カプセルに入っていた特殊液が、全て流れ出るころには
その不気味な液体とにおいとで、部屋が充満していた。
「ちょ…………香! すごいにおいだけど
これ、身体に影響はないんでしょうね? 」
「平気だから、少し黙ってろ」
夏の方を振り向きもせずに、怒ったような口調で吐き捨てる香。
空になった巨大カプセルは、中に人を閉じ込めたまま
ごろんと床を転げた。
それを見下ろしながら、香は無表情のまま
ハイヒールを履く足に力をこめる。
「何するんだ!? 」
「………………」
黎弥の言葉には、耳を貸す様子もなく
香はそのまま勢いよく足を振り下ろした。
バリンッッと鋭い音を立てて、
ハイヒールの食い込んだカプセルは、無残に割れた。
そのガラスも特殊製なのか、一片の破片も残さず
まるで蒸発するように、全てが一瞬で消え去った。
「あ、あぁ………………」
その様子を、夏たちは唖然と見つめる。
中からは、植物状態になっていた“人”が転がりでてきた。
「うわっ!! 気味悪い……………」
「おい香、それほんとに生きてるのか? 」
“人”は、青白いというより、真っ白な顔をしていて
瞳孔は開きっぱなし、髪はワカメみたいにふやけているし
唇は真っ青、香が着せたのか白いシャツは
中の液体の色に染まりきって、恐ろしい悪臭が漂っている。
もう顔では男女を見分けることすら困難な状態。
なのに心臓のところだけは、微かだが上下していたのだ。
それでも香は怯える様子もなく、づかづかと“人”へ近づく。
そして白衣に両手を突っ込んだまま
容赦なく“人”を蹴り飛ばした。
「今から、こいつ被験体にしてみるから。
しっかり見てなよ」
「ゴクッ―――――――」
「あぁ」
部屋の片隅の方で、かたかた震えながら
夏と黎弥は頷いた。
横たわる“人”の腹部を蹴り上げ、ごろんと上向けにさせる。
そのあまりの醜い顔に、夏は短く悲鳴を上げた。
香は特に気にする様子もなく
小さな棚から、数本の試験管をとりだした。
透き通るような、水色の液体が半分くらいまで入っている。
「それは何、香」
「これは、こいつに残されている生命エネルギーを
核細胞に移し変えるために、重要な薬品だ。
美しく綺麗だが、触るなよ。
そいつはカプセルに入っていた液体よりも猛毒だ」