6, トラウマ
夏たちが家に着いたのは、もう6:00を回った頃だった。
家のドアを開けたとき
奥の方から夕飯のにおいが漂ってくる。
夏が靴を脱いで家に上がった瞬間、横の扉から
弟の拓斗が飛び出してきた。
「香夏姉ちゃん! お帰りなさい!! 遅かったね」
「うん、ごめんね拓斗」
そう言って夏は、拓斗の頭をそっとなでた。
嬉しそうに笑いながら、ふと姉を見上げた拓斗は、
後ろに立つ香の姿に気付いた。
「香夏ねえちゃん、その人だぁれ? 」
一瞬ビクリとした夏だったが、素気なく言い返す。
「友達の香」
「ふ〜ん、よろしくね香さん! 」
拓斗は香に右手を差し出した。
「…………………っ………………! 」
しかし香はそれを見て、なぜか顔を真っ青にした。
覗き込む拓斗の視線を必死にさえぎるようにして、そっぽを向く。
驚いた夏が、香に耳打ちする。
「何? どうかしたの? 」
「…………夏………あたしは拓斗に“トラウマ”がある。
あたしの前に、そいつを来させないでくれ…………………――――」
「拓斗に……………トラウマ? 」
そんな二人を見ていた拓斗は、不思議そうに二人を見比べた。
「香さんと香夏姉ちゃんって、なんか似てるね」
さらに香の顔が引きつるのを見て、
あわてて夏が答える。
「そ、そんなことないよ!
いい?拓斗、あたしたちは部屋で食べるから、母さんにお願いできる? 」
「わかった〜」
拓斗はそれだけいうと、嬉しそうに台所へ走っていった。
ふ〜っとため息をつく二人。
「…………………部屋………………行こっか、香」
「そうだな――――」
くわえていたタバコを、玄関でぐりぐり踏み潰すと
香も家へと上がった。
夕食のにおいがだんだん強くなってくる。
夏は、母のいるキッチンへ顔を出した。
「あ、母さん。今日友達が泊まっていくから
ご飯はあたしの部屋に持ってきてくれる? 」
「あら、香夏。えぇ、拓斗から聞いたわよ。お友達はどこ? 」
人一倍愛想のいい母は、濡れた手を拭きながら
キッチンから出て来た。
夏は、すぐに香を紹介する。
「母さん、あたしの友達の香」
「あっらぁ〜、てっきり同級生かと思っちゃったけど
先輩なのね、香夏! 」
嬉しそうに母は香を眺めた。