24, 消えた香
突然のことに驚いていた夏だったが、やがて一つのカプセルの前に立った。
さっきと同じような液体の中に
同じような顔と服をした、“人”が入っている。
ドキドキしながらも、好奇心と勇気を振り絞って
カプセルに繋がる無数の管に手をのばした。
コポコポとカプセルの中の液体が音を立てた。
「よいしょ………!! 」
すぐ隣では、黎弥が容赦なく管を引きちぎっている。
カプセルからも徐々に不気味な液体が流れ始めていた。
黎弥は宙ぶらりんになったカプセルを
足元の鉄パイプで叩き割る。
「…………よしっ…………」
それを見ていた夏も、負けじと管をちぎり始めるのだった。
中から出て来た“人”を、黎弥は丁寧に仰向けにさせると
その顔をまじまじと見つめた。
「なぁ、こんなゾンビみたいな不気味な顔の?ZOAR?が出来ちまったら
触るどころか、近づくのにも抵抗があるなぁ」
「あはは、それは大丈夫ですよ黎弥さん。
これはあくまで、この“人”の生命エネルギーを使うだけですから
出来た“ZOAR?がこの顔になることは
まず、ありえませんよ」
「お? さすが未来の科学者だな」
「あははは…」
そんなたわいもない話をしながら、
夏はカプセルから“人”を取り出した。
あまりの悪臭に鼻を押さえながら、ふたりは二本の試験管に手を伸ばす。
黎弥はごくりと唾を飲み込んで
“人”の上で片方の試験管を傾けた。
大量の煙を確認したところで、さらに二本目の液体をかける黎弥。
その光景を、隣でじっと見つめる夏。
「――――――こ、これでいいんだよな? 」
「あ、あってると思いますけど……」
化学実験の苦手な黎弥は、不安そうに夏に聞いた。
「この後呪文みたいなの、言うんだよな?
なんだっけか…………」
「Be………come? でしたっけ……」
「う〜ん………香に聞くか」
「そうですね」
「香――――――」
そして夏は、くるりと後ろを振り返った。
しかし、そこには誰もいない。
「あれ? 香、どこ?? 」
「いないのか? 」
黎弥も振り返ってあたりを見渡した。
この研究室自体、そんなに広くはないのだが
部屋のどこにも香の姿はなかった。