガシャとバインドを抜けようと念話の要領で魔力をバインドに通して破壊しようとするが、上手く扱えていない故に魔力は四散していくばかりだ。

「ふふふ、これから君にはレリックを同化させて完全な聖王の器となるのだ」

「っ……!」

「助けも来ないので、泣いても無駄ですよぉ?」

 クアットロがヴィヴィオに人懐っこい、しかし凶悪な笑みを向けてそう言った。ヴィヴィオはそんなクアットロに対して、強気に言い返す。

「来るもん。きっとパパが助けに来るもん!」

「パパ? ああ、あの人ですか。期待するだけ無駄ですよ」

「きっと、きっと来るもん……」

 ヴィヴィオは自分に言い聞かせるようにそう言う。そして、怖い感情を勇気で押しのけ、涙を堪えてスカリエッティが近づけてくるレリックを睨む。言ってる事は分からないが、そのレリックを自分の中に入れるという事は分かった。
 それでもなお、泣かない。自身の父は最強なのだ。すぐに助けに来る、そう信じて。

「君は私の最高傑作になるのだよ……!」

 ジェイル・スカリエッティはそんなヴィヴィオに対して、狂気の笑顔を向けたのだった。



 ◇ ◇ ◇



 そんな半面、機動六課は対策本部を隊舎から航空艦アースラへと移動していた。傷ついたメンバーは治療に専念、無事な者は次の作戦まで待機していた。誘拐されたのはヴィヴィオの他に、ギンガ・ナカジマがいる。
 フォワード陣や隊長陣は、誘拐されたヴィヴィオとギンガの親族であるスバルと珱嗄に対してとてつもなく触りにくい心情だった。家族を失った事で傷ついているのではないかと考えたからだ。

「大丈夫やろか……お兄ちゃん」

「うん……あんなにヴィヴィオと仲良かったもんね」

「……」

 アースラのミーティングルームで、なのは達は重々しい雰囲気の中そう話していた。はやてを始めとして、なのは、フェイト、アリシア、ヴィータ、シグナム、スバル抜きのフォワードがそこにいた。

「スバルも、少し落ち込んでましたし……」

「きっと、一番辛い筈だよね……」

 ティアナの言葉にアリシアがそう言った。此処にいる物は全員家族関連で色々と思い過去を持っているので、家族を失った痛みや辛さは理解出来るのだ。故に、珱嗄とスバルの心境は予想できてしまう。
 そして、そんな彼女達だからこそこうしてその悲しみを分け合うが如く落ち込んでいる。


 と、そこへ珱嗄がやってきた。



「あ、珱嗄s―――」

「何を沈んでるんだお前ら」

「え?」

 珱嗄はそう言って呆然としている全員を見下ろした。その表情は、今まで見た事もない様な真剣な表情。青黒い瞳は鋭く光り、口元は本当に珍しく、笑っていなかった。
 着物が揺れ、視線が全員を射抜く。

「そんなことしている暇があったらあのクソ科学者の居場所を突き止めろ」

「あ、あの珱嗄さん? 大丈夫なんですか?」

「何が? 俺としては一刻も早くヴィヴィオを迎えに行きたいんだけど。ついでにスカリエッティ殺す」

 珱嗄はさらりと言う。ヴィヴィオが攫われる直前した約束を、珱嗄は果たそうとしていた。そして、それによって引き締められた真剣な表情は珱嗄が滅多に見せない表情だった。
 こんな状況でなんだが、なのは達はそんな珱嗄の変貌ぶりにギャップを感じ、しばらくの間見惚れていた。だが珱嗄の言葉にはっと気が付き、慌てて答えた。

「そ、そうやね。えーと、スカリエッティの拠点に関してはロッサとシャッハが探してくれとるし、見つかるのも時間の問題や。ヴィヴィオの居場所はまだ分からんけど、近い内に分かると思うで」

「ふーん……ま、いいや。俺今ちょっと怒り心頭でスカリエッティを殺したくてしょうがない。なるべく早く見つけてくれ」

 珱嗄はそう言って部屋を出る。そして扉が閉まった瞬間、その場の全員はほぅっと肩の力を抜いた。珱嗄の雰囲気はそれほどまでに重かったのだ。

「珱嗄さん、怒ってましたね」

「あんな兄ちゃん始めてみるで」

「なんか私、ナンバーズのあの子達が不憫に思えてきた……」

 上からティアナ、はやて、フェイトだ。全員、怒った珱嗄に対して感想を抱いた。ただ単純に、その心が感じ取った感情



 ―――スカリエッティは怒らせてはいけない人物を怒らせた。と



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