21, 囚人
「いいだろう、こっちに来て」
香はそう言うと、研究所のさらに奥深くへ進んでいく。
冷たい鉄格子が何重にもはってあり
数10桁の暗証番号を入力するシステムになっていた。
「厳重なところだね………」
夏はそのあまりの警戒さに、目を瞠る。
香は、どんどんなれた手つきで、システムを解除していく。
3つくらいの鉄扉を過ぎたあたりで
突然目の前が開けた。
とは言っても、やはり同様に薄暗く、まるで洞穴のような場所だ。
なにかの腐敗していくような悪臭も漂う。
夏と黎弥は顔をしかめながら、その部屋へ足を踏み入れた。
「止まれ」
ふと香が、白衣を翻して立ち止まった。
夏もそれに倣って立ち止まり、なんとなく前方を見つめた。
「――――――こ、これは………………!!! 」
薄暗い中で突然目の前に現れたのは、
長細い縦型の水槽に沈んでいる、ひとりの人間の姿だった。
そのあまりの異様な光景に、夏自身声を上げるので必死になる。
「こ、こ、これは―――――香……………」
「このカプセルは、人間を長期間冷凍保存しておける
特殊な液体の入ったもの。
中身の人間は、数年前に重罪を犯して監獄入りとなった囚人だ。
あたしが実験材料のために貰ってきたのさ。
もちろん、こいつの心臓は今でも正常に機能している」
「ひっ!! 生きてるの!? 」
夏は青ざめたように、その場から一歩退いた。
「生きてはいるが、脳は死んでる。夏の時代の言葉で言うと
“植物状態”ってやつになってるの」
「うそでしょ……………」
「ほんとだよ。
今からこいつを、?ZOAR?被験体にする。よく見てな。」
淡々と説明し終えたかと思うと、無表情のまま
香は冷凍保存用のカプセルに繋がれる、無数の管を引きちぎった。
「おい、大丈夫なのか! 香? 」
黎弥も心配そうに見つめている。
「………………」
香は何も答えないまま、次々に管を引きちぎってゆく。
その破れた部分からは、カプセルを満タンにしていた
奇妙な色とにおいのする液体が流れでていった。
「わっ………この液体…………」
足元に流れてくるその液体を必死によけながら
夏と黎弥は香のその光景を、ただじっと眺めていた。