小説『フェアリーテイル ローレライの支配者』
作者:キッド三世()

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第五十八話 生きる事が……戦いだ!!






「ど、どうしよう…私のせいだ…」


「…」


倒れたカイルを見て目に涙を溜めて震えるウェンディをヒビキが黙って見つめる。


「私がジェラールを治したせいで…ニルヴァーナが見つかっちゃって…カイルさんッ」


「っはぁ!」


「、きゃぁ…!」


そこで、突然ヒビキがウェンディに攻撃を放った。
皆が唖然とする中、ウェンディの体が地に落ちる。


「ち、ちょっと…っ!」

「アンタ!いきなり何すんのよ…ッ!」


「っ驚かしてごめんね!でも、気絶させただけだから!」


「…納得できないわね。確かにウェンディはすぐグズるけど、あんな荒っぽいやり方…」

「そうだよー!」


「…」


腕を組み、ムスッとしているシャルルの言葉に、ヒビキは一度黙り込む。
そして意を決したように口を開いた。


「…仕方、なかったんだよ。……本当のことを言うと、僕はニルヴァーナという魔法を知っている」

「「、!」」

「え、本当に!?」


驚きをみせる皆に、ヒビキは静かに頷く。



「ただ、その性質上…誰にも言えなかった。この魔法は意識してしまうと危険なんだ。…だから、一夜さんも、レンもイヴも知らない。…僕だけがマスターから聞かされている」


「…どういうこと?」


「これは…とても恐ろしい魔法なんだ。…光と闇を入れ替える……――――それが、ニルヴァーナ…」


「!、光と…」

「闇を…」

「入れ替える…?」


ルーシィたちは理解できない、という表情を見せるが、ヒビキは構わず続ける。


「しかし、それは最終段階。まず、封印が解かれると黒い光が上がる。まさにあの光だ」


そう言って空を見上げるヒビキ。
その空には、黒い光の柱が天高く上がっている。


「黒い光は手始めに、光と闇の狭間にいる者を逆の属性にする」


「逆の属性…」



「…強烈な負の感情を持った者は…―――――闇に落ちる」


ヒビキの言葉を聞き、そこでシャルルはハッとする。


「それじゃぁ…ウェンディを気絶させたのは…!」


「自責の念は負の感情だからね…あのままじゃ、ウェンディちゃんは闇に落ちていたかもしれない」


「…、ちょっと待って…それじゃぁ、カイルが倒れたのって…」


そう言ってルーシィは自分の顔の横のカイルを見た。


「……………ガハァ!!」


「「「カイル!!」」」


まるで水の中にでもいたかのように呼吸を荒げるカイル。
エルザ達は目を覚ました事に安堵すると共に、汗だくになってるカイルを不安気に見ていた。


「はぁっ、はぁっ、……俺はどれくらい寝てた?」


「ほんの数秒だ…」


「目を覚ましたか、エルザ……良かった」


「その事は済まなかった。私が不甲斐ないばかりに……だがそれよりお前の方はどうしたんだ?急に倒れたそうじゃないか」


皆同意を示すように頷く。別段変わった事は起きてなかったから尚更だ。


「理由はわからないが……俺の中の光と闇の精霊王が急にめちゃめちゃに暴れ出したんだよ。そいつら精霊王の中でもかなり番付上だから俺への負担が半端じゃなくて…」


「闇と光……じゃあやっぱりヒビキが言ってた通り…」


「ニルヴァーナの影響で間違いないよ」


「今は大丈夫なのかよ!?」


「ああ、強制的に休眠状態にさせた。あまりローレライは使えなくなっちゃったが千の顔を持つ英雄だけでも充分戦える。問題ない。それよりエルザ、お前も感じてるな?」


