「おいおい、実験場に人なんか連れてきてンじゃねーよ」
学園都市最強のレベル5である一方通行は御坂クローンに止めに刺そうと手を振り上げた瞬間、背後に歩み寄ってきた『零の頂点』こと、片路夜春に気付き、手を止めた。
夜春の手には、一見孫の手にも見えるが、一般的な孫の手のそれとは違い、先端には一拳は有るであろう銀色の玉。反対側には、鎌の様な鋭い爪が付いた禍々しい物を持っていた。
「ンだァァ? 迷子かァ? 土下座して見なかった事にすれば許してやるって生ぬるい事には……なンねぇよなァァ?」
一方通行は面倒臭ぇぇと溜息交じりに呟く。
「これが学園都市最強の能力者……全ての物のベクトルを操るなんて本当に反則染みているね。まぁでも……天は二物を与えないってのは本当らしいな。見るからにひ弱そうな外観じゃねーかよ。いや、それは寧ろ一方通行としての弱点かもな。だったら尚更この言葉に信憑性を感じるね。」
そんな一方通行の余裕が気に入らなかったのか、それともただの挑発を言いたいのか、はたまた率直な感想なのか、どれかは本人しか分からないが少し、嫌みを言いながらにやりと笑う。
「ンだと? もういっぺン言ってみろや三下ァァ。」
「何度も言ってやるよ。もやし君?」
「ロリコン!」
夜春の言葉に便乗し、夢雨がそう叫ぶ。
「殺すっ!」
夜春達の安い挑発に乗った一方通行は、その怒涛の声を合図に、大地を蹴り、背後に居た夜春に向かって振り返り間際に直進する。
一方通行の余りの速さに一瞬動作が遅れたが、夜春の最大の武器、危機回避能力で何とか左に倒れ込むように体を倒し、躱す。
が、それで空振りに終わる一方通行ではない。
一方通行は躱されたことに気付くとほぼ同時にベクトルを夜春が倒れたほうに変え、夜春に追撃する。
(やべ…っ)
今の夜春は重心がほぼ後ろに下がっていて、今にも倒れそうな状態である。 そんな状態で一方通行の追撃を躱せる訳などない。
が、その状況で閃くのが夜春の第二の能力と言っても良い、咄嗟の判断力だ。
夜春は倒れそうな状況で孫の手に似た武器の銀の部分を一方通行に向ける。しかし、孫の手の動きは直ぐに止まった。手が伸び切って、一方通行の一寸先で止まったのだ、
が、
その孫の手を、夜春は思いっきり引いた。倒れ込む力と、自分の今ある力をすべて使った。
すると。
「グハっ!?」
一方通行が鼻血を拭き散らし、吹き飛んだ。
まだ意識を保ち、少し離れていた御坂クローンは、国を破壊するような天災が目の前で暴れている様な、恐怖感を感じた。
なぜ学園都市最強の名を知っていてあの一方通行に相対しようとしたのか、そもそも何も能力を使った気配もないのに一方通行に一撃を食らわせれたのか、そんな疑問が御坂クローンの脳裏に焼きついた。
目の前に居る敵意も殺意もない、ただ慈悲の心で動いているレベル0がとても大きく感じた。機械で、感情のない自分が、初めて、感情という物にたどり着いたのかもしれないと、大抑ながらも思ってしまった。
「て、テメッッ! ガッ!?」
一方通行が顔を上げると、既に夜春の拳が目の前にあり、数メーターを転がるように吹っ飛んで動かなくなった。
「死んではいない……よな?」
「大ジョーブ。アニメで負けた時もこんな感じだった。」
この瞬間、『零の頂点』が学園都市最強の個体となった。