小説『フェアリーテイル ローレライの支配者』
作者:キッド三世()

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第七十一話 コードETD


「…おー……立派な城ですこと」


土地や建物に興味のないカイルはぼー…と城を眺めた。
誰に言うでもないが、そう皮肉を溢すカイルの目の前には巨大なエドラス城。
門に目を向ければ、見張りらしき兵が二人確認出来た。


「っカイルディア王子…!?何故このような所に…!?」


「ああ、気にするな。所用で出ていただけだ。父上は?」


「演説を終えて今は謁見の間かと」


「わかった。警戒は怠るなよ」


「「はっ!!」」


堂々としてれば意外とバレないものだ。まさか門番ごときが貴方本物ですか?などと聞けるはずもない。しかもカイルには他を圧倒する威厳がある。


――――カツコツと、大理石で出来た床を歩く度にブーツが音を奏でる。
途中、たくさんの兵隊たちと擦れ違ったが、大袈裟に敬礼するだけだ。


誰もいなくなったところでまたカツコツと音が聞こえた。

「よお、俺」


「おお、流石俺、イケメンだな」


二人の銀が出会ってしまった……









王都を見下ろすことが出来る、とある通路で二つの音が生まれていた。
一つは、カシャカシャと鎧の擦れる音。そしてもう一つは、…


「いっ、た…っ…やめっ…放して…ッ!」

「悪いが、私はお前の知っているエルザじゃない」


痛みに悲鳴を上げるルーシィに構わず、エドラスのエルザはその金色の髪を乱暴に掴み、石造りの通路をズルズルと引きずり回していた。
彼女も体内に魔力を持っていることから利用する価値は十分あったのだが、エクシードの女王 シャゴットから抹殺せよとの命令が下った。


「っ、きゃ…!」

「…フン」


エルザはやはり乱暴に髪を放し、壁に無抵抗なルーシィを投げ付ける。
打ち付けた背の痛みに顔を歪めながらも、ルーシィは目の前に立つエルザを仰ぎ見る。


「っお願い!力を貸して…!私は仲間を助けたいだけなの!貴方は確かに別の人かもしれない…けど!根の部分は同じ気がするんだ…!」

「…」

「貴方は人の不幸を笑える人間じゃ…」
「黙れ!」

「きゃっ!?…、ちょ…ちょっと…、ヒ…!?」


ルーシィの必死の訴えを遮り、エルザは握った槍で彼女を拘束している糸にその先端を突き刺す。そしてそのままグイと持ち上げ、ルーシィの体を通路の外へと投げ出した。

奇妙な浮遊感。

ルーシィは宙づりにされた状態のまま、恐る恐る下に目を向けてみる。
見下ろす王都の建物は皆小さく、人はまるでゴミのようだ。フハハハハ。竦み上がる様なその高さにルーシィの顔からサァと血の気が引いて行く。…此処から落ちでもしたら確実に助からない。

そんな恐怖に染まるルーシィの顔を見、エルザはニィと口角上げる。


「お前は此処で死ぬんだ」

「っエルザは無抵抗の人にそんなことしない…ッ!エルザは優しいんだ…!そんなことするもんか…ッ!」

「…フフ、おめでたい奴だな。私は人の不幸など大好物だ。…妖精狩りの異名通り、妖精の尻尾の魔導士を何人も殺した」


酷く冷たい声音で淡々と告げるエルザにルーシィの目から涙が溢れ出す。
だが、それでも涙を溢すまいと歯を食い縛り、キッとエルザを睨み付ける。


「エルザの顔で…エルザの声で…、…そんな事言うな…ッ」

「、…じゃぁな、ルーシィ」


ルーシィの言葉に少し意外な顔をしたエルザだが、すぐに口角を上げ、手を放した。


「っ、きゃぁぁァァーッ!」

「…」


悲鳴を上げ、まるで地上に引き寄せられる様に落下して行くルーシィをエルザは冷たく見下ろす。

拘束されているため、何も出来ないルーシィはギュッと目を閉じる。こんな所では終われないのに…!


「っ、くぅ…ッ!」

「――――ルーシィ!!」


そんなルーシィの耳に自分の名を呼ぶある声が届いた。
閉じていた目を開け、声のした方に目を向ければ、こちらに向かって急降下して来る見慣れた青と白。


「ハッピー!シャルル!」

「っエクシード!?」


「もう大丈夫だよ!オイラが助けに来たから!」


そう頼もしい台詞を叫びながら翼を羽ばたかるハッピー。
だが、勢いを付け過ぎたためか、ルーシィをキャッチする寸前の所で壁に激突し、潰れた様な声を上げた。
代わりにルーシィを受け止めたのは、同様に翼を羽ばたかせるシャルル。


