2, 不思議な女性
声のするほうに目を凝らすと、そこにはロングヘアーの一人の女性が立っていた。
白衣の両ポケットに手を突っ込んで、タバコをくわえている。
香夏の学校に、あんな教師はいない。
不思議に思って香夏は椅子から立ち上がると、
女性に再び聞いた。
「あなた、誰? 」
すると女性は白衣に手を突っ込んだまま、香夏の方へ歩み寄ってきた。
背の高いその女性は香夏をじろりと見下ろす。
ペッとくわえていたタバコを捨てると、
ハイヒールの底でぐりぐりと火をもみ消した。
タイルの床に黒い焦げ目が付いたのを見て、香夏はもう一度言う。
「あなた、一体誰……? 」
「――――――あたしは、アンタに用がある」
その女性は口を開いた。
「用って? あたしはあなたを知らないけれど……」
「アンタの今書いてたものを見せな」
香夏はビクリとしたが、慌てることなく一番上の作文用紙を女性に見せた。
設計図を筆箱でこっそり隠す。
「これ、宿題なの。作文よ」
「………………」
女性は鋭い目で、その作文を嘗め回すように見つめたが、やがて
「これじゃないでしょ? 」
「な、何言って……」
「知ってるんだよ、早く見せなよ。?ZOAR?の設計図」
「どうして…………その名前を――――」
「あたしにはアレが必要なの! さっさとよこしな!! 」
女性は厳しい目つきで、香夏に手を差し出した。
香夏の額に脂汗がにじむ。
何なのこの人―――――
どうして…………
「早く出しな! 」
「し、知らない、あたしはそんなもの知らない!! 」
必死に白を切る香夏を見て
女性はめんどくさそうに舌打ちをした。
「しらばっくれるんじゃないよ。
人体から取り出される生命エネルギーを使って
ロボットを動かすあのテクノロジーを、巧妙に記した設計図だよ!
はやくあたしによこしな! 」
そう、香夏の作っていた設計図はただのロボット設計図ではない。
人一人から取り出される幾分かの生命のエネルギーを
ロボットのエネルギーに置き換え使用する、というものだった。
そんな香夏しか知らないような情報を
どうしてこの女性が知るのだろうか。
他人が見れば、小学生の落書きにしか見えないような設計図を
この女性はなぜ欲しがるのだろうか。
香夏は恐怖を覚えた。
「あ、あなた…………い、い、いったい…………何者なの?――――」
女性は差し出していた手をまたポケットへおさめると
新たにタバコを取り出し、ライターで火をつけた。
一歩ずつ後退していく香夏を見て、女性はそっけなく言った。
「あたしの名前は 宮浪 香夏。総国家特別科学部隊の総司令官だ」
「なっ………………!!! 」