小説『Silent World』
作者:Red snow()

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第一夜 -灰と赤とそして狂気-







広場にはすでに20人ほど集まっているようだ。
蓮杜と秀介が来たのを確認した先ほどの老兵が拡声器を持ち皆の前に立った。

「全員そろったな?では作戦の詳細を説明する。」
そういうと老兵は片手に地図を出しマーカーで印を入れた。

「今回は小隊を二つに分け、各班2つのルートで廃病院を目指す。
なお狙撃班は別行動とし任意のルートで目的地を目指せ。」
二つのルート とは言っても戦術的に考えられたのではなく単なる「保険」としての作戦だった。

「気に食わねぇな」
珍しく蓮杜が自分の感情を出した。そうとう不愉快らしい。

「任務期間は?いつになれば戻ってこられる?」
前方で誰かが問いかけた。

「廃病院周辺を確保するまでは帰ってくるな」
老兵が叩きつけるように言った。

「そんなっ!死ねっていうのかよ!」
「そんなバカな作戦があるか!」
随所で怒鳴り声があがる

老兵はため息を吐きながら何かを合図した。
すると突然、銃を持った兵士に囲まれた。

「いいか、君たちが選べる運命は二つ。ここで撃たれるか。戦場で撃たれるか」
老兵は表情のない顔で言った。

「はぁ?意味がわからねぇ。俺は行かねぇぞ」
聞き覚えのある声だと秀介は思った。

「騒ぐんじゃない。静かにしろ」
銃を構えた兵士の一人が警告する。
「うるさい!お前ら大人の戦争になんで俺たちまで・・・やりたきゃ勝手にやってろ!」
青年は警告を無視して怒鳴っている。
秀介は確信した「あぁトラックの・・・」そうトラックで秀介に掴みかかってきたあの青年だ。

「上官の命令を聞けないというのか?」
老兵がなおも気だるそうにしゃべる。
「あぁ聞けないね!俺は行かねぇからな絶対に」


「そうか。分かった」


老兵の振り下ろした手とともに数発の乾いた銃声が轟いた。

絶え間なく続く砲撃の音が一瞬静かになったような  まるで無音の世界にいるような
そんな錯覚を覚えた。

灰色の地面には撃たれて飛び散った彼―そう青年の鮮血が流れ、辺りには硝煙の匂いが漂う。

「君たち。今ここで「確実」にこうなるか。戦場で「もしかすると」こうなるか。どっちを選ぶ?」
老兵が撃たれた「青年」を指差し優しい顔をして問いかけた。

が誰も答えない。蓮杜と秀介もあまりに突然のことで唖然としていた。

「ふぅ・・・じゃこうしようか。私の言う通りにする者は前に出なさい。それ以外は・・・分かるね?」

一瞬の静寂のあと皆が跳ねて転がるように前に出た。

「よーし良い判断だ!予定より遅れてる急げ!」


   ―俺たちは味方に銃を向けられ追われる様に基地を出た―

-3-
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