小説『フェアリーテイル ローレライの支配者』
作者:キッド三世()

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第六十六話 三人の滅竜魔導士と一人の王



「あぁー…船って潮風が気持ちいいんだなぁー…」


「よかったねナツー」


温かな日差しの下、青く広大な海を雄々しく進む一隻の船。
ウェンディに乗り物酔いに効く魔法 トロイアを掛けてもらい、ナツは気持ち良さそうに船旅を満喫していた。


「ふふ……確かに良い風だ…」


「まあそうだな…」


カイルとエルザも船の縁に腰掛け、心地よい潮風を受けながらナツたちのやり取りを微笑ましく見つめる。


「エルザ、俺も同じだよ…」


唐突に紡がれた言葉に疑問符を浮かべるエルザ。その様子を見て優しく微笑むと続けた。


「この剣を何度置こうと思ったかわからねえ」


六魔将軍と闘った後、エルザがいつまで自分は闘うんだろうと言った時の答えだ。
あの時はあいつの事しか考えてなかったから…


「だがよ、その度にこの剣と精霊王が叫ぶんだよ……お前は何のために闘ってるんだってな」


背中の剣を外し、手元に置いて言葉を続ける。いまの彼は王ではなく、一人の戦士だった…


「俺はお前らを護る為に闘う。闘いが俺を必要とする限り闘う。だから俺は強いし、強くなれる。エルザ、迷うのは当たり前だ。だが飲み下せ。それを力に変えろ。お前はまだ闘うんだろう?」


「………ああ、おこがましいかもしれないが、私もお前を護りたいからな」


ぽすっと肩に頭を預ける。今日ばかりは拒絶せず受け入れてやった。


闘いが終わり、カイルたちはそれぞれのギルドへの帰路に着いていた。
各ギルド共、また何かあれば共に闘おう、と言ってくれ、気持ち良く別れることが出来た。
まぁ…この闘いで何かが芽生え、別れ難そうにしているペアがいたが。



「あ、そろそろトロイアが切れますよ?」


「…うぼぉぇ…も゛う一回…掛けて…うぶ…っ」


「連続すると効果が薄れちゃうんですよ」


「ハハハ、放っておけよそんな奴」

「アハハ!」


先程までは元気に甲板を駆けまわっていたナツだが、魔法が解けると忽ち顔を真っ青にして甲板に倒れ込む。
苦しそうに泣き叫ぶナツを見、皆に笑顔が浮かんだ。
そんなやり取りに、ウェンディは今まで以上に顔を輝かせ、そろそろ見えてくるだろうギルドに思いを馳せた。


「楽しみです!妖精の尻尾!」











「――――…というわけで、ウェンディとシャルルを妖精の尻尾へと招待した」


「よろしくお願いします!」


エルザの紹介にペコリと頭を下げるウェンディ。
途端に周りからは、可愛い!などと言う声がたくさん上がる。


「カイル!お帰りなさい」

「ただいま、ミラ」


ムギュー…


もう慣れた。


「マスター、」

「うむ。よくやった。これでこの辺りも暫くは平和になるわい。勿論、ウェンディとシャルルも歓迎しよう!」


「ルーちゃんお帰り!」


「生きて帰ってきたか…ルーシィ」


「あいつも段々存在遠くなって来たな…」


「うわあぁぁん!グレイ様!ジュビア…心配で、心配で…!目からもう雨がぁぁー…!」

「何で俺がーっ!?」


「んでよォ、蛇が空飛んでー!」

「蛇が空何て飛ぶかよ!漢(おとこ)じゃあるめぇし!」

「おとこー?」


帰って来て早々、煩いくらい騒がしくなる妖精の尻尾。
カイルの顔にも自然と笑みが浮かんだ。
何だか我が家、って感じだな…ちょっと騒々しいけど。


「はじめまして、ミラジェーンよ」


「うわぁ!凄いよシャルル!本物のミラジェーンさんだよ!」


「シャルルは多分ハッピーと同じだろうけど、ウェンディはどんな魔法を使うの?」

「ちょっとー!雄猫と同じ扱いー!?」


「私、天空魔法を使います!天空の滅竜魔導士です!」

「「「えぇぇー!?」」」


「ぁ…」


ウェンディの言葉を聞き、驚きの声を上げるギルドのメンバー。
そして、あまりのことに皆言葉を失ってしまい、ギルド内は静寂に包まれた。


(信じて、もらえないか…)