沈痛な面持ちで頷くエルザ。
気持ちはわかる。だが行かなきゃならない。


「お前らはここで待ってろ。エルザ、ついて来い」


「ああ」


「い、一体何するつもりなんだよ、カイル?」


わけがわからないといった顔をしているグレイ。僅かでも不安が紛れるようカイルは優しく微笑んだ。


「兄の義務を果たしに行くだけさ」
















「…」


不安げな面持ちのまま、黒い光の柱を目指して黙々と樹海を駆け抜けるエルザ。


―――――…ジェラールが生きていた。


スッと目を伏せれば、鮮明に浮かぶジェラールの姿。



ーーーーエルザ





幼い頃、泣いてばかりの自分に手を差し伸べてくれたカイルとジェラール。
冷たく凍りつく様な目で、エルザの心に刻み込むようにゆっくりと語ったジェラール。
傷ついた自分を身を挺して守ってくれたジェラール。


楽園の塔での非道な行い、裏切られた想い。
湧き上がってくるのは、怒り、悲しみ、憎しみ、、、

しかし、幼いときのジェラールの笑顔がそれを霧散させる…


「憎みきれねえよな……お互い」


苦笑いしているカイルが話しかけてくる。同じ思いなのだろう。こいつは人一倍優しいから……殺されかけてもあいつを弟だと思っている。


「だが……ケジメはつけなきゃな」









黒い光の柱に近づくにつれ、柱から発生する風が土を巻き上げ、視界を狭める。


「く…」


腕を顔の前に持っていき、砂が目に入るのを防ぎながらエルザは前進していた。

竜の様に渦巻く風を抜けると、遂に辿り着いた柱の根本。


「…!」


驚く二人の視線の先には、黒いコートと碧の髪をバサバサと靡かせ、こちらに背を向けている男―――――ジェラールが、ゆっくりとカイルとエルザを振り返る。


やっと言葉を発することが出来たエルザ。

どれくらいそうしていたのだろう。
それは凄く短い時間だったかもしれないが、エルザには酷く長く感じられた。


「…エルザ」


何の感情も籠っていない声。
エルザは震える拳をグッと握り、疑問を投げかける。


「お、お前…どうしてここに…」


「……わから、ない…」


エルザの問いに、震えた声で答えるジェラール。
その様子はどこか弱々しく、何かを恐れているかのようだ。


「エルザ……兄さん…」


「、!」


ジェラールは、まるで譫言のようにエルザと兄さんという言葉を何度も呟く。
エルザの頬を冷や汗が伝った。


「エルザ…“にい、さん”……その言葉しか、覚えてないんだ…」


「ぇ、…」


信じられない、という顔をするエルザを差し置き、ジェラールは震える腕で頭を抱える。


「教えてくれないか…ッ…俺は誰なんだ…君達は俺を知っているのか…?」


「…、」


「エルザとは誰なんだ…“にいさん”とは誰なんだ…?何も、思い出せないんだ…ッ」


悲痛な表情で訴えてくるジェラールを見、エルザの瞳に涙が溜まる。
カイルも愕然としている……この展開は予想してなかった…


何故私とカイルの名前だけを…


「…」

「…」


三人は無言で見つめ合う。
…いや、ジェラールは無言になったのではなく、話せなくなってしまったのだ。

何も覚えていない今、話せることなどない。

ジェラールは、自分の問いに目の前の人物が答えてくれるのを待つしかないのだ。



「…ジェラール、」


「っ!来るなッ!!」


カイルは問いに答えるのではなく、名をゆっくりと呼びながら、ジェラールに近づいた。
だが、その行動にジェラールはビクッと肩を震わせ、それ以上近づくな、とカイルに向けて光線を放った。

