小説『Silent World』
作者:Red snow()

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第二夜 -続・静かなる街-








「気分はどうだ?」
蓮杜の声で秀介は目を覚ました。
「ここは・・・?」

「廃病院から川を挟んで800メートルの場所にある廃屋だ」
地図に目を落としながら蓮杜は答えた。
「どれくらい寝てた?俺」
申し訳なさそうに秀介が尋ねる。
「そうだな軽く5時間ほど、もう日も暮れたし天気も良くない。今日はここで作戦でも練ろう」
「あぁ・・・そうだね」
そういって二人は地図を見た。蓮杜がマーカーで印を付けている。
「その印は?」
秀介が聞いた。
「これはここ三日間で狙撃された場所だ」

地図の点は全部で8つ、全て病院へと続く橋の周辺に集中していた。
「多分敵の狙撃手は常に橋を射界に入れているはずだ」
蓮杜の話を秀介が黙って聞いていた。

「考えられる狙撃場所は3つ 一つは橋から伸びる道路上から 二つ目は橋から500メートル上流の倉庫から       最後に自信はないけど廃病院の最上階 左端の部屋」

「で、こっちが狙撃できる場所は?」
秀介が簡単なメモを取りながら尋ねた。

「廃病院以外の狙撃場所は狙えない」

「なぜ?道路や倉庫の方が狙いやすそうだけど」
メモを取るのをやめて秀介が尋ねる。

「ダメだな。 道路と倉庫はこっちから狙える場所は向こうから丸見えだ」
蓮杜が地図とマーカーを使い説明するのを秀介は黙って聞いていた。

「一応こっちから狙える場所を見つけてある。暗いうちに潜り込んでしばらく張り付こう」
蓮杜が秀介を伺うようにして言った。しかし秀介はただただ頷くだけだった。


 早朝5時 二人は蓮杜があらかじめ見つけておいた場所に移動した
 そこは二階建ての住宅のすぐ横に着弾した砲弾の炸裂穴
 深さは2メートルほどあるだろうか崩れかかった住宅の壁の間からは
 廃病院の最上階左端の部屋が見えた。

朝日が昇り川から立ち上る靄が死んだ街に華を添える。
芋虫のように寝そべって敵を待つ二人の口からは低く抑えられた息が白い糸となって漏れ出した。

やがて太陽が真上を過ぎた頃、空には雲が立ち込め辺りは元の虚しい灰色の街に戻った。
いつしか降り出した霧雨が二人の白く柔らかい肌を濡らす。

「来ないね」
秀介が痺れを切らしたかのように言った。
「来るさ」
蓮杜が口だけ動かして答えた。

だがその日、最上階左端の部屋に人が現れることはなかった。

「来なかったな」
蓮杜が少し申し訳なさそうに言った。
「また明日だね。今日はもう休もう疲れたよ」
秀介は蓮杜を励まそうと無理に明るく振舞った。
「・・・そうだな今日は寝よう」
蓮杜は少し秀介に笑いかけそのまま寝てしまった。秀介も足から頭まで擬装用の布を被り眠った。

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