第三夜 -虚ろな世界-
「なぁ蓮杜、基地ってこんなんだったっけ?」
「こんなんだったような・・・そうでもないような・・・」
基地に戻った二人はなんともいえない違和感に襲われながらも司令室に向かって歩いた。
「あ・・・・・」
秀介が声を漏らした。蓮杜が秀介の向いている方を見て同じように声を漏らす。
そこには、あの日―銃を向けられて追われる様に基地を出た日の生々しい記憶。
大人たちに撃たれて死んだあの青年の遺体が捨てられていた。
深く怨むように見開かれた目は真っ直ぐに二人を見ていた。
「埋めてももらえなかったか・・・・・・」
蓮杜が言った。
「もう行こう」
そういって秀介が歩き出す。蓮杜も無言で後に続いた。
やがて司令室の前に着いた。扉の前には兵士が二人。
「第65偵察小隊 狙撃班、戦果報告に参りました。」
秀介がそういうと扉の前の兵士が扉を開いた。
司令室では数人の大人たちがコーヒーをすすりながら地図を眺めていた。
「あぁ君たちかよく戻ったね」
あの青年を殺した老兵が奥の椅子に座っていた。
「あなたが司令官で?」
秀介が尋ねた。
「最近は物騒でね。司令官らしくしていると敵の狙撃兵に狙われるんだよ」
老兵は少しふざけたように言った。
「で、廃病院は確保したのかね?」
老兵は椅子から身を乗り出して言った。
「えぇ敵の狙撃手を一人やりました。今は味方が3人います。」
秀介が答えた。
「倒したと言う確証は?」
老兵は意地悪そうに言った。
蓮杜が首から下げていた認識表を外し老兵に見せた。
「なるほど。よくやった」
老兵は優しい顔をして言った。
「では。なにかあれば呼んでください」
秀介がそういって部屋を後にした。
しかし蓮杜はその場に立ったまま老兵を見下ろしていた。
老兵が蓮杜の顔を見てうれしそうに言った。
「ほぉ君はいい眼をしている。いつかきっと・・・・・・」
「失礼します」
蓮杜は老兵がしゃべり終わる前にその場を後にした。