12, ワープ
船体が浮上したかと思うと、あたりは強い光に包まれた。
夏が窓越しに唖然と外を見つめる。
さっきまでの見慣れた町並みは、もう何も見えない。
真っ白な空間。
聞こえるのはタイムマシンの起動している、かすかな機械音と
自分たちの息遣いだけだった。
不安になった夏は、たまらず香に話かける。
「か、香、これほんとに未来へ着くの? 」
「うるさい、ちょっと黙ってな。
タイムマシンのエンジン操作は楽じゃないんだぞ!! 」
眉間にしわを寄せたまま、気難しそうにボタン操作を続ける。
香は、大きなメインスクリーンに何かを指示した。
「炎圧出力80%まで引き上げろ。
安定を保ちながら異空間ワープに移る、エンジンを変換するんだ」
『完了しました、香夏様』
「よし、向こうのワープメインゲートを開け。
通常ワープ時の最大出力は? 」
『ワープ時最大出力は、160%です。
ただいまの炎圧出力70%…75…79…炎圧出力上昇中………』
「向こうの炎圧出力は!? 」
『ワープ対象物炎圧出力、160%。発射スタンバイ完了』
「チッ、急げ! 一気に炎圧を160%まで引き上げるんだ!!!! 」
『了解しました。炎圧出力再上昇95…110…130…158……
メイン・シンメトリー炎圧出力160%です』
「お〜い、か、香? 」
夏が不思議そうに香を覗き込むが、香は全く気付かない。
「よし、ワープ準備完了か?」
『はい。タイムマシン発射準備完了。
ワープ対象物よりバックアップを完了しました』
「炎圧出力は160%でキープするんだ。
異空間横断時間は!? 」
『大よそ0,12秒です』
「よし、一気に未来へ帰るぞ!! 夏、歯ぁ食いしばってな!!!!! 」
「ちょっと香、待ちなさ………………」
夏が言い終わらない内に、タイムマシンの船体が大きく揺れる。
手すりにつかまっていなかった夏は
一気に床へ叩きつけられた。
「ちょ…………か、かお………………」
「タイムマシン発動!!! 」
香の声とともに、激しい揺れが二人を襲う。
立っていることすらできない様だ。
窓からの激しい光に
夏はぐっと目を閉じた。
香だけは、必死に側の手すりにしがみつき
メインスクリーンの操作をしている。
揺さぶられる中で、夏は設計図だけは手ばなすことがなかった。
「ねぇ、香…………………想像してたワープと……………
かなり違うんだけど…………………ほんとにこれで………………
未来へ……………行けるわけ!?……………………」
「何!? 文句あるの?
だらしないなぁ、もうすぐで未来に着く」
「だって………………」
「うるさい! 」
かなりのゆれだというのに
香は窓の向こうを眺めている。
あの向こうに、香の言っていた“腐った世界”が―――――
ふいに、あの激しいゆれが収まる。
「ほら、着いたぜ」
やがて夏の目にも、
自然という自然が全て消えて、鉄の町に成り代わった
見るも無残な世界、
冷たく機械音だけの鳴り響く“未来”という
“腐った世界”が映り始めた。