小説『大切なもの(未定)』
作者:tetsuya()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

文江と電話を終えた佳代は、将来について考える。夜の街は全然肌に合わなかったが、いろいろなところをうろついていけば、見返りはきっと得られる。気付いていないだけで、身近なところに存在している。

 昨日のようにいろいろなところに、手当たりしだいにうろつくのは効率がいかんせん悪い。ある程度決めてからやらないと結局、遠回りになってしまう。きちっとした手順を整えてから外出しよう。時間は有限で、あまり無駄にしたくない。社会人は、学生時代に比べて自由に使える時間は圧倒的に少ない。

 彼女は高校時代、アルバイトをしつつ、余った時間を有効に使うように心がけた。どうすれば効率よく勉強して、友達とも遊べるか知恵を振り絞っていた。忙しい生活から、プライベートな時間はすごく贅沢だと感じるようになった。失えば二度と戻ってこない。失ったものに比例して人生はどんどん悪くなっていく。お金、家族、地位や名誉など数えればきりがない。

 ただ、有益無益の基準は極めて曖昧で、必要ないと思ったことで、大きなヒントを得ることが少なくない。、失敗や無駄に費やしたものから発見できることもたくさんある。無駄だと決め付けない柔軟さも必要だ。

 視野を狭くすればするほど、自己視点に偏ってしまえばしまうほど、失うものが多くなる。昨日の夜遊びだって、無駄だと決め付けないでやってみたからこそ、肌に合わないと気づけた。あれもまた彼女の貴重な体験である。

 人生は得ることより、失うことの方が圧倒的に多い。一日のうち一分、有効に使えていればいいと思えるくらいに。失ったものをひたすら取り戻すために一生を費やす。そしてまた失う。いたずらに時間だけが過ぎていき一生を終える。自分は思い残すことはないといって死ねるのはごくごく少数だ。他人からはすばらしい人生だったねといわれても、本人は納得しない。更なる高みを追求できたと、後悔している。
 
 迷宮にはまってしまいそうなので、一旦ここで切ることにしよう。

頭を切り替えていろいろな職業について自分でイメージする。佳代は自分の能力と性格から、適切でないものを一つずつ減らしていく。
 
 最初にないと思ったのは消防士だ。彼女は運動音痴ではしごを登れない。さらに家事を目の当たりにしたとき、火に怯えてしまって冷静に消化することもできない。人命救助はとっても魅力的ではあるが、適職では断じてない。鈍足が国を背負って短距離走に出場できないのと同じ理論だ。

 警察官もダメだ。猛スピードで追跡できたとしても、犯人に手錠をかけることを躊躇してしまう。自由を束縛するのに、耐え難い苦痛を感じてしまう。『一人ひとりの尊厳を大事にする』と書かれていた高校時代の校訓を大事にしている。

 他も次々と除外していった。消えていったのはほとんど体力系で、頭脳系は数多く残った。学力もそれほどでもなかったが、運動系に比べれば可能性はある。幅広い視点から自分がもっとも大切だと思えるものを探していこう。

 

-4-
Copyright ©tetsuya All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える