「かみやん、『零の頂点』って知ってるか?」
「はぁ? 零の頂点? 何ですか、それ? 数学の問題なら勉強の出来ない上条さんより、先生か吹寄に聞けよ。」
市元と不思議な出会いを果たし、別れてもう五日ほど経っただろうか、夏休みが近く、それに対してうきうき気分が半分、暑くて気力が出ないのが半分。そんな時期に登校し終えた、クラスメイトの土御門元春は唐突に、そんな質問をした
「違うにゃ〜。俺がかみやんに数学を期待すると思ったかにゃ?」
相変わらずにゃーにゃーうるさい奴だ。しかも何気に馬鹿にされてるし……まぁ俺が馬鹿なのは認めざるをえないが
「んで? その零の頂点ってのはなんだ? 缶コーヒーか?」
「違うにゃ〜かみやん。 『零の頂点』ってのはスキルアウトの事ぜよ」
「スキルアウト? 」
不幸な上条にとって、不良とは交戦した経験が幾度かあったが、ほとんど少人数のスキルアウトで、集団(三人以上のスキルアウト)には敵意が向けられた瞬間逃げ出す。そんな習慣がある上条にとって、あまりスキルアウトに深く介入した経験は無いのだが、知っていることとしては武装集団言われ、ほとんど寮に帰らない奴らだと聞いている
「かみヤンは間違った先入観を持ってるかもしれないから先に言っておくが、『零の頂点』は集団じゃないにゃ〜。」
「へー。集団ですらそこまで聞かないから、個人ってのは驚きだな、それで? そいつがどんな問題を起こしたんだ?」
「問題……どっちかって言ったら問題を起こされた……だにゃ〜。」
「聞く前から同情しそうなんだけど……」
なんか同族の予感が……
「学園都市が誇るレベル5の第三位、御坂美琴やられた。」
「御坂がっ!?」
御坂美琴。そう言えば市元と離れた時が会ったの最後だった気が……気にしていなかった。だが、しかし、アイツ簡単にやられるなんてありえるんだろうか?
「知り合いかにゃ〜?」
「ん、まぁちょっとした縁があってな。それよりあの御坂が本当にレベル0のスキルアウトにやられたのか?」
「俺も最初は俄かに信じ難かったぜよ。が、もっと信じられない事に、そいつは第3位と死闘を繰り広げた後、満身創痍の体で、レベル4のテレポーターと闘い、勝ちを手にしたらしいぜよ。」
「レベル5の三位と闘ったからだで、レベル4を倒すスキルアウト。」
能力者の事を、「化物」とスキルアウトは呼ぶらしいが、そいつこそ、化物染みていると、上条は率直に思った。
「まぁしかし、そいつはスキルアウトより、無能力者と言った方が正しいかも入れんぜよ。」
「あんま変わりねえだろ。だいたい俺らは夜にちょっと外出しただけで、スキルアウト扱いだろ? 」
「いや、コイツは俺なりに、敬意を払った言葉ぜよ。」
「敬意?」
「御坂美琴。テレポーター。この二人に大きな外傷は残されてないらしい。その前にいざこざがあった能力者もだ。(軽傷くらいはしていたが)そいつはスキルアウトほど能力者を毛嫌いしてない……ってのが世論だが、俺はそれ以前に、女の子に傷を付けなかった『零の頂点』に敬意を称したいぜよ。」
「なんだ。良い話じゃねーか。」
「因みにそのテレポーターってのは女の子らしいぜい。その気になれば、第三位もテレポーターも襲う事が出来んだにゃー。」
「あんなビリビリ中学生を襲うなんて、何処の欲求不満だよ。」
にしても、御坂は大丈夫だろうか。レベル0と闘って、負けた上に外傷なし、しかもここまで噂が立ってるなんて、身体的に大丈夫かもしれないけど、メンタルの方は保っていられるのだろうか? なんて上条は余計な心配をしていると
「でも、かみや〜ん。本題はここからぜよ。」
「本題? 今ので終わりじゃなかったのかよ。」
「俺がこんな味気のない話をすると思ったのか? 俺の得た情報によるとだな、そいつはどうも、金髪の少女は連れているらしい。」
「はぁ? 金髪の少女?」
「そう。関係者の証言によると、妹だとか言ってたにゃー。」
「妹ネタかよ!」
上条はここが教室だということを考慮しない様な突っ込みをする。クラスの奴が「又デルタホースかよ」。なんて言ってることはいつもの事。
「待て、落ち着くんだかみやん」
「おま、ここまで来て妹ネタに切り替えるとか……」
「落ち着け、俺が言いたいのはその妹キャラが見たいとか、兄に対してどんな御奉仕をしているのかが知りたいんじゃない。俺の髪を見ろ!」
土御門の要求に答え、指差す土御門の金髪に目をやる上条。そこにあるのは、紛れもない土御門の金髪。……ん? 金髪?
「もしかしたら俺の生き別れの妹かもしれないにゃー」
「ねぇぇぇぇわ!」
あほらしい、聞くんじゃなかった。などと思うと、もう小萌先生が来る時間だと気付き、前を向く上条。
しばらくして、上条の担任・小萌先生が横開きのドアを豪快に開けると
「喜べ〜手前等〜転校生が来たぞ〜。」
と言った。その発言に、興味津々な生徒達はあれやこれやと騒ぎ立てる。特に青ピは手を挙げ
「先生! 雄ですか? 女子ですか?」
と好例の質問なのだが、露骨に男卑女尊が混じった彼らしい聞き方をする。
「男の子ですよ〜 ほら入って来て。」
と小萌先生に呼ばれ出てきたのは、
市元非波だった。
「初めまして、こんにちは。市元非波と言います。世間知らずな自分ですが、仲良くして下さるとありがたいです。」
五日前に旅に出ると言って、行方をくらませていた市元が、似合わない敬語を使い、深々と教室で頭を下げている。
そして、市元は挨拶を終えると、
「よっ、上条! 元気にしてたか?」
と堂々と、手を左右に振りながら声を掛けてきた。
★おまけ★
非「小さいが萌えの塊とも呼べる存在……そうか! 小萌先生の名前にそんな意味がっ!」
小「先生の名前にそんな自虐的な意味は籠められていません!」
ファーストコンタクトから長年付き合ってきた友達同士の様なコントを行っていた非波と小萌先生。
非波とデルタホースが交差する時、小萌先生の苦労の日々は続く!