悲しげに俯いてしまうウェンディをシャルルが心配そうに見上げる。
だが、


「「「うおお!スゲーっ!!」」」


「え、?」


「ナツと同じか!」

「カイルにガジルもいるし、このギルドに四人も滅竜魔導がー!」

「いや、俺は使えるだけで滅竜魔導士じゃないんだが…」

「珍しい魔法なのになー!」


その心配も不要だったようで、ギルド内は先程以上の盛り上がりを見せた。
目を見開いて驚くウェンディに一気に詰め寄り、皆は様々な質問を投げ掛けたり、歓迎するような言葉を掛ける。
すると、ウェンディの顔にパァと笑顔が浮かんだ。


「今日は宴じゃー!ウェンディとシャルルの歓迎会じゃー!騒げやー騒げー!!」

「うおおお!燃えてきたぁぁー!」

「いやぁぁ!あたしの服ー!」

「いいぞールーシィー!」

「グレイ様ー!浮気とかしてませんよね!?」

「な、何だよそれ…!」

「シャルルーおいらの魚いるー?」

「いらないわよ、そんなの!」



「楽しいとこだねシャルル!」

「私は別に」


ツンとした態度をとるシャルルだが、やはりどこか楽しげだ。



「人の話聞いてねーし……全く騒がしい」


異常な盛り上がりを見せ、彼方此方に物が飛び交う一階からこっそり非難し、カイルは二階の手すりから下を見下ろしている。


「フ…、そうだな」


「おう、ミスト」


笑みを浮かべて後ろを振り返れば、顔を布で隠している男、ミストガンがそこにいた。
布で覆われていて口元は見えないが、彼も笑っているようだ。
だが、すぐに悲しげな表情を浮かべカイルの肩に手を置いた。


