小説『大切なもの(未定)』
作者:tetsuya()

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完成させた作品に、賞を取った作品が頻繁に用いている難しい文章はほとんどでてこない。

 読者が本に求めているのは、読みやすくておもしろい文章である。難しすぎる表現ばかり用いて、ちんぷんかんぷんな本は読む意欲が失せてしまう。単語をたくさん使用すればいいわけではない。

 作品はおおまかに次のような内容になった。苦労の人生を一気に爆発させたので、かなり暗くてどんよりとしている。我ながらここまで暗いストーリーをよく考えたものだと負の感情に驚いた。辛くても、苦しくても前向きに笑って生きるのをモットーにしていても、やはり過去の闇というのは一生取り除けないようだ。

 千田武雄は大好きな女性ができ、即座にプロポーズする。その女性は特別美人ではないし、目立った長所もないのだが、彼の付き合う女性の条件を満たしていた。

 昔から人になにかをしてあげるのが大好きだ。使命だとも感じている。他人からうざがられても、心に入り込んでいって友達になろうとする。まるで磁石のS極とN極になろうとしているかのごとく。

 千田は自分に絶対的な自信を持っていた。小学生のころから成績優秀でスポーツ万能、また物事を完璧にこなすので頼りにされていた。謙虚な心はどんどん失われていき、鬱陶しくて威張るだけの人物に変貌を遂げていった。ちやほやされすぎて、自分を見失ってしまう。ある意味彼も被害者だ。作りあげられた架空の存在を未だに取り除けずにいたのだから。
 
 彼は『自分の五箇条』なるものを心につなぎとめて生きている。俺は正しい、俺は頼りにされている、俺にみんなは家来のようについてくる、俺を批判するやつは全部間違っている、俺は未来を変えられるといった自己中心全開だ。世間一般でいう完全なるエリート思考である。他者をあからさまに見下している。

 このてにありがちな、うざがられるのはまったく気にしない。彼はいい意味でうとい。へこたれない、あきらめない、後ろをみないのは長所といえなくもない。

 悪くいうならデリカシーのかけらもない無神経な野郎だ。相手を気遣っていては前に進めないと勝手に思い込んでいたりもする。自分は選ばれたもの、下僕などに心を使う必要はない。まるで全世界を支配する鬼だ。

 人の話を聞かずに突き進むため、彼を露骨に嫌悪する人はかなり多い。社内のほとんどが彼を毛嫌いしており、社内の女性で極秘におこなわれている手をつなぎたくない男ナンバーワンに輝いている。男性もほとんどが嫌っており、千田を抹殺すべきだという声がいたるところで上がっている。彼は完全にきわられものだ。

 当然、エリートになりきっている千田は、軋轢の原因が自分だとは認めようとしない。間違っているのは俺以外のすべての人間、世界で正しいことをしているのは俺一人であると信じて疑わない。バカ、アホ、カス、クズといった具合にどうしようもない輩だ。

 千田に告白された、近藤由紀は突然の告白にびっくりしたものの、交際するのも悪くないと思い、笑顔で了承し交際が開始することとなった。

 千田は由紀と交際できることに喜びを噛みしめていた。これから彼女をどうしよう。ロングヘアーを短くしてもいいし、奇麗なズボンを履かせてもいい。変態的な想像は加速度的に胸の中で広がっていく。完全におかしい。相手のことをまるで考えていない。

 当然ながら、現実は千田のシナリオどおりにはいくはずはない。相手には相手の心がある。

 交際して一週間も経たないうちに、彼女に別れを持ち出される。あなたの身勝手にはついていけないとの理由だ。仕事が終わってからも押しかけてきて、毎日深夜遅くまで由紀の時間を奪うので、彼女がうんざりしてしまった。

 彼女を手放したくない、千田は究極の持論を展開する。由紀はあまりに身勝手すぎる話を訊いていなかった。背中も振り向かずに居なくなろうとした。

 最大の侮辱を受けたと感じた千田は、殺意が込み上げてくる。俺と分かれるというのなら、おまえを殺してやると彼女の首を絞める。周りにたくさん人がいるのにもかかわらずである。我を見失っている。

 千田は周りに人にとめられ、殺人未遂の現行犯で逮捕されてしまった。完全なるエリート志向の千田は、警察に連れられていく時に、いつかおまえを殺してやるから首を洗って待ってろよと言い残していなくなった。
 
 こういったやつは生きているだけ害なので、刑務所で死んでほしいと由紀は願っていた。出所したのちに復讐されるのは怖いからだ。彼女は交際を許可したことを強く後悔した。人生を失ったかもしれない。

 このようにどこも報われない、何の面白みもない作品になってしまった。恋愛小説はたいてい、両想いでハッピーエンドに突き進んでいくのだが、今回はこういった世界もあるのかなと想像して書いた。

 当初はもっと明るい話にしようと思っていた。途中から変更したのは、必ずしも人生は上手くはいかないというのを書いてみたかった。最初なので気まぐれともいえる。

 人生は多くのものを失う繰り返しで、得るのはほんのわずか一握りだ。今、こうしている時間にも失っているものはたくさんあるかもしれない。それは、お金、恋愛相手、大袈裟にいうと未来かもしれない。人は一秒一秒失うことの連続だ。 

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