小説『Silent World』
作者:Red snow()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>


第一夜 -血と硝煙の前哨基地-








トラックは広場に停まり、十数台のトラックから200名ほどの新兵が降りてきた
とはいっても皆16歳前後のまだまだあどけない少年少女である。

泣き出す者

暴れて取り押さえられる者

彼らに国の為に死ねと言ったところでその意味は理解できるはずがない。
騒ぐ各小隊を半ば強引に黙らせるように虚空に向かって数発、銃が撃たれた。

静まり返った広場に一人の年老いた兵士が拡声器を持って立っていた。

「えーこれからこの前哨基地について説明しますのでよく聞いておいてください」
どうやら宿舎の場所などを説明するようだ
テキパキと順序よく進められた説明はほんの数分で終わった。
「えーでは皆さん今日はゆっくり休んで明日からがんばってください」


各小隊が宿舎に戻ろうとしたときだった。



「第65偵察小隊はここに残ってくれ」
年老いた兵士が言った。
他の隊が宿舎に引き払ったあと年老いた兵士は言った。

「長旅で疲れているところ悪いが、早速任務だ。地図を見てくれ」
全員がのろのろと地図を広げた。

地図はスターリングラード全体の地図で縦にアルファベット 横に数字で区切られていて
さらにX軸とY軸の座標で細かな位置を表現する方式のようだ。

「君たちはこれから座標D3X4Y5に向かってもらう」
年老いた兵士は急に語調を強くして言った。
「そこには何が?」
小隊のどこからかそんな声がした。
「廃病院がある。ついでに敵の狙撃兵が潜んでいる。ここ3日間で8人やられた」

「つまりそれを殺せと?」
秀介が面倒くさそうに言った。

「そうだ。出発は30分後 君たち用に装備を用意してある取りに来たまえ」
そういわれて皆が年老いた兵士に付いていったので蓮杜と秀介も後に続こうとしたが
不意に後ろから呼び止められた。振り返ると先ほどのトラックに乗っていた
監視役の兵士が手招きしている。
「おい、お前たちに武器と装備が送られてきてる。俺に付いて来い」
そういわれて二人は監視役の兵士についていった

「お前たち・・・狙撃学校から来たんだろう?どうだ?」
兵士は歩きながら二人に問いかけた。

「どうだとは何がですか?」
秀介が聞き返す。
「自信はあるのか?その敵の狙撃手をやれる」

「どうだ?蓮杜」
「さぁ」
蓮杜は面倒くさそうに吐き捨てた。
「だ、そうです」
と秀介は答えた。
すると兵士は急に向き直り

「二日前に俺の妹がやられたんだ。頼む!奴を殺してくれお願いだ」
と涙を流しながら懇願した。

「まぁ最善は尽くしますよ」
秀介は後味の悪い思いをしながらそう答えた。

その後しばらくは3人無言で歩き続づけた。
やがて二人は倉庫に入れられ武器を手渡された。

「狙撃手はこっちのケース。観測手はこっちのケースだ」
兵士はそういって二人に大きなケースとリュックを渡した。
 
--------------------------------------------------------------------------------

中身は狙撃手にはM21にMEUピストル観測手にはUMPにMEUピストルだ
M21は旧世代のライフルと現在使用されているライフルの中間のようなライフルで
長く細い銃身と木で作られた銃床が特徴だ。高威力の銃弾を使用するこのライフルは
セミオート式で10発装填 遠距離ではボルトアクション式に劣るものの市街地では
速射性を生かして優位に立てるだろう。
しかし全長が1mを越えるM21は16歳の蓮杜には少し大きすぎるように感じた。

秀介が持つUMPは45口径の拳銃弾を使用できる高威力のサブマシンガンだ。
大きく肉抜きされたストックとあいまって全体が骨ばって見える。
市街地では長いライフル銃より短くて取り回しやすいサブマシンガンは有利である。

MEUピストルは旧式の45口径のピストルを現代改修したもので銀色に輝く引き金が
全体を黒く塗装されたMEUピストルを一層引き立てているようだった。

--------------------------------------------------------------------------------

武器と基本装備を受け取りそのまま部屋を出て行こうとした二人を先ほどの兵士が呼び止めた。
「さっきはすまなかった。死ぬんじゃないぞ あとな魔女を見たらすぐに逃げるんだ。殺されるぞ。」

「魔女?」
例によって秀介が聞き返す。
「なんだ知らないのか?帽子に黒い羽をつけた敵の狙撃手だ。もう何十人もやられてる。」

「ほぉ・・・それはどこにいるんだ?」
珍しく蓮杜が食いついた。
「さぁな・・・なにしろ神出鬼没でやられたっていう情報はそこら中から聞いてる。」

「楽しそうな情報をありがと・・じゃそろそろ時間だし行きますか」
秀介が皮肉交じりに話を切り上げて戻ろうとしたとき蓮杜が言った。
「そうだ例の殺された妹の名前は?」
兵士は少し動揺しつつも答えた。
「秋山・・・秋山静香・・」
「了解。」
蓮杜はそれだけ言って部屋を後にした。

-2-
Copyright ©Red snow All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える