小説『大切なもの(未定)』
作者:tetsuya()

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 一週間後、誕生日を迎えた。年齢は二十一歳から一つ重ね、二十二歳になった。

 誕生日が休日と重なったため、ほのかがアルバイトを休んで、誕生日を祝いにやってきてくれた。親友に祝いに来てもらえてとっても幸せだ。

 ほのかは誕生日を盛大に祝うため、バースデーケーキなどを買ってきてくれている。ものを全部確かめたわけではないが、確実に合計一万円は超えているだろう。これだけ盛大に祝ってもらうと親友といえど申し訳ない。いつかお返しをせねば。 

 学生である彼女は自由に使えるお金はほとんどないだろう。誕生日を見据えてこつこつとお金をためていてくれていたのだろうか。すごく親友想いだ。

 父の生前、グッズなどに無駄投資をしていた弟とは全然違う。ああいったものは、優先順位はきわめて低いくせに金は無駄にかかる。コレクションしようものなら、百万円はゆうにくだらないタイプのものもある。

 親友に祝ってもらう誕生日は今回が人生初だ。言葉にできないほど感慨深い。さらにすごいプレゼント。もう死んでもいいと思えるくらい幸せに包まれていた。

 それなのにすごく複雑な心境。一年間に一回という特別な日、最高の親友、最高のプレゼント、最高のシチュエーションが揃っているのにどうしちゃったんだろう。おかしいな。佳代とほのかのあいだに微妙なずれが生じているのか。

 今すぐ気持ちを入れ替えられそうにない。トイレと適当な理由をつけてほのかの傍を離れようとした。こんなこと今まで一度だってなかった。本当に本当に本当にどうしちゃったんだろう。今日に限ってすごくおかしい。親友が嫌いになっちゃったのかと自分を疑った。

 まさかとは思うが、来年から離れる親友に恨みつらみを持ってしまっているのだろうか。だとしたら心の狭い人間だ。彼女の歩む人生は、彼女に選択権がある。それを奪おうとしているなんておかしい。他人を束縛する権利は佳代を含め、全世界共通の人間に与えられていない。万人共通で生まれながらにして自由に生きる権利を持っている。

 想定外のことにも、ほのかは動揺せず、誕生日の用意が終わり次第呼びに行くからゆっくりしていてねと優いく声をかけてくれた。

 両手を合わせてゴメンと合図してから、佳代は彼女の視界から消えていく。

 ひょっとしたことから楔が打ち込まれなければいいなと危惧している自分がいた。こんな些細なことで佳代とほのかの友情が崩れるわけはないとわかっているのに、気が動転しているためか冷静になれない。本当に本当に本当に本当にどうしちゃったんだろう。わからなくて涙がぽつりぽつりと落ちてきた。

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