小説『大切なもの(未定)』
作者:tetsuya()

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 ほのかはなお泣き続けている。泣き止む気配はどこにもなかった。

 心のない人は、泣き続けているほのかを泣きベソかきで、どうしようもない、心の弱いなどと非難するだろう。
 
 佳代はそんなふうにちょっとでも思った人に決して心を開かない。重要な話や秘密話を打ち明けたりしない。

 お互いに弱いところを認め合ってこそ交友関係は成り立つ。弱い部分に手を差し伸べてもらえるから頑張っていこうと思える。支えられて生きているという原点を忘れてはならない。

 そんなことを教師のごとくいっているが、佳代にその資格がどこにもないのはわかっている。自分基準を無理矢理、ほのかに当てはめようとしていた。自分と相手は違うはずなのにどうして考慮しなかったんだろう。 
 親友だからこそ打ち明けられない悩みがあって然るべきなのに、ほのかは全部自分に相談してくれていたんだと思っていた。楽観的にとらえすぎていた。

 ものごとを普段から楽観的に考えるのは悪くない。どうでもいいことは忘れなければ、ストレスで自分が潰れてしまう。

 それでも真剣にならなければならないこともある。すべてを適当にやっていては、大事な人まで逃げていってしまう。親友や恋人には多くのものを捧げよう。

 このままずっと泣かせてやりたいが、そういうわけにもいかない。佳代は自分の日を素直に詫びた。

「ほのか、ごめんなさい」

 完全無視されたかのように、ほのかは泣き続ける。心にずしりと重い重圧がのった。

 現状を打開するために先程のことを伝えた。嘘だと思われないよう、表情、身振り手振りを交えて力説する。

「私もさっき一人で同じことを悩んでたの。ほのかとずっ、と一緒にいたいけ、どいられな、い葛藤で苦しんでた」

 声が途中で潤んでしまった。歯切れが悪く文章としての体を成していなかった。
 
 ただ、機械的でなかったのが結果的に功をそうしたのかもしれない。ほのかがピタリと泣きやむ。どうやら想いが通じたようだ。

「口からでまかせじゃないよね。信じていいんだよね」

 親友にそういわれると心臓を矢で射抜かれたかのようだった。それくらいすごく重くのしかかってくる。誰にどれだけ疑われてもかまわないが、ほのかには信じていてほしかった。

 平常心を再び保てなくなりそうだ。だけど歯を食いしばってぐっとこらえる。ここで泣いてしまえば、友情がすべて崩壊してしまいかねない。ちょっとのすれ違いで取り返しがつかなくなるのは嫌だ。ほのかとは太い絆で結ばれていたい。ほのかを絶対に失いたくない。あえなくなったとしても永遠に心につなぎとめておいてもほしい。

 佳代は大きく息を吸い、全身全霊をこめていった。演技力に磨きをかけた役者の迫真の演技と全く違い、心底から一緒にいたいとのを伝えた。全身全霊をかけていう機会は一生ない、それくらい力がこもっていた。

「ほのかはかけがえのない大切な親友だよ。私をずっと支えてくれて、励ましてくれて・・・・」

 頭が真っ白になって続きがでてこない。先程はぐっとこらえていた涙も涙腺をつたって流れてくる。佳代は立つ力を失い、床に崩れた。もう終わりだと思った。

 数十秒後、背中から感触が伝わってきた。ほのかの手だ。優しくて、温かくて、包み込んでくれるようで、美しい。

 佳代が仕事やプライベートで失敗したとき、よくこうしてもらってたな。こうすると落ち着くからと人目も憚らずに、お願いしたこともあったっけ。

「ありがとう。佳代の思いは確かに受け取ったよ。疑ったりしてごめんなさい」
 
 再び言葉に詰まる。

「私のこと、許し、てくれる?」

「うん、これからもずっとよろしく。離ればなれになっても友情は永遠だよ」

 大事なものをひとつ失わずにすんだ佳代は、ほのかに心から感謝した。ほのかは佳代が泣き止むまで背中を優しくさすってくれた。

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