「…大体のことは聞いた。…大丈夫か?」


「ん、あぁ…大丈夫。また会えるって」

「…お前は強いな、カイル」


「何を今更世界の常識を…気づくのが三光年遅いんじゃねえか?」


ミストガンは確かにな、と目を細める。
人一倍情報を知っているミストガンのことだ。随分と心配してくれたみたいだ。


「傷も随分と増えたな」


「全くだ。色男が台無しだぜ」


苦笑しながらカイルは自分の右頬を撫でる。
うっすらとだが十字の傷跡が残っている。



「…何にせよ、二人とも元気そうで安心した」


「まぁ、評議院に顔出さなきゃいけないのはかなり面倒くせえな。忘れてた設定にしてバックレようかな〜」


「…カイルらしいな」


顔を見合わせ、静かに笑い合ったところで、ミストガンはスッと一歩後ろに下がる。
どうやらもう行ってしまうようだ。


「気をつけろよ」


「あぁ」


ミストガンは短くそう答え、空気に溶け込むように姿を消した。
カイルは数秒ミストガンのいた場所を見つめ、そしてもう一度未だ騒がしい
一階へと視線を戻した。















あれから数日後、マグノリアの街を明るく照らす太陽。
天気は快晴、そして今日も賑やかで騒がしい妖精の尻尾。
そこに、突如大きな鐘の音が鳴り響いた。

カイルは朝食を食べていた手を止め、顔を上げて辺りを見回す。
すると、ルーシィ、ウェンディ、シャルルも怪訝そうに首を傾げているのが目に入った。


「おぉ…!」


「まさか…!」


「来たか…」


未だ鳴り響いている鐘の音にギルド内がざわめき出す。
皆の顔に浮かぶは、懐かしさ、嬉しさ…


「っギルダーツが帰って来たー!!」


どこからか上がったその声にワァ、と更に湧き上がるギルドの皆。


「ギルダーツ?あたし会ったことないんだけど…何者なの?」


「妖精の尻尾 最強の魔導士よ」


ルーシィの疑問に微笑みを浮かべながら答えるミラ。
その言葉にルーシィは「えぇっ!?」と声を上げて驚く。


「それって、カイルやエルザより強いってこと…!?」

「私など足元にも及ばんさ」


「俺の戦績は二十三勝二十五敗だ」


「どんだけヤバイ人なのかしら…」


「この騒ぎようは何…?」

「お祭りみたいだね、シャルル」

「本当騒がしいギルドね」


期待に目を輝かせるウェンディとフン、と鼻を鳴らすシャルル。
うーん…確かにちょっと煩すぎる盛り上がりだ。


「皆が騒ぐのも無理ないわ。三年ぶりだもの、帰って来るの…」

「え、三年も…?」

「S級クエストの上に、SS級クエストってのがあるんだけど、その更に上に十年クエストって言われるのがあるの」

「十年…クエスト?」


聞いた事のない言葉にへぇ、と呟きが零れる。
そんなのがあったなんて初めて知ったな…


「十年間誰も達成した者はいない…だから十年クエスト。ギルダーツはその更に上、百年クエストに行っていた」

「百年クエスト!?百年間誰も達成できなかったってこと!?」

「あぁ」


「おい、ギルダーツシフト起動だ。急げ」


カイルが指示を出す。皆心得てるらしく、直ぐに発動した。



[――――マグノリアをギルダーツシフトへ変えます!街民(ちょうみん)の皆さん、速やかに所定の位置へ!]



喧騒の中、大音量で響き渡る放送にギルダーツを知らない者たちは再び首を傾げる。
そして外を見て見ろ、という言葉を受け、ルーシィとウェンディ、シャルルは入り口から、カイルは二階に上がり大きな窓から外を眺める。
すると、途端に大きく揺れ出すマグノリア全域。

揺れの正体、それはギルダーツ専用の道を造るため、マグノリアの家々が大きく移動しているときに生じたものであった。
知らなかった大仕掛けな街の構造。


「フ…、ギルダーツは“クラッシュ”という魔法を使う」
「触れたものを粉々にしちゃうから、ボーッとしてると民家も突き破って来ちゃうの」

「どんだけバカなの!?そのために街を改造したってことー!?」

「すごいね、シャルル!」
「えぇ。凄いバカ…」

「…個性豊かで色々な奴がいる…本当に楽しいギルドだよ」

そう静かに呟きながら、カイルは集中しなくても感じる強大な魔力に口角を上げた。






*






皆の視線を一点に集め、妖精の尻尾の門を堂々と潜るギルダーツ。
所々が解れてやや薄汚れているマントを纏い、オールバックに髪を上げた姿からは威圧感が溢れている。

その姿はまさに、威風堂々。

「…、ふぃー…」


ギルドの中を無言で見渡したかと思えば、眉を寄せ、深い溜息を吐く。
あれ?一気に威圧感がなくなった気がする……それに…この魔力、?

どこかで感じたことがあるような魔力にカイルが首を傾げていると



「ギルダーツ!俺と勝負しろ!」

「いきなりそれかよ!」


犬の様にダッと駆け寄ったかと思えば、突拍子もなくギルダーツにそう告げるナツ。
まったく、エルフマンのツッコミもご尤もだ。


「この人がギルダーツ…」

「お帰りなさい」

「…ん?御嬢さん、確かこの辺に妖精の尻尾ってギルドがあったはずなんだがー…」

「ここよ。それに、私ミラジェーン」

「…ミラ?」


ムム、と眉を寄せて考え込むギルダーツ。
三年前と全然外見の違うミラに困惑しながらも、僅かに残る面影に嬉しそうに笑みを浮かべる。


「…おぉ!随分変わったなお前!つか、ギルド新しくなったのかよー!」

「…外観じゃ気付かないんだ、」


「ギルダーツっ!」

「お?ナツかー、久しぶりだなァ」

「ヘヘ、俺と勝負しろって…言ってんだろォー!!」


そう雄叫びを上げ、拳を構えながら地を蹴るナツにギルダーツは余裕の笑みを浮かべ、手玉のように扱ったかと思えば高い天井にあっさりと吹っ飛ばした。
ガンッと大きな音を立てて天井に減り込むナツ。
お、おぉ…