直撃した光線はカイルの肌を傷つけ、
つぅと赤を伝わせた。


しかし、それでもカイルは表情を変えず、その場に立ち止まってジェラールを見据える。


弱々しくなっていく語尾。
ジェラールの顔には恐れが浮かんでいた。

そんなジェラールを見、カイルはキッと表情を引き締める。


「ならば、てめえが来い。俺が兄さんだ……名はカイルディア・ハーデス。ここまで来い!」


「、…」


「お前の名はジェラール。…俺達のかつての仲間だ」


「…なか、ま……」


目を見開き、カイルの言葉を復唱するジェラール。
カイルはそんなジェラールに構わず、言葉を続ける。


「乱心したお前は死者を冒涜し、仲間を傷付け、評議院さえも破壊し……シモンを……殺した」


「っ、…」


カイルの横からエルザも会話に加わる。


「それだけではない……お前は、兄をも殺そうとした」


「俺、が…?」


目に涙を溜めながら、心に浸透させるようにジェラールはエルザの言葉を聞く。


「それを…それを忘れたというつもりならッ!心に剣を突き立てて刻み込んでやる!ここに来い!私の前に来いッ!」


「…っ…俺が…仲間、を……兄さんを…ッ、そんな…ッ…」


遂に零れ落ちる涙。
ジェラールは己の顔を押さえ、嗚咽を上げる。


「…、ッ俺は…何ということを…ッ…俺は…俺はどうしたらッ……く、ぅ…ッ」


「…」


見たことのないジェラールの姿に、エルザは眉を寄せ、俯く。


(これが…あのジェラール……)



「っ…く……ぅッ…」



人々を裏切り、悪逆を尽くしていたジェラールの姿は今や見る影もなく、彼らの目の前には、己の犯した罪に怯え、弱々しく肩を振るわせるジェラールしかいなかった。


不意に横から手が肩に添えられる。
カイルだ……手から言葉が伝わってくる……俺達が救うんだ……と。


「―――――テメェの記憶がねぇのはよくわかった。道理で心の声が聞こえねぇわけだ」


エルザの振り返った先にいたのは、キュベリオスを従わせ、不機嫌そうな顔をしたコブラ。


「どうやってここまで来た。…で、何故ニルヴァーナの封印を解いた?」


「……眠っているときに、誰かの声が聞こえた」


シャーッと威嚇をするキュベリオスと、怒気を含んだコブラの声に、ジェラールは少し躊躇いを見せながらもゆっくりと答える。


「ニルヴァーナを手に入れる、と。微かにその魔法と、隠し場所は覚えていた。…これは危険な魔法だ。誰の手にも渡してはいけない…」


「…」

「…、」


「――――――…だから、完全に破壊するために封印を解いた」


「っな…!?」

「ニルヴァーナを破壊する、だと…!?」


驚きに目を見開くエルザとコブラ。
そんな二人をジェラールは静かに見据え、淡々と言葉を口にする。


「自立崩壊魔法陣は既に組み込んである。ニルヴァーナは間も無く自ら消滅するだろう」


その言葉を合図に、黒い光の柱に不思議な形の魔法陣が広がっていく。

自立崩壊魔法陣。
これは魔法陣を組み込んだものを、自ら消滅させてしまう破壊魔法だ。


「くっ…」


コブラは急いで光の柱に駆け寄り、魔法陣の解除を試みる。
だが、ジェラールが組み込んだ魔法陣はあまりにも高度なもので、あの六魔将軍でさえも解けぬものであった。


「このままじゃ…っニルヴァーナが崩壊するッ!ジェラール!解除コードを吐きやがれ!」


「……っぐ…」

「「、!?」」


焦ったコブラがジェラールに詰め寄り、自立崩壊魔法陣の解除コードを聞き出そうとしたときだった。
突然胸を押さえ、苦しみだすジェラール。
その顔には汗が吹き出し、頬を伝い落ちている。

