9, ご飯の味
「た、食べないって………? 」
すると香は、白衣のポケットから小さなカプセルを取り出した。
外見は透明だが、中に緑色の液体が入ってある。
気悪げに夏は尋ねた。
「ちょっと香、それ何? 」
「栄養補給のためのカプセル。
未来じゃ人間とロボット以外存在しないって言ったじゃん。
野菜もないし肉もない。
そこで作られたのが、この1日1粒でOKの
栄養補給カプセル。人間はコレだけで生きてるのさ」
「ご、ご飯…………ないんだ………」
「そういうこと。それに今じゃ、昔のそんなご飯を食べるのが
面倒にもなってきちゃってさ。
食べ物をどんな風に咬んで、どんな風に消化すればいいのかさえ
身体が忘れちゃってる」
「そんな…………ご飯の味、忘れちゃったの? 」
「味って言うか、未来のあたしたちには味覚ってものがないんだ。
ないっていうか、味覚の機能だけが急激に衰えたんだけど」
「ありえない、そんな未来…………」
香の言葉をきいて夏は呆然としていた。
まさか自分たちの未来が、そんな酷いものになっているだなんて―――
そんな夏を見ていた香は、ふと話し出した。
「分かるでしょ、アンタなら。あたしの復讐心の意味が。
地球人のこの高度な科学文明の発達の影で
どれほど酷なことに、事態が発展していることを。
これは全て、人間が犯した過ちなんだよ」
「………………許しちゃいけないの………………」
自分でも気付かぬ内に、口がそう動く。
「そう。決して許してはいけない。
あたしが人間以外の全てに代わって、奴らに復讐してやるんだ」
香の目には、憎しみと復讐心の混ざり合った
不思議な光で満ちていた。
夏もそこまで言われると、何だかそんな気もしてくる。
人間が悪い。
香の言うことが正しい。
でも……………………やっぱり香には、何か引っかかることが多いのは確か。
まるで自分は人間以外のもののような言い方も。
人間に対する恐ろしいほどの執着も。
けれど夏は、
(――――まぁ、いくら自分でも、分からないことだってあるよね!!!!)
ただそう思うだけだった。