「また今度な」

「…、ハ、ハハ…やっぱ超強ェーや!」


ナツや皆の反応から、これはギルダーツが帰ってきたときの恒例行事のようだ。
凄いことやってんだな…


「変わってねェな、オッサン!」
「漢(おとこ)の中の漢!」

「んー…いやぁ、見ねェ顔もあるし、本当に変わったなァ…お?」


椅子に腰掛けているカイルに目を止めるとニヤリと笑う。カイルも不適に微笑み、それに答えた。


「あ、ヤバイ」


「皆伏せろ!!」


次の瞬間、カイルとギルダーツが跳躍し、お互いの拳がぶつかり合い、衝撃波が生まれる。そのあまりの勢いにギルドに亀裂が入った。


「はぁっ!!」


打ち合った状態でクラッシュの魔法を使うギルダーツ。発動を一瞬早く感じ取ったカイルは上空に跳躍し、かわした。


空中で背中の長剣を引き抜きながら背中を取る。


「絶剣技。風の型、凪」


烈空の魔力をまとった斬撃を繰り出す。ギルダーツは片手に宿した魔力で受け止める。だが風の刃までは受けきれなかったらしく、ギルダーツの背後の壁が微塵切りにされた。


「そこまで!!」


二人とも後ろに飛び下がり、これから闘いは加速すると思われたが、マカロフの一括に止められた。


「これ以上ヤられたらギルドどころかマグノリアが吹き飛ぶわ。挨拶なら充分じゃろ。やめい」


「ちぇ、残念」


ボヤキながら剣を納刀するカイル。
伏せてた連中はようやくのそのそと出てきた。


「ん?…おーマスター!久しぶり!。それとカイル。お前また強くなったな!」

「仕事の方は?」

「んあー…、…ッハハハハハ!」


視線を逸らし、頭をワシワシと掻きながら大きな笑い声を上げるギルダーツ。
それを見、マカロフはそうか…、と静かに目を伏せる。


「…駄目だ、俺じゃ無理だわ」

「な、」
「え…」
「嘘だろ…」
「あのギルダーツが…クエスト失敗…?」


その言葉を聞き、忽ちの内に騒然となるギルド。
ナツやグレイたちも驚きのあまり唖然としている。


「、…」
「オッサンでも駄目なのか…」
「引き際の見極めも漢!」

「…何なのよ、百年クエストって…」

「百年のクエストはまだ早い。お前はやめておけ、ルーシィ」

「うえぇぇ!?ワクワクしてるように見えましたー!?」


真面目な顔でそう言うエルザにルーシィが驚きながらツッコミを入れる。


「んじゃ俺行こっかな。ワクワクしてるし」


「…お前が行くのなら私も行く」


「え、じゃあアタシも!」


「「お前にはまだ早い。やめておけ」」


「エルザはともかくカイルにまでマジな顔して止められたーー!!」


「……うーむ…主でも無理か…」

「すまねェ、名を汚しちまったな」

「いや、無事で帰って来ただけで良いわ。ワシが知る限り、このクエストから帰ってきたのは主が初めてじゃ」


ニッと笑みを浮かべるマカロフに釣られ、ギルダーツも口角を上げる。
そして皆に踵を返し、壁の方へ歩いて行く。


「俺は休みてェから帰るわ。…ひぃー疲れた、疲れたー。――――ナツ、」

「んぉ?」

「後で俺んち来い。土産だぞー!ハハハッ」


「おい、ギル。入り口はあっちだぞ」


「んじゃ、失礼」

「「「おぉ!?」」」
「、…」
「あらあら…」


驚きと呆れに包まれるギルド内。
ギルダーツの体が少し壁に触れた瞬間、ガーンッと音を立てて壁が崩れ落ちた。


「やれやれ。かわんねーな、アイツは」


「しかしよくカイルはギルダーツと戦えるな」


「ああ、コツがあるんだよ。クラッシュ崩しは」


だがカタワになってあの実力か……流石だ。


カイルはマントに隠れていたギルダーツの傷に気づいていたのだった…


「そういえば、ギルダーツとナツってそんなに仲が良いの?」


つい先程、ギルダーツを真似て己も壁を壊して出て行ったナツの嬉しそうな表情を思い出し、ルーシィはハッピーに問いかける。


「あい!実力の差は天と地ほどあるけど、ギルダーツはナツを気に入ってるみたいだね」

「へぇ…でも、ギルダーツってたまにしか帰って来ないんでしょ?」

「あい!オイラが生まれてすぐの頃にも丁度帰って来たよ」

「で、カイルはなんでいきなり闘ったの?」

「ん〜……挨拶?」

「ギルド半壊させる挨拶がどの世界にあるのよ…」

「化け物(俺たち)の世界」


そう言われては何も言い返せなかった…



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