「あれ、黎弥さん。香がいないです……」
「ほんとだ。ま、トイレか何かだろ? 心配するなって」
黎弥は特に気にする様子もなく、また“人”に向かった。
「まぁ、そうですけど」
「平気だって。それよりオレたちは、?ZOAR?に専念しないと」
「でも、呪文どうするんですか?
あたし、曖昧にしか覚えてないですよ」
「たしか、こうだった気がするんだけど………」
「覚えてるんですか!? 」
「いや、ほんとにあってるかは知らねーよ? でも、たぶんこんな感じ――」
そう言うと黎弥はじろりと“人”を見つめ
はっきりとこう叫んだ。
「Become my slave!!! 」
「あ、そんな感じだったかも――――」
息をつく暇もなく、“人”に変化が表れる。
それは“人”のちょうど心臓部あたりから、ゆっくりと姿をあらわした。
「出た…………」
「マ、マインド・ローズだ………」
さっきの薔薇より、少しだけ赤みが強く形も大きな
マインド・ローズがふわりと浮かび上がる。
「こ、これが、?ZOAR?を動かす心臓部になるんですね……」
「そういうことだろうな。
オレも詳しいことはよく知らねーし分かんないけど
あとは香がこれを、核細胞に変えるんだろ? 」
「あの、一つ聞きたいことあって…………」
夏は、俯いてそうつぶやいた。
「ん? どした? 」
黎弥は優しく夏を覗き込む。
「香は……あたしのすんでいた世界で言ったんです。
“あたしの研究を手伝ってほしい。
だから、自分を助けると思って未来に来い”って。」
「うんうん」
「香の研究って、結局なんなんですか?
自分を助けるって、香はあたしの助けを必要としてるってことですか? 」
「おいおい、そりゃ、オレより香に聞くことだろ? 」
「お願いです、知ってる限りで教えてください! 」
「香の研究ってのは、夏ちゃんも知ってる通り?ZOAR?の研究だよ。
ただし、夏ちゃんの書いた設計図とは
少し違った?ZOAR?のな。
そんなこと聞いて、どうするんだよ? 」
「実は、香の言ってることのつじつまが合わないんです。
いくら考えても分からない。
何か……何か、
重大なことを見落としている、そんな気がしてならないんです」