5, カオリとナツ
香夏には、一瞬目の前の女性の言うことが理解できなかった。
「未来に………来い………?
あなたの研究を、あたしが……手伝うの?? 」
「そう。何、文句あるの? 」
「え、そういうのって……いけないんじゃ――――」
「何で?! 」
「よく知らないけど、“過去の人間が未来のことを、知ってはいけない”とか
あるじゃない?? 」
「そんなの、あたしの知ったことじゃない」
「え!? 」
「馬鹿のくせに、変な知識だけはあるんだ。
過去の人間が未来を知ったり、未来の人間が過去にやって来ることは
未来の法律に反するんだ。
未来を変えてしまったり、自分で物事を考えられなくなるからな」
「それじゃぁ………」
「あぁ。理論上は法律に反するが、あたしらは“例外”だ」
「なんで? 」
「あたしとアンタ、つまり「自分どうし」でしょ?
だから、自分が自分の未来くらい知ってていいんじゃない、っていうのがあたしの考え。
どう! 文句ある!? 」
いまいち彼女の言うことが理解できない香夏だが、
これ以上自分に“馬鹿”と言われるのもしゃくなので
ひとまず質問を止める。
「え〜っと、だから………文句はないけど………
法律に触れてまで、その研究を完成させたい、そういうこと」
「ああ。重大な研究よ」
そんな女性、いや未来の香夏を見て、香夏は思った。
(未来じゃ、あたしの性格はこんなふうになるの…………………? )
そしてちょっぴり絶望するのだった。
横でふと、未来の香夏は言った。
「ねぇ、お互い“香夏”“香夏”って呼び合うの変だろ? 」
「そ、そうだよね。
あなたもあたしも“香夏”だもんね」
未来の香夏は、タバコを口から話すと
煙を吐きながら近くの机に腰掛ける。
「面倒だからこうね。
あたしが“香(カオリ)”、アンタが“夏(ナツ)。
これで、どっちも香夏。どう? 文句ある? 」
「い、いえっ、ありませんっ! 」
「よしっ! 」
「……………………」