小説『ZOAR』
作者:ララ()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>




  カプセルに入っていた特殊液が、全て流れ出るころには

  その不気味な液体とにおいとで、部屋が充満していた。

  「ちょ…………香! すごいにおいだけど

  これ、身体に影響はないんでしょうね? 」

  「平気だから、少し黙ってろ」

  夏の方を振り向きもせずに、怒ったような口調で吐き捨てる香。









  空になった巨大カプセルは、中に人を閉じ込めたまま

  ごろんと床を転げた。

  それを見下ろしながら、香は無表情のまま

  ハイヒールを履く足に力をこめる。

  「何するんだ!? 」

  「………………」

  黎弥の言葉には、耳を貸す様子もなく

  香はそのまま勢いよく足を振り下ろした。 










  バリンッッと鋭い音を立てて、

  ハイヒールの食い込んだカプセルは、無残に割れた。 

  そのガラスも特殊製なのか、一片の破片も残さず

  まるで蒸発するように、全てが一瞬で消え去った。

  「あ、あぁ………………」

  その様子を、夏たちは唖然と見つめる。

  中からは、植物状態になっていた“人”が転がりでてきた。










  「うわっ!! 気味悪い……………」

  「おい香、それほんとに生きてるのか? 」

  “人”は、青白いというより、真っ白な顔をしていて

  瞳孔は開きっぱなし、髪はワカメみたいにふやけているし

  唇は真っ青、香が着せたのか白いシャツは

  中の液体の色に染まりきって、恐ろしい悪臭が漂っている。

  もう顔では男女を見分けることすら困難な状態。

  なのに心臓のところだけは、微かだが上下していたのだ。

  








  
  それでも香は怯える様子もなく、づかづかと“人”へ近づく。

  そして白衣に両手を突っ込んだまま

  容赦なく“人”を蹴り飛ばした。

  「今から、こいつ被験体にしてみるから。

  しっかり見てなよ」

  「ゴクッ―――――――」

  「あぁ」

  部屋の片隅の方で、かたかた震えながら

  夏と黎弥は頷いた。










  
  横たわる“人”の腹部を蹴り上げ、ごろんと上向けにさせる。

  そのあまりの醜い顔に、夏は短く悲鳴を上げた。

  香は特に気にする様子もなく

  小さな棚から、数本の試験管をとりだした。

  透き通るような、水色の液体が半分くらいまで入っている。

  「それは何、香」

  「これは、こいつに残されている生命エネルギーを

  核細胞に移し変えるために、重要な薬品だ。

  美しく綺麗だが、触るなよ。

  そいつはカプセルに入っていた液体よりも猛毒だ」










-29-
Copyright ©ララ All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える