エルザとコブラは何が起きたのか理解できず、唖然とジェラールを見つめることしかできない。



「エルザ…、その名前からは、優しさを感じる…」


「…」

「カイルディア・ハーデス……その名前からは絶対の安心と……比類なき力強さを…っ…、明るくて、優しくて……温かさを感じる…」


苦しげに顔を歪めながら、ジェラールは目の前のエルザに目を向ける。


「きっと君達は俺を憎み続ける…それは仕方ない、当然のことだ…」


「、…」


「しかし憎しみは…心の自由を奪い、君自身を蝕む…ッハ、ハ…」


「お前…、!」


そこでエルザはジェラールの胸に広がるものに気が付く。
ニルヴァーナに広がっているものと同じ――――――自立崩壊魔法陣。



「俺はそこまで行けない…君の前には…行け、ない…ッ」


「こいつ…!自らの身体にも自立崩壊魔法陣を…ッ!」


荒い息をしつつ、ジェラールはふ、と何かを思い出したように苦笑を溢す。


「…それ、と…兄、さん……すまなかった…」


「っぁ…」


ぐらりとジェラールの身体が後ろに揺らぐ。


エルザとカイルの目の前で、ジェラールの身体がゆっくりと倒れていく。


「…ジェラール、から……解放、されるんだッ…」


「、」


「君達の憎しみも…、悲しみも……俺が、連れて逝く…」



「君達は……自由だ…!」


「っ、ジェラァアアアアアル!」


倒れるジェラールを追いかける様に、走り出すエルザ。
その瞳からは溜まった涙が零れ落ち、空に消える。


「く…っ」


駆け寄ったエルザはジェラールの胸倉を掴み上げて揺さぶるが、ジェラールは瞳を閉じたまま反応を示さない。

ジェラールの胸元の自立崩壊魔法陣が、徐々に喉元へと広がって行く。


「自立崩壊魔法陣の解除コードを墓場に持って逝く気かよ…!」


「っ、許さん…!このまま死ぬことは私が許さん…ッ!」


コブラの言葉を聞き、エルザは先程よりも強くジェラールを揺さぶる。


「お前には罪がある!思い出せ…!何も知らぬまま楽になれると思うな…ッ!」


「、ぅ…」


エルザの声と揺さぶりに、ジェラールの瞼が僅かに開かれる。


「生きて足掻け…ッ!ジェラール!!」


「…っ」


力なく、再び閉じられようとした瞼は、エルザの悲痛な叫びに反応し、大きく見開かれる。
ジェラールの瞳に光が戻り、エルザの姿を映した。


「…、…」


歯を食いしばり、涙を流すエルザ。
その姿をジェラールは茫と見つめ、目を細めて微笑む。


「エルザ…何故…君が、涙を?」


「、…ぁ…」


ジェラールにそう言われ、今初めて気が付いたように、己の手を見つめる。
鎧で覆われたエルザの手には、零れ落ちた涙の痕。


「優しい、んだな……、…」


嬉しそうに微笑み、ジェラールが再度目を伏せる。
ジェラールが身体から力を抜いたことで、ぐっとエルザの腕に重みが掛かった。


「ジェラール!しっかりしないか!―――――っ!?」


必死にジェラールを起こそうとしているエルザの背後に気配が現れた。


カイルだ……


ギュッと拳を握り締めるとバキっと鈍い音がなるほどの威力で殴りつけた。


「逃げんなよ……ジェラール……てめえの罪から逃げんな……生きる事が……てめえの戦いだ!!」


「―――――…これは一体何事か?」


「、お前は…!」


腕で涙を拭い、音と声のした方にエルザが振り返ると、そこには六魔将軍のブレインが立っていた。


「…自立崩壊魔法陣、」


「っジェラールが組み込みやがった!マズイぜ…このままじゃ、せっかくのニルヴァーナが消滅しちまう…ッ!」


ニルヴァーナに広がる魔法陣を見上げ、呟きを溢すブレイン。
