「とにかくっ!! 」
場を粛清するかのように、香が切り出した。
「とにかく、いったん研究所へ戻るよ。
ここじゃいつ偵察機に気付かれるか分からないからね」
「分かった」
「今度は置いていかないでよ! 」
そして3人は勢い良く立ち上がる。
「でもまずいな。
おそらく、まだこの洞窟の周辺に偵察機がいるはずだ。
あたしもここへ来るまでにずいぶんと苦労した」
「だよな。夏ちゃんが偵察機に襲撃されてたとこは、間一髪だったもん」
「とにかく、奴らに見つからずに移動するには
“アレ”しかないだろ」
夏は首をかしげてたずねる。
「“アレ”って? 」
「“テレポーテーション”、だろ? 香」
「まぁな。でもあれは結構体力を使うから、使いたくないけど………」
「すごい! 香ってテレポーテーションできるの!!?? 」
「あぁ。あたしがあの原理を発見したんだからな。」
ちょっと得意そうに香は言った。
「香なら一瞬で研究所まで移動できるぜ? 」
「すご〜………」
夏は惚れ惚れと香を見上げた。
香はふと手のひらを見せる。
そこには不思議な見たこともないような模様が描かれていて、
不気味な色を帯びていた。
「ほら、握って」
黎弥は戸惑うことなく、その模様に触れた。
「夏ちゃん、ここに手を置いて」
「はい……」
黎弥に言われるがまま、夏も香に手を差し伸べた。
「夏、その手離すんじゃないよ。時空の狭間に振り落とされるからね」
「わ、分かった………」
香に念を押され、もう一度手に力をこめた。
「いいぜ。行こう、香」
「うん」
香はゆっくり目を閉じる。
それと同時に2人も瞼を落とした。
「研究所の位地は……………」
その瞬間、夏の頭には何かの「映像」がどっと流れ込んできた。
無数の液体。
大量の電気コード。
いくつもある、大きな冷凍保存用のカプセル。
ここはいったい……………
「―――――――テレポーテーション」
香の声が聞こえたかと思うと、辺りは一瞬真っ白になった。
無音の
無臭の
無空間。
再び夏たちが目を開いた時、
目の前には「映像」で見たものと全く同じ、
見たことのない部屋の中にいた。