17, 動力源
夏が目を凝らすと3人は、広いとは言えない研究所らしき
建物に囲まれていた。
どこからともなく聞こえてくる
液体が沸騰するような音、
一定のリズムを刻む、妙に甲高い電子音、
重いにごったような空気――――
香はそれらに溶け込むようにして、夏と黎弥の手を降りほどいた。
「お? 久しぶりだな、ここ。」
「ここが、香の研究所……………? 」
「はぁ――――はぁ―――――
あぁ。散らかってて悪いけど――――――そこらへんに座ってよ。
あと、ここはちゃんと―――――――空気洗浄してるから
その暑苦しいラム――――――も、外して大丈夫だ。」
それを聞いて、夏は口の周りを覆っていた“異物”を
すばやく取り外し胸いっぱいに、空気を吸った。
黎弥は、資料で埋め尽くされた机の上に
夏は、分厚い資料集や標本の上にちょこんと座る。
香も腕を組んだまま、側の壁にもたれかかった。
「で、香。いっぱいあたしに説明しなきゃならないよね?
ひとつひとつ、丁寧にゆ〜くり説明してよ。」
「はぁ?――――めんどいじゃん。」
「ダメ! まず?ZOAR?のことね! 」
迫る夏を見て、めんどくさそうにため息をつく香だったが
やがてポツリポツリと話し始めた。
「作ったのがアンタであたしなんだから、ある程度の構造は知ってると思う。
簡単に言うと?ZOAR?は
“人間の命で動くロボット”だよ」
「……………………に、人間の…………………命!!? 」
「あぁ。
<ZOAR>の動力源として使われる、
生命エネルギーって言うのは
“人間が生きるために必要とする命の力”のこと。
それを使って動くから、ゆえに“人間の命で動くロボット”」
「ひ、人の命なんて使ったら、その人死んじゃうんじゃ…………」
「何も死ぬまでエネルギーを吸い尽くすわけじゃない。
その人間の“命の残量”を計算した上で
どれだけのエネルギーを使うかに換算するんだ」
「ひ、………人は死なないんでしょ? 」
「死なないよ。
死なない程度に命を貰うのさ」
「嫌な言い方しないでよ! まるで死神みたいな………」
「別に言いつくろったって仕方ないだろ?
う〜ん、だからぁぁぁ〜
<ZOAR>に命を提供してもらってるだけなんだよ」
「それって………一般人から? 」
「さぁ? でも言ったでしょ、あたしは人類を相手に戦うんだ。
本当なら全人類から貰ってもいいくらいなんだけど。
まあ、気前の良い奴からちょっとずつね」
「アハハ、全くほんとに香は怖ぇなぁ! 」
会話を聞いていた黎弥が、そう言って笑った。