14, 偵察機
「出来るだけ、他のやつらに気付かれないようにしろよ! 」
香は吐き捨てたあと、夏の方を見もせず
白衣を翻して、ダッと坂道を駆け下りた。
夏も迷子になるまいと必死に後を追う。
スクラップの丘を下るにつれて、だんだんと未来の町があらわになってきた。
ラムを着けているから
直接臭ってはこないものの、身体にしみこんでいくような
臭いが夏たちの周りを取り巻いていた。
「香、あれは何!? 」
後方を走っていた夏が、突然そう言って町の方を指差した。
「? 」
数メートル先にいた香は夏の声に気付き
足を止めて、指の差す方向を見つめる。
そこには
何百という小型の飛行物体が、町の上空に飛び回っていたのだ。
もの凄い唸りを上げながら、それぞれが空中を先回する。
「あぁ。あれは小型ミサイルを積んだ偵察機だ。」
「ミ、ミサイル!? 偵察? 」
「いい? あいつらに見つかったら、即アウトだからね。
ミサイルをド頭にブチ込まれるよ!! 」
「ひっ!! な、何でよぉぉぉ!? 」
「何でって………………未来じゃあたしは“狙われる身”だから」
「は!? 」
そして香は、また猛スピードで走り出す。
香の後を必死で追いながら、夏はもう一度聞いた。
「何で!? どうして香が狙われてるの!? 」
「あぁもう、うるさい!
帰ったら何もかも話すから、とにかく今は偵察機に悟られないように
身を屈めて走れ!!! 息を潜めて……………」
「い、意味分かんないよ! 」
しかし夏は、言われたとおり身を最大に低くして
積み重なるスクラップの山々の間を駆け抜けた。
(な、なんなのいったい!?
未来じゃ香は、何者なのよ………………
あたし、未来に来て―――――ほんと良かったんだよね―――――――)
目の前を走る白衣姿の香が、だんだん遠ざかってゆく。
まずい、香を見失ったらどうしようもない………………
追いかけなきゃ――――――
夏は徐々に走る速さを加速するが、目の前の香はもう姿が見えなくなっていた。
「ちょっと、香ぃぃぃぃ!
待って、置いていかないでよぉ〜!!!! 香ぃぃ!!! 」
力を振り絞って叫ぶが、香は振り向かない。
振り向くどころか、もう足音さえも聞こえなくなった。
(まずい………はやく香に追いつかなきゃ――――――――
あたし未来の町なんて、なんにも分からないのに! )
靴と鉄の当たる、不気味な鈍い音があたりに響く。
右を見ても左を見ても、後ろを見ても前を見ても
あるのは無数に詰まれた鉄くずと
見たこともない形の化学製品ばかり。
ラムを通しても、鉄の臭いが入ってくるような感じがした。
「ど、どうしよう………………」
夏はついに足を止めた。
脂汗がゆっくりと頬を伝う。
直ぐ横の廃棄製品の奥で、真っ白な頭蓋骨が
じっとこちらを睨んでいた。