「強さって何だと思う?」
僕は言った。徒然としたこの職場で親愛なる同僚におよそ懐疑的で、結論に至るまでに永遠にも近い時間を要するような哲学的な議題を何も思惑も、持論もなしにそういった。
「強さって……僕から言えば、動機ってことだと思う」
「動機? どういうことだ」
荒唐無稽にも見えるその言葉に、興味を注がれた僕はわざとらしく首をかしげる。
「強さは勿論、身体的能力、技量この二つは闘いにおいて重要な要素だけど、もっと重要な要素だけど、スポーツ界では、身体能力と技量より、その場のモチベーションが重要視されているらしい」
「でも、それってスポーツだけの話だろ? 死への臨場感が具現する戦闘を競技で例えるのは……」「同じだよ」
僕の異議を首尾まで訊かず、同僚は否定を割り込ませた。
「むしろそっちのほうが重要でしょ。相手はこっちを殺す気で襲ってくる。こっちもそれ相応の意気込みが必要でしょ? どんなに筋肉があったって、技巧的であれ、生かさず殺さずで、殺人鬼の変態的な威圧に勝ると思うの?」
「変態的って言うと、どうにも語弊がありそうだね、」
「ふふ、君も殺人鬼に負けず劣らず変態だらね」
「うっせ」
と、僕はそっぽを向いた。
「ただその理論で言うと、夜君は最強だね」
「ん? なんで?」
持論を理論という言葉を代用する彼女らしさを垣間見ると、過度な煽て言葉が彼女の口から漏れた。
「だって、夜君は何よりも純粋で強固な動機があるじゃない」
動機。モチベーション。やる気。きっかけ。一心不乱に揺るがぬ思い。確かに、僕はそれを少女に向けている。押し付けがましいまでに、僕は少女に僕の全部の行動原理を預けている。
「ほんっと、羨ましいよ」
と、皮肉交じりに彼女はそういった。補足するように。彼女が何に対して羨ましくて、そのとき見せた彼女のしかめっ面に何の意味があったのか、今の僕でも真意には至っていないけど、彼女はとてもとても美しい僕っ子だった。___________
_____「池丸鈴……あいつは何時の日か……そう言っていた……」
僕は途切れ途切れに文を構築しながら、血を流す肉体を起こしあげる。体から、血の生臭い香りがする。今すぐ、シャワーを浴びたい気分だった。
「夜春……さん……」
僕が立ち上がって、第一声をあげたのはシスだった。裸エプロンで何の媚を売ろうとしたのか分からんが
_________「違う」
「えっ?」
「違うんだよ。僕の動機付けは……シスじゃない。……僕はそんな特殊な変態では……ない。ましてや……玄関前で何十体と待機している……敵との戦闘意欲でもない……」
僕は袖口から、孫の手の武器を取り出す。一方通行との闘いで、その武器からは、余り丈夫な形を印象付けることはできなかった。
が、が、が、それがどうした! 僕はこれを武器と思っても、愛用の獲物だと思った事はねぇ。それどころか、いくら禍々しく鋭いつめでも、拳一つ分の鉄球でも、人を傷つけたことはない!
僕は……守ったことしかない! どんな時も、ある少女の涙を流させないために……
「夢雨ちゃん! 僕がお前が! 必要だ!」
穴の開いた腹筋で僕は愛を叫んだ。情熱的でも、叙情的でもない、愛をただ僕の性癖を無我夢中で叫んだ。
醜怪でかまわない、変態的でかまわない! 僕はこの世にただ一人の少女が____
_________「よるはる! 私を守って!
」
僕を鼓舞してくれれば、それでいいのだ。自殺願望で漫然と生きていた過去の僕に伝えたい。この、動機を