小説『フェアリーテイル ローレライの支配者』
作者:キッド三世()

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第七十話 ダンボール被って侵入するとか無理だって







あれからナツたちはエドラスのルーシィと一方的な別れをし、変わらず歩きで王都へと向かっていたのだが、途中王国軍の飛行船を発見した。
歩きでは魔力抽出までに王都へ到着するのは不可能。そこで、飛行船を奪おうと奮迅したのだが…結果は失敗。逆に王国軍に捕縛されそうになってしまった。

そんな危機を救ったのが、突如として現れた魔導四輪を自在に乗りこなすエドラスのナツ。通称ファイアーボール。
彼の助けにより、歩けば三日は掛かる距離を数時間のうちにあっという間に進み、遂にナツたちはエドラスが誇る巨大王都へと辿り着いた。


「…もっと草臥れてる街かと思ってたのにね、…」

「街の中にもあっさり入れたしなー」

「ルーエンやシッカと全然違う。遊園地みたい」


王都へ向かう途中に立ち寄った街はどこも荒んでおり、厳しい生活を強いられていた。
それなのに、此処は何だ?何故これ程まで賑わっている?


「…魔力を奪ってこの王都に集中させている。国民の人気を得るためにこんな娯楽都市にしたんだわ」

「…呆れた王様ね」


眉を寄せ、不快感を露わにするルーシィ。
…と、周りを見渡していたウェンディが「あ、」と声を上げた。


「何か向こうの方が騒がしいですね、?」

「パレードとかやってんのかしら?」

「ちょっと見に行ってくるかー!」
「あいさー!」

「アンタたちー!遊びに来たんじゃないのよー!?」


怒気を含んだシャルルの注意に耳を貸さず、ナツとハッピーは凄い盛り上がりを見せる人だかりの方へと駆けて行く。
そんな二人を見、「全くもう、…」と呆れながら、ルーシィたちも仕方なくその後を追って人だかりへと向かう。
それにしても凄い人数と盛り上がりだ。


たくさんの人を遠慮なしに掻き分け、盛り上がりの中心を目指すナツたち。
そして、その中心であるものが視界に入ったとき、まるで縫い付けられたかの様にナツの足がピタッと止まった。そんなナツにルーシィは止まり切れず、その背中に顔面から激突してしまう。


「何だ、何だー?」


「ちょ、待ってよナツー!」


「うわぁ…凄い人ごみー!」


そして驚きの声を上げた。


人だかりの中心にあったもの、それは美しく禍々しい輝きを放つ、巨大なラクリマ。
その周りにはそれを警護するたくさんの王国の兵たち。


「まさか、これが…」

「マグノリアの…みんな…?」

「しかも一部分よ、…切り取られた跡があるわ…!」

「え、これで全部じゃないの…!?」


茫然と佇むナツたちとは反対に、周りの人々は笑顔を浮かべ、狂ったように歓声を上げる。
そして、巨大なラクリマの目の前にある演説台に二人の男が姿を現した時、その歓声は煩い程に大きくなった。


「「「っな、」」」
「そん、な…」


その二人のうち一人を視界に捉えた時、ナツたちは大きく目を見開き、再び茫然とした。

美しい装飾が施された杖を高く掲げ、群衆の歓声を浴びる初老の男。その背後に控える様に佇む、白いコートを羽織った銀髪の男…
それは紛れもない、ナツたちの仲間である…


「カイル…?」

「嘘…本当に、…カイルはあたしたちの敵…?」


エドラスにおける妖精の尻尾で大体の事は聞いていたが、実際にこの目で見るまで信じられなかった事。
強く優しい、エルザとカイルがこちらの世界では敵と言う事実。

周りの女性たちが上げる「カイル王子ー!」という黄色い歓声に応える様に、エドラスのカイルが慈愛の満ちた微笑みを向けた。


「…、…」


茫然としながら、ナツは歓声を上げ続ける群衆に目を向ける。
喜びと興奮に手を高く掲げる者、祈る様に手を重ね合わせ涙を溢す者…
…と、騒がしかった群衆が一気に静まり返った。

それを見計らい、初老の男…エドラス国王ファウストが口を開く。


「…エドラスの子らよ、我が神聖なるエドラス国はアニマにより、十年分の魔力を生み出した」


「、っ何が生み出しただよ…!オイラたちの世界から奪ったクセに…!」
「…落ち着きなさい、雄猫…」


「共に歌い、共に笑い、この喜びを分かち合おう…!」


再び上がる大歓声に、拳を握るハッピー。ルーシィとウェンディは眉を下げ、俯く。
そして、ファウストの演説を物陰から見ていた者もチッ、と小さく舌打ちをした。
演説はまだ続く。


「エドラスの民にはこの魔力を共有する権利があり、また、エドラスの民のみが未来へと続く神聖なる民族、…我が国からは誰も魔力を奪えない!!」


力強い演説に喜びの声を上げる群衆。ファウストはそして、と更に演説を続ける。


「我はさらなる魔力を手に入れると約束しよう…――――これしきの魔力がごみに思えるほどのなァ!」


ガキンッと音を立て、ファウストの杖がラクリマに突き刺さる。その衝撃で砕けたラクリマの破片が静かに地へと落下して行くのを見、ナツの中で何かがプツンと音を立てて切れた。
それを他所に、群衆は「エドラス、エドラス」と声を揃えてファウストを称える。

