小説『とある世界の主人公達(ヒーローズ)』
作者:くろにゃー()

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とある真夜中の裏路地にて、市元非波は憂鬱とした心情を持て余していた。
 
 いや、憂鬱というよりは、鬱憤と表記した方が正しい。心の内に恨みの様なものが積まれている。しかし恨み辛みの方向は、「自分の弱さ」であろう。

 弱さ。この二文字は、LEVEL4の荒波にとって、縁遠い物だと過信していたが、しかし今、自惚れに気付いてしまった。勿論の事、上条自体悪気があった訳でもなく、ただ関係のない人物は巻き込みたくないだけだと、慈愛溢れる気遣いなのだが。

 しかしまさか、自分がここまで傷つくとは、夢にも思わなかった。特に少し前の荒波なら。研究所でモルモット扱いを受けていた時なら。尚更。

 特に、集団性という観念に最も憎悪していたあの時期。集団があるからこそ、戦争が起き、文明を破壊する。集団があるからこそ内戦や裏切りが生じ、人が死んでいき、生物が絶えていく。いっそ単体で生活すれば人は死なない。血は見ない。そんな甘い時期があった。

 荒波は苦笑すらできなかった。しかし、自嘲した。自分の一貫性の無さ、弱さ、甘さ。まるで自分はまだ、モルモットでしかないと、人間の逸れ者だとそう言いたげな表情だった。

 ただ、強さとは何かと思考すると一番最初に思いついたのは学園都市最強のLEVEL5。一方通行だった。力が及ぶ向きを自在に変えるベクトル変換。その能力はまさに天賦の才と言えよう。が、しかしその最強を打ち負かした存在である片路夜春には、最強という二文字が実感できない。

 これは、直観の問題であろう。最強より強い存在は最強という定義が夜春を最強にする事は荒波の中では無かった。勿論客観て夜春は最強という位置づけかもしれないが。

 ならば、夜春は何なのかと言えば、答えにたどり着くのに時間はかからなかった。

 逸者。という結論に至った。中心から逸れ、達観者の様に振舞っていた者が、何かの手違いで中心に立ってしまった。一方通行は、能力こそ最強。という事は一方通行という「人物」が最強では無く、一方通行の「能力」が最強と分解できる。

 そう考えれば、能力を封じる手立てを知っていれば、一方通行を倒すのも夢物語とはいえなくなる。

 夜春は、何かのルートを辿って能力の弱点を暴き……いや荒波はあの夜の闘いを顛末まで見ている。が、夜春は計画的に戦闘を図った様子は見せなかった。突発的な物だった。

 初見で見抜いたのか、夜春はどんな風に、この世界を見ているのだろうか。最強ではないが、この学園都市において一番危険な存在だろうか。

 そんな思考中。昔あった最弱という言葉が相応しい人物に至った。

 誰にも勝てない。というか、誰よりも誰かに従順な少女の姿を、ふと。思い出すと同時に、違和感に気付いた。

 前方に突如として四足歩行の少女が、人間のひじから先の腕を銜(くわ)えてこちらを睨んでいた。

 そして気付く。それは紛れもない、市元荒波の肉塊だと。


 







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 時は少し前。片路夜春はある仕事を終え、義妹である夢雨と睦まじく手を繋ぎながら本拠地である「夜桜探偵事務所」 へと帰還した。

 「ただいま〜。シス〜居るか〜?」

 玄関のドアノブを開け、シス。という名前の人物を呼ぶとそこから出て来たのは、短髪の茶色に虚ろな目が特徴的な少女。御坂妹だった。正確に言えばミサカ10005号というシリアスナンバーが付けられている物の、夜春に拾われてから新しい名を付けられた。

 いろいろ問題のある事を説明した気がするが、現在進行形で問題の有るのはシスの服装だった。そう赤色のハートが付いたエプロン一枚で夜春を迎えたのだ。

 「って、おい!! おまっ! 何でそんな恰好をしているんだよ!」

 「あれ? 朝に夜春さんが要望した通りに出迎えた筈ですが? とミサカは……おっと、これは禁句でしたっけ?」 

 「待っ……」

 「よ〜る〜は〜る〜?」

 悪意のある悪戯をすました顔でやってのけるシスに、夜春は全力で否定するも、その行動は、峰どころか文頭さえ隣の夢雨に遮られた。

 「待て夢雨ちゃん。弁解の余地をくれ! それによって僕を醜怪な変態にも捉えれるが、それでも夢雨ちゃんの愛で「夜春さん!!」」

 突如、シスが驚愕とした表情で声を張り上げた。視線の先は夜春の後ろ、開けっぱなしのドアの先だった。それに夜春は豆鉄砲でも食らった様な顔をすると、一発の乾いた銃声が鳴り響いた。

 夜春は安堵した。何故なら、一発の銃声が誰のものでもない、自分の肉塊に被弾したからだ。


 




 
 

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 そして時刻は荒波の肉体が五分の一失われたのとほぼ同時刻。学園都市最強である一方通行はそれこそ鬱憤とした表情で町を歩いていた。

