夏の手を引いて、坂道を一気に下りながら
振り返ることなく黎弥は言った。
「この先に、スクラップで出来た洞窟があるだろ!
このままじゃ奴らに見つかっちまう。
そこに駆け込むんだ!! 」
「ど、洞窟…………? 」
「いいから走れ! 追いつかれるから!! 」
必死に走りながら、夏はふと後ろを振り返る。
「わっ…………―――!! 」
なんとその視界に飛び込んできたのは、
幻覚シェルターを見破り、血迷ったように追いかけてくる
何百という偵察機の姿だった。
「れ、れ、黎弥さん!? あ、あれ………大丈夫なんですか! 」
その声を聞いた黎弥は
不思議そうな顔をして、少しだけ振り返った。
「オレのこと“さん”だって?
やっぱり香夏おかしくなっちまったのか? 」
「い、いやだからあたしは…………」
夏が口ごもっている間に、目の前には
黎弥の言っていた洞窟が大きく口を開けていた。
「入れ!! 速く、こっちだ!!! 」
「は、はいっ! 」
黎弥はすばやく洞窟へ飛び込むと、
後ろの夏へ手を差し伸べた。
戸惑うことなくそこへ飛び込む夏。
「走れ! 光の届かないとこまで走るんだ!! 」
「ちょっ………黎弥さん……………」
洞窟は、一足進むごとにどんどん闇が広がった。
靴と地面の鉄が当たって、反響しあう不気味な音が響く。
その光景に、夏の不安は募るばかりだった。
しかし夏は、だんだん
後方からのエンジン音が小さくなるのを感じた。
「あ、あれ? 偵察機………は? 」
「大丈夫、奴ら光のないところを追跡するのは苦手だよ。
っていうかそれも忘れちゃったの、香夏」
そう言って黎弥はふと足を止めて振り返った。
暗闇で分かりづらいが、彼は不思議そうに夏を覗き込む。
「君は………香夏? 」
「そうです。宮浪 香夏。
でもたぶん、あなたの知ってる宮浪 香夏じゃないです」
「どういうこと?
君が宮浪 香夏だってことは信じるよ。
あの偵察機全機が君を見間違うわけないもんね」
「えっと………分かってもらえるかな…………
あたしは、同じ宮浪 香夏っていっても
小学5年生なんです。
だからその………過去の………あたしっていうか………」
もうどこから説明していいのか
全く分からずあたふたする夏を見て
黎弥はくすっと笑う。
「あぁそういうこと。君、過去からタイムトラベルしてきたんだ?
そういえば香夏、タイムマシンの研究もしてたっけ。
今じゃ?ZOAR?のことばっかりだけど」
「え……………
?ZOAR?って………黎弥さんも知ってるんですか!!!?? 」
驚きのあまり夏がそう叫ぶと、 黎弥はあっさり答えた。
「もちろん。だってオレは、香夏の彼氏だぜ?? 」