ふと、カイルはファウストの背から視線を外し、眼下の群衆に目を向ける。…喜びが溢れる中、その美しい表情が一瞬苦悶が浮かんだ。


「っ、…!」


ナツは歯をギリと食い縛り、ファウストの元へと歩み出す。…だが、それをルーシィが強く抱き止めた。


「ッ…我慢して…!」

「っできねェ…ッ!あれは…あのラクリマは…「お願い…!みんな、…同じ気持ちだから……、ね…?ナツ…」


堪え切れず、溢れた皆の悔しみの涙が地に染みていく。
それを嘲笑うかの様に、ファウストの狂った様な高笑いが辺りに響き渡った。























ちょっとした家一軒分はあろうかという広さの高級感漂う大きな部屋。
だのに、灯りは一つも付けられておらず、大きな窓の外から洩れる王都の灯りが唯一部屋を照らしている。
…そんな静かな空間に苦しげな声が小さく響いた。


「……ゲホっ!」


声の主、エドラスのカイルは左胸のあたりを強く握り、目を伏せて苦しみに耐える。
握られたことで白のコートに皺が広がるがお構いなしだ。

――――…と、コンコンと遠慮気味に扉がノックされた。

カイルは息を吐き出し、スッと立ち上って扉に目を向ける。


「空いている。入れ」

「は、失礼します」


聞こえて来たのは良く知った声。
扉が静かに開かれ、頭を下げて入って来たのはやはり見知った緋色。


「……エルザか……どうした?」

「ご報告がありまして、…」

「報告?」

「は、…エクシードが帰還しました」

「そうか」


カイルはエルザの言葉に少しだけ目を見開き、短くそう答えた。
対するエルザは暗闇の中に佇むカイルを見、あることに気が付く。

何故あんなにコートに皺が…?

そう思い、眉を寄せた時だった。


「く、…カッハ…」

「っ!?カイルディア様!」


突然左胸を押さえ、苦痛に眉を寄せて膝をつくカイル。
エルザは血相を変え急いで駆け寄り、今にも倒れそうなその体を支える。サァと顔の血が引いて行くのを感じた。


「、っ今人を…」

「よい!構うな!!」

「…!」


ハッと我に返り、人を呼びに立ち上がろうとするエルザの腕をガシッと掴み、自分の元まで引き寄せる。
いくら妖精狩りと恐れられていてもエルザは女だ。男に力で敵う筈がない。…いや、初めから抵抗する気などないが。


「カイルディア…様…?」

「…ハ、…ッ…平気だ…すぐに治まる…だから…それまで、…っ」

「…お側に、おります」

「………………許せ…」


苦しみに耐える様に力強く抱き締められる華奢な身体。エルザもそれに応える様に背に腕を回す。
耳や首元に掛かる乱れた吐息がくすぐったい。



「…」


どれくらいそうしているのか。
正確には五分も経っていないのだろうが、エルザにはとても長く感じられた。
この人に抱き締められるのは恥ずかしいが嫌じゃない、むしろ、心が落ち着く。

微かに聞こえるトクン、トクンという心臓の音が、この人が生きているという事を確証付けてくれる。

命を刻む鼓動にエルザが耳を傾けていると、耳元でハハ、と自嘲的な笑いが聞こえた。


「済まぬな……王国最強が聞いて呆れる」


「何を仰いますか……貴方ほどの騎士はおりませぬ」


「………世話をかけた……もう良い。迎えにいけ」


すると乱れていた呼吸も徐々に整い、表情が幾分か和らいできた。


「もう、大丈夫だ。手間を取らせたな…」

「か、…構いません!私で宜しいのでしたら…」

「お主にはいつも世話をかけるな……ありがとうな」

「っ」


そう言ってカイルはもう一度強くエルザを抱き締め、よっ、と二人で立ち上がる。
暗闇でよく見えないが、この時エルザの顔はあり得ないほど朱く染まっていた。


「はぁ…それにしても、全く我が身体ながら情けない」

「っ、ご心配されずとも私が必ず…!」

「あぁ。――――…さ、エクシードを迎えに行け」

「…!は、」


誤魔化す様なカイルの命に気付かないふりをし、エルザは素早く跪き、一礼をして扉の外へ出て行く。
再び静寂に包まれる部屋内。

カイルはまだ身体に残る温もりにスッと目を伏せる。


「必ず……でなくとも良い……他の誰でもない、私が望んでおらんのだからな……」













「わかったわ〜ありがとう、お兄さん」


「い、いえ!!めめめ滅相もございません!!」


長い銀髪を艶やかに靡かせ、お偉そうな兵隊を誘惑している美女が一人……カイル…いや、今はカイリと名乗っていた。


色仕掛けでいろいろと情報を聞き、大体の事情が読めてきた。全く男は美人に弱い。
元に戻す方法も簡単に教えてもらった。


「ん〜…ぶっ壊すのは得意だからいいが……近づくのが厄介だな。民間人とか巻き込むのは気が引けるし…というわけでガジルくん?あのラクリマ任せていい?」


「めんどくなったからって俺に押し付けてんじゃねえよ!!パラディン!!」


先ほど無事だったガジルと合流していたのだった。


「いやん、今はカイリと呼・ん・で?」


ほおに手を当てて魅力溢れるウィンクをする。


「殺すぞ」


「冗談だよ。それに…」


顔に手を当て、普段のカイルの姿に戻る。衣服は王子の物だが…


「この格好なら堂々と城に入れるだろ」


「いやいや!!流石にマズイだろ!ばれたら大罪人だぞ!」


「だいじょぶだって。堂々としてりゃ意外にバレないもんだよ?潜入と変装は俺の趣味だから。それにダンボール被って侵入するには片目潰さなきゃいけないという俺のプライドが…再生できるから出来なくはないんだが痛いし…「いらねーよそのプライド!!」





















あとがきです。春休み突入!頑張って更新していきます。コメントよろしくお願いします。

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