そんなブレインを見、コブラは切羽詰まった声で状況を説明する。

ニルヴァーナは間も無く崩壊する……
しかし、こんな状況だというのにブレインは口角を上げ、面白おかしげに笑う。


「クク…案ずるなコブラよ。私が何故、ブレインというコードネームで呼ばれているか知っておろう?」


「…、?」


笑みを浮かべたまま近づいてくるブレインに構えながら、エルザは話に耳を傾ける。


「私はかつて、魔法開発局にいた。その間に我が知識をもってして作り出した魔法は数百にも昇る」


「…」


「その一つがこれ……、自立崩壊魔法陣。――――――私がうぬに教えたのだ。忘れたか?…ジェラール」


「…!」


驚きに目を見開くエルザ。
その傍らに倒れているジェラールも、僅かに瞳を開ける。


「フン…自らの身体にも自立崩壊魔法陣だと?解除コード共に死ぬ気だったというのか」


「エーテルナノの影響で記憶が不安定らしい。どうやら、自分が悪党だったってことも知らねぇみてぇだ」


「フ、クハハハ…!何と…滑稽な」


「…ッ」


自立崩壊魔法陣の影響で苦しむジェラールを、見下したように笑うブレイン。
エルザがキッと睨み付けるが、ブレインはそれを躱し、自立崩壊魔法陣が組み込まれているニルヴァーナへと近づく。


「クク、解除コードなどなくとも…魔法陣そのものを無効化できるのだよ。…私は!」


そう言ってブレインは自立崩壊魔法陣に手を翳し、スッと手を振り上げる。
すると、広がっていた魔法陣がまるで逆再生されるかのように砕け、消えていく。


「、…そんなッ…」


絶望的な表情をするジェラールをブレインが嘲笑う。


「哀れだなジェラール。――――ニルヴァーナは私が頂いた!」


両腕を広げ、そう高らかにブレインが告げた。


―――――…ニルヴァーナの発動は、光の柱をより太くし、そして轟音と共に激しく地を揺らし始めた。

樹海に散らばっている連合軍は驚きに目を見開き、ただ揺れに耐える。
すると、光の柱を中心に地面から何かが盛り上がり始めた。

それは、所々に苔や蔦が巻き付いた古い石で造られており、何本もある“それ”は、何やら昆虫の足のようだ。


視界を遮断していた砂煙が晴れ、徐々に“それ”の正体が明らかになる。

地中から伸びた六本の足に支えられ、その中心には巨大な古い都市の様なもの。
―――――これがニルヴァーナの最終形態だ。



「光を崩す最終兵器、超反転魔法 ニルヴァーナ!正規ギルド最大の武器である、結束や信頼は今この時をもって無力となる!」



カイルが悪態を付く間もなく、ニルヴァーナの周りが下から順に崩壊し始める。


「カイル…!ジェラール!、…ッあ…っ」


二人に駆け寄ろうとするエルザだが、崩れる瓦礫に足を取られ、そのまま崩壊に巻き込まれてしまう。


「エルザ!…っ!?」


落下するエルザの手を掴もうと腕を伸ばすジェラールだが、自身の下の地も崩壊し始め、バランスを崩してしまう。
そんな二人を見、カイルは“空”を蹴り、両腕を出来る限り伸ばす。


必ず……救ってみせる!!


二人の腕をなんとか掴み、抱き寄せ、壁に剣をつきたて、空中で停止した。


辺りに響き渡るブレインの勝ち誇った高らかな声を聞きながら、カイルは壁に深く突き刺さった剣の柄をギュッと強く握りなおす。


「カイル…!大丈夫か!?」


悪態付くカイルに安否を問うエルザ。
カイルは何とかな、と呟くように答え、下に視線を向ける。

そこには、カイルの左手をしっかりと握り、重力によってぶら下がっているエルザ。
その更に下には、エルザに手首を掴まれ、同じくぶら下がっているジェラールの姿があった。


