第十五話 最後の精霊王
ギルドを出たカイルは旅支度を整えた後、空を見上げていた。
【どうする?奏者。私が飛ばそうか?」
シルフが語りかけてくる。カイルはゆっくりと首を振った。
「いや、出来るだけ魔力を使いたくない。テリーを呼ぶ」
ピィーーっと指笛を吹くと、遥か上空から全長三メートルはある銀の毛並みの狼が現れた。
「よく来た、テリー。ちょっと遠出になるぞ?大丈夫だな?」
「ウォフ!!」
カイルの問いに力強く答えるテリー。彼はバトルウルフと呼ばれる種類の動物で、その最高速度は時速300キロを越える。
カイルが背中に飛び乗ったのを確認すると、駆け出した。逐一カイルが方向の指示を出す。
「おお、また速くなったな、テリー。」
【そんな事より奏者よ、わかってるのか?今回の相手……黒い龍の魔力といえば恐らく】
「わかってる。龍の精霊王オーフィス。俺が唯一使役出来てない精霊王」
ローレライであれば無条件に精霊王を使役できるというわけではない。精霊王と対峙して己の力を示す時、初めて精霊王はローレライの一部となるのだ。
「二年前はまるで相手にならなかった……だがあの時とは違うぞ」
【というか、二年前はオーフィスの試練じゃなかったのに奏者が私とやった後に立て続けでやるから歯が立たなかったのよ。全力ならもう少しいけてたわ】
「めずらしいな、闇の精霊王レスティア。おまえが俺を褒めるなんて」
【だって貴方は歴代ローレライで初めて私を使役できるローレライなのよ。少しぐらいは肩を持つわ】
そう、レスティアはかなりのじゃじゃ馬だった。完全に制御できるようになったのは結構最近だったりする。
そうこうしているうちにアストラル近くにまで到着していた。深い森林が生い茂る山だ。ここにいるだけで既にかなりの魔力を感じる。
しかし早い…テリーの成長速度は俺の想像を遥かに超えている。
「着いたな、アストラル。ご苦労だった、テリー。休んでていいぞ」
「ウォン!」
はっはっと息を切らしながら誇らしげな顔をするテリー。宿の最高級の寄宿舎に預ける。ここでならゆっくりと休めるだろう。
【どうする奏者よ。すぐに挑むか?」
「まさか、今夜一晩は休ませてもらう。何処かに宿があるだろ」
荷物を背負うと人のいそうな宿を探した。
「すいませーん。一名なんですが、予約とかしてねーんすけどいいっすか?」
「はい、構いませんよ。人魚姫の宿(マーメイド・ヒーリング)へようこそ!」
とても和風な宿だ。女将も着物を着ている。紺色がよくにあっている。本人の美貌もあいまって実に美しい。
部屋を案内してもらうと、ここ最近のアストラルの状況を女将に教えてもらった。
「なんでも、山が震える事が多くなったんです。あそこにはとても強い魔獣の類が数多くいるんですが黒い龍に食い殺されて、死体となって発見されています。高い素材がタダで手に入ったと喜ぶ村人もいますが、いつ人に被害が出るかとやはり私達は怖いです」
「そうですか……ありがとうございました。とても参考になりましたよ」
(人に迷惑をかけるようなことは恐らくしないだろう。精霊王は基本人のために行動しているからな。それがここまで派手に動くってことは俺を誘ってんのか?まああってみればわかるか…)
「ところでお客様は魔法剣士様ですか?」
「?はい、一応。なぜ?」
「宿帳にカイルと書かれてました。貴方は黒の騎士王様ですね」
「よくご存知だ。いかにも俺が黒の騎士王ですよ。それがどうかしましたか?」
「やっぱり!!宿賃は結構ですから一つ頼みを聞いていただけませんか?こんな田舎に魔法剣士様がいらっしゃる事なんて滅多にありませんから」
「できる事であればなんでもやりましょう。依頼料は宿賃で結構ですから。それで?」
「実は……アストラルを追われた魔獣達が新たに生活場所を作ってるようなんですがそれが人家の近くで……撃退をお願い出来ませんか?」
「わかりました。しかし俺も明日にはやらねばならない事があります。それが片付けば、すぐに取り掛かりましょう」
「それで結構ですよ。ありがとうございます」
しばらく立った後食事を出され、風呂を浴びた後、カイルは部屋でゆかたを着てくつろいでいた。
【のんきね、明日は恐らく死闘になるわよ。そんな余裕でいけるの?」
「お前は俺が慌てふためく姿がみてえか?リート。どう過ごしても流れる時間はかわんねえよ。なら落ち着いて、己の魔力を正常に張り巡らしておく方がいい……」
満月の夜空を見上げながら、部屋においてあった三味線に手をかける。
ビンビンっと音を奏でる。三味線を弾きながら、明日の運命の一戦に心を静かに燃やしていた。
翌日、よく晴れた早朝にカイルはアストラルへと入って行った。
次々に襲いかかってくる龍を全て斬り裂いて進んでゆく。
【奏者、わかってると思うが「ああ、この試練の間俺はローレライの力を使えない。だろ?大丈夫、とりあえずはこいつでなんとかなるよ」
精霊王の力を使わない俺だけの魔法。術者の魔力次第でありとあらゆる武器を呼び出す事ができる魔法【千の顔を持つ英雄】
その中でもカイルは警戒して最も強い剣であるエクスカリバー(約束された勝利の剣)を構え、奥へと進んで行った。
不意に広い空間のある場所に出た。そこには並の魔導士ならば踏み入れただけで失神してしまいかねないほどの魔力に満ちた部屋だった……そこに佇む黒いドレスを纏った金髪の美女がいた。
口元を歪めた後、語りかけてくる。
「当代のローレライよ、よく来た。待っていたぞ」
二年前には勝てなかった死闘が再び始まる……
あとがきコーナー。いよいよ現れました最後の精霊王。二年前の雪辱を果たす事はできるのか!!テリーはもちろんトリコからです。
ここで精霊王達のイメージ紹介をしたいと思います。
炎の精霊王イフリート リアス・グレモリー (ハイスクールD×D)
風の精霊王シルフ ココ・ヘクマティアル(ヨルムンガンド)
闇の精霊王レスティア 山吹姫(ぬらりひょんの孫の羽衣狐)
氷の精霊王フリージア クリスカ(トータルイクリプス)
龍の精霊王オーフィス アリカ・アナルキア・エテフォンシュア(ネギま)
今のところこんな感じです。どんどん増えて行きますので楽しみにしていてください。ではまた次回お会いしましょう。