13, 未来の空気
「さぁ着いた。降りる前にこれつけて」
タイムマシンを止めた香は
スクリーンの下から“あるもの”を取り出して、夏に渡した。
真っ白な、そう――――
「香、これって……………ガスマスク? 」
「ああ。未来じゃそいつを、ラムっていうんだ。
働きはガスマスクとほぼ一緒。
外の有害な空気を体内に入れないように、それで保護するんだ」
「“有害な空気”? そんなのが、ここにはあるの? 」
「言わなかったっけ?
植物のないこの世界じゃ、ろくに酸素だってありはしない。
限られた酸素を、人間が科学発展のために有害物質へと
変えてしまったんだ。
だから、このラムを着けてでないと外は歩けないのさ」
「有害物質を吸うと、人間はどうなっちゃうの? 」
「その物質が肺に入ると、わずか数分で肺が腐り
全身の骨を砕きながら体内を侵食、
やがて心肺を停止させ、循環機能を破壊したあとに死がやってくる」
衝撃的な事実に、夏は目を剥いた。
ありえない、恐ろしすぎる。
まさか未来がこんなにも、恐ろしいことになっているなんて――――
真っ青になりながら、夏は震える手でラムを受け取った。
「ラムを速く着けるんだ。一刻も速く研究所に戻らないと……………」
「わ、分かってる……………」
香のやり方を、見よう見まねでまねして
夏も何とかラムを着けることができた。
夏がきっちりと装着したのを見て、
香はタイムマシンの扉を開いた。
機械の轟音が、さっきにも増して鋭く聞こえる。
耳を劈くような、いろんなエンジンの混じった音の中で
夏は必死に香の声を聞き取った。
「地面へ降りろ。これから研究所へ向かう」
「研究所ってどこ!? 」
「いいから降りて来い」
香の後を必死に追いかけ、夏はタイムマシンの階段を降りた。
そして。
ゆっくりと未来の土地を踏みしめた。
タイムマシンの直ぐ横には、巨大なスクラップの山があり
よくよく見ると、その下のほうには
二体の頭蓋骨が転がっていた。
「か、か、香の………………言ってたとおりの世界だ……………」
「でしょ? 」
ラム越しの会話なのに、相手の声が澄んだようによく聞こえる。
これが科学の発展というものなのか……………
ぼ〜っとそんなことを考えているうちに
香はタイムマシンの側面にある、小さなスクリーンにこう指示した。
「見つけられたら厄介だな。
100分の一まで縮小して、船体を隠せ」
『了解しました。香夏様』
するとタイムマシンは、一気に手のひらサイズにまで縮まった。
あっという間の出来事に、夏は釘付け。
「よし、完璧だな」
「す、すっご〜い……………」
「こんなことでいちいち驚かないでよ。
いい? できるだけ人に合わないようにして、ダッシュで研究所まで戻る。
夏は設計図を落すんじゃないよ!!!! 」