 原因は実験の失敗。いや、妨害だった。

 孫の手の様な武器を装備し、実験が行われると毎回の様に金髪の少女を連れ、やってくる男。本名は知らないが、通り名は「零の頂点」。LEVEL5第三位の御坂美琴を倒したと言われ、一説ではスキルアウト達を統治しているらしい。

 その男はどういう経緯か、一方通行の能力の弱点を知る不可思議な男だった。

 くそったれェ。と憤りを込めて呟く一方通行にある人影が現れた。

 「こんにちわ。一方通行。と、ミサカはカルシウム不足の一方通行に挨拶を交します」

 「アン?」
 
 間抜けな声を出した先には、御坂妹が居た。しかし、一方通行は御坂妹に違和感を感じた。そう、武器を装備していないのだ。

 「私はこの度伝言係として派遣されたミサカ10006号です。伝言があります。と、ミサカは自己紹介を終えます。」

 「伝言? ンなもンメ―ルで済ませりゃいいだろォ」

 「いえ、こちらとしても、今回の内要は伏せておきたい事でして、余りメールなど残る物は避けたいんです。と、ミサカは内情を仄めかします」

 一瞬の沈黙を置いて、一方通行は口を開いた。

 「俺はァ、一体どうしちまったんだろうなァ。そう思わないかァ?」

 「? どうかしましたか? いっぽ!!?」

 御坂妹の目に、残像の様に消えた一方通行が、突如目と鼻の先に現れた。

 そして、悲鳴を上げる間もなく顔面に、拳骨が突き刺るように直撃すると御坂妹の頭部は跡かたもなく爆散しながら、ノーバウンドで吹き飛んだ。

 肉塊が静止すると、首と思われる部位からダムが決壊したように血が氾濫する。

 「能力の使えねぇレベル0に、軽くあしらわれて、ただちょっとばかし気分を悪くするなんざァ、学園都市第1位様も落ちたもんだァ。ったく、しょうがねェ。零の頂点だったかァ? 何でも良いィ。そいつをつぶしに行くかァ」

 一方通行は、凶器の笑みを浮かべて、去って行った。

 

 
 





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 夜春が撃たれる少し前、上条当麻の目に光が失われた。と言ってもただ停電したように周りにある人工的な光が消え失せ、光の頼りが月明かりになっただけなので、客観的に見ればそこまで大業な言い回しをする必要もないが、人工的な明かりに慣れて生活している上条にとっては、まるで太陽を失ったかのような錯覚をした。

 が、驚くべき点は、そこでは無かった。


 「人が……居ない?」

 上条は周りを見渡すが、人が誰もいない。さっきまで少なからず、人は居た様な気がするのに。

「ルーン。」

「!?」
 
 訳も分からず、思考が混乱している上条の背後から女の声が聞こえた。

「人払いのルーンを張らせていただきました。」

 女は、長いポニーテイルに長袖のジーンズの左側だけバッサリと切り落とし、へそを出した服。長身な身長に加えて二メートルはある日本刀を携えていた。

「神崎火織……もう一つの名は語りたくないのですが……」

 強い口調が特徴的なその言葉は、とても物騒な意味が込められていた。

「あと一日。待つつもりだったんですがね。」

「一日? 何の事だ」

「四日後。彼女の記憶が限界に達するまでの期間。まだ余裕はあった。しかし今の学園都市は何やら物騒な事になっていますからね。あの子を危険な目に合わせる訳にはいかない。」

「待て待て! 頭が追いつかない! どういうことだ! インデックスの限界? 今の学園都市が物騒?」

「? あの子の記憶はともかく、今の学園都市の状況を、理解していないのですか?」

 神崎は首を傾げる。 そして言葉を紡いでいく。

「いま学園都市でとある研究機関が、学園都市に反乱の旗を掲げた様です。ここはルーンがあるから、安全でしょうが、外へ出ればアンチスキルやジャッチメントの機関が走り回り、激戦区となった所では、この平和大国日本では珍しい、銃弾の嵐ですよ」 

 上条は愕然としたと同時に、顔面に蒼白の色が映し出された。そう、この場にインデックスは居ない何処かで逸れてしまったのだから。

「インデックスが危ない!!」

「なっ!?」

 神崎は上条の言葉の意味を理解したのか、上条同様、顔面蒼白となった。

「おい神崎! 見つけ次第俺んちに戻る。話は後だ! お前もインデックスを見つけたら俺の家に来い! いいな!」

「は、はい!」
 
 そうして、上条と神崎は、闇夜を駆けた。各々の主人公たちが、学園都市内戦の勃発に関わる事になる。ただ、一人は自分の過ちを払拭するため闘い、一人は大切な物の為に傷つき、一人は己のプライドの為に惨殺し、一人はある少女を守る為に奮起した。共通の目的は無い。が、彼らは連結している。

 
 
★★★おまけ★★★

神「あれ? あの子を保護したら上条当麻の家に向かう必要性は無いのでは?」



 

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