「エルザ…」


「、っ自分にかけた自立崩壊魔法陣を解け!お前には、生きる義務がある!」


エルザの言葉に、ジェラールは悔しげに俯く。


「俺は…ッ…ニルヴァーナを止められなかった…っ!」


「安心しろよ。んな事お前に期待してねえ」


吐き出すようなジェラールの言葉に、カイルが眉を寄せながら答えた。
ジェラールが顔を上げる。


「すんだことより今の事だ。取り敢えず上がるぞ。エルザ、お前太ったな」


「なぁ!?ち、違う!!成長したんだ!!主に胸とかが!!誰かのせいで!!」


またまた見栄張っちゃって…とからかうように笑うカイルと真っ赤になって否定するエルザ。彼らから絶望などまるで感じられない。


「ほらいくぞ。振り落とされても助けねえから放すんじゃねえぞ!」


「わかった。」


振り子の力を利用し跳躍する。


勢いよく投げ飛ばされたエルザとジェラールは、ニルヴァーナの足の付け根部分のスペースに打ち付けられる。
背中の傷みに顔を歪める。カイルは後から悠々と着地した。


「……………酷くないか?カイル」


「誰が抱えて飛んでやるといった?というかんな事無理だ。シルフの上限は二人だし、今は出来るだけローレライは使いたくねえし」


はぁ…と溜息をつくエルザ。言い争いでこいつに勝てるわけがない。


「まあ取り敢えず聴いておく。大丈夫か?てめえら」


「まぁな」


「………」


カイルの無事を確認する声に、エルザは頷いてくれたが、その傍らのジェラールは暗い表情で俯いたままだった。


「ジェラール?」


「…もう…終わりなんだ……」


肩を震わせ、そう呟くジェラール。
ニルヴァーナを止められなかったことを悔やんでいるようだ。


カイルは無言でジェラールへと腕を伸ばす。
そして碧いをクシャクシャに撫でまわす。


「っ、何を…」


「いつまでもグジグジしてんじゃねーよ。二秒で切り替えろ」


二秒で切り替えろ、それは楽園の塔で労働していた時のカイルが皆に対して言っていた口癖だった…


エルザも肯定するように頷き、微笑みをジェラールに向ける。


「何が終わるものか。見てみろ」


「?」


エルザが見ろ、と促す方へ、首を傾げながら視線を向けるジェラール。
同じようにカイルも視線を向け、そしてやや驚きの声を上げた。



「―――――うおぉぉおおぉぁぁ!!」



三人の視線の先には、雄叫びを上げながら猛スピードでニルヴァーナの足を駆け上がるナツ。
その後ろにグレイ、ルーシィと続き、他の足にも連合軍の面々の姿が確認できる。

まだ、誰も諦めていない。


「…私たちは決して諦めない。希望は常に繋がっている」


凛とニルヴァーナを見据える二人。その顔は最強コンビ、シルバリオ・ティターニアの顔だ。
風に揺れる銀と緋の髪が美しい…二人の妖精王…


「生きて、この先の未来を確かめろ、ジェラール」


「…、……行くよ、一緒に」


ふっ、と微笑むジェラール。
その顔にはもう恐れの色はなかった。

ジェラールは、ゆっくりとした動作で差し出されたエルザの手を握り、向かい合う様に互いに立ち上がる。


「………また……この日が来たな…」


静かに呟かれたカイルの言葉に首を傾げる二人。
そんな二人に、カイルは何でもない、と首を振り、碧と緋の髪にポンッと手を乗せる。


「…にい、さん……すまない…、俺は……何も覚えてないんだ…っけど、どうしようもない屑だったってことはわかった…ッ」


先程まで笑っていたジェラールの表情が曇り、再び俯いてしまう。
カイルは目を丸くしながらエルザに視線を向ける。
すると、困ったように笑うエルザ。


「すまなかった……兄さん、俺は……、っ!」


目を見開き、息を呑むジェラール。
その理由は、頭に乗せられていた手が急に肩に回り、ぐいっと引き寄せられたからだった。


「ヤレヤレ、んな事気にしてたのか……安心しろ、今を生きる男、カイルディア・ハーデスはつまんねーことを憶えておく事は苦手なんだ」


「にい……さん?」


ニヤっと笑ってまたジェラールの碧を掻き回す。


「あんなもんタダの兄弟喧嘩だよ。いちいち覚えてられるか」











あとがきです。一応一週間以内に更新!それと総ポイント一万超えました!それと五十万ヒット超えました!それとふと部門別ランキングみたらなんと2位でした!!凄まじすぎて何度も我が目を疑いました。ありがとうございます!これからもよろしくお願いします。皆様の暖かいコメントが執筆の活力源です!それでは次回、【心の中の光】でお会いしましょう!!

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