「ありがとう…!、…あれ?アンタたち羽?」

「…心の問題だったみたい」

「えへへ…久しぶりで勢い付け過ぎちゃった」


ナツやウェンディ同様、この世界で魔法が使えていなかったシャルルとハッピー。
しかしそれは、乱れ見失った心が原因だったようだ。

エクシードはエドラスで唯一体内に魔力を持つ者。

二人は心優しき夫婦のエクシードに助けられ、そして自分の心を見つけ出し、友の為に今駆け付けたのだ。


ハッピーも加わった事でルーシィの体は一気に急上昇し、先程まで見下ろしていたエルザと同じ目線に舞い戻った。
目を大きく見開き、信じられない様な顔をするエルザ。


「これは…一体…っ!?その女は女王様の命令で抹殺せよ、と…!」

「命令撤回よ」

「しかし!いくら女王様の勅命でも、命令を覆す権利はないはずでは…?…その女をこちらへお渡しください」


再び睨む様に目を細め、冷静さを取り戻したエルザがそう告げる。
その視線につぅと冷や汗を流すハッピーだが、隣を飛ぶシャルルは目の前のエルザより冷静であった。


「頭が高いぞ、人間。私を誰と心得る?…私はクイーン・シャゴットの娘、エクスタリア王女 シャルルであるぞ」


「っな、…!」


「…っ、は…!申し訳ありません…っ!」


シャルルの言葉に驚愕に目を見開くエルザだが、今のままでは無礼と思い、謝礼を口にしながら素早くその場に跪く。


「ウェン…、…二人の滅竜魔導士はどこ?」

「西塔の、地下に…」

「…今すぐ解放しなさい」

「それだけは、…私の権限では何ともなりません…」
「いいからやりなさいッ!」

「はっ、しかし…」


無茶な命令に今度はエルザが冷や汗を流す番だった。…だが、遠くから聞こえてきた切羽詰まった声と数多の足音にハッと顔を上げる。


「エルザ!その二人のエクシードは堕天だ!エクスタリアを追放された者共だ!」

「な、…」


大きな声でそう発し、こちらへ走って来るのは黒いエクシード…パンサー・リリー。
その逞しい巨躯にルーシィやハッピーも目を見開いて驚く。


「何よアイツ…!?アンタの仲間!?」

「違うと思う…!あんなゴツい奴エクシードにいなかったよ…!?」

「っ、逃げるわよ!」

「ちょっとアンタ!姫じゃないのー!?」


危険を感じ、シャルルを筆頭にすぐにその場から逃げ出すハッピーたち。
それをリリーの部下が追い掛ける。


「っく…」


騙され、良い様にされていた事に怒りを露わにするエルザにリリーが口早に現状を告げる。


「気を付けろエルザ!城内には王子を騙った奴も侵入している!」

「何!?カイルディア様は今どちらに…!?」

「それがどこにも見当たらんのだ…!」

「…おの、れェ…ッ!!」


ガンッとその拳を激しく地に打ち付けるエルザ。その目は怒りと憎悪に燃え上がり、食い縛った歯がギリと音を立てた。










(全兵士に通達!堕天が囚人を連れて逃走!青毛と白毛は堕天である!見つけ次第抹殺せよー!!また王子を騙った不届き者も場内に侵入している!見つけ次第即刻取り押さえよー!!繰り返す…)


「あれ?何でばれたの?」


「そりゃ俺と対峙してる時点でばれてるのはわかるだろ。ホントに俺か?お前」


「お前こそ俺のツラしてなんかひ弱そうだな。殺すぞ」


なんか戦う空気じゃないため、二人はとりあえず自分を見た感想を言いあっていた。





















「…だーから、全然怒ってないってばー」

「あい…」


ハッピーに抱えられ、ナツとウェンディが幽閉されている西塔を目指すルーシィ。その隣ではシャルルが翼を羽ばたかせている。
話題に上がっていたのは坑道で拘束された時の事。あの時の事をハッピーとシャルルは今もなお悔いているのだ。
苦しそうに謝る二人をルーシィは笑って「気にしてないから」と何度も励ます。


「それよりアンタ、女王様の娘って方が驚きなんだけど?」
「オイラも知らなかった」

「ハッタリに決まってるじゃない」

「「えぇ!?」」


シャルルの言葉に驚きの声を上げる二人。だが、すぐに苦笑の様なものを浮かべた。
良かった、いつものシャルルだ、と。


「…その顔何よ、“ハッピー”?」

「ううん、何でもないよ」

(あれ…今ハッピーって…?)


今までハッピーを“雄猫”としか呼んでいなかったシャルルが、“ハッピー”と名で呼ぶようになった。
ほんの小さな変化だが、大きな進歩でもある。


「フフ…そっか、…」

「…何笑ってるのよ、ルーシィ?」

「ん、別にー?――――…あ、あれじゃない?西の塔って…」


ルーシィの言葉にハッピーとシャルルは目を凝らし、視線の先を見やる。
すると、二人の視界に飛び込んで来た、大きく細長い塔。…あれが西塔、…あそこにナツとウェンディが、…


「…行きましょう!」


気合を入れる様に大きな返事をする二人。
そして、ハッピーとシャルルは力強く翼を羽ばたかせる。
――――だが、


「っ、何の音…!?」


二人の羽ばたきを掻き消す程大きな、たくさんの羽ばたき音が背後から聞こえて来た。そして、怒号の様な叫び声。


「見つけたぞ!堕天共ー!」

「うわぁ!?猫がいっぱいー!」


背後を振り返れば、何十、何百人ものエクシード。その先頭を飛ぶのはアースランドの一夜にそっくりなライオン…ニチヤ。
そのニチヤの「行けェ!」という命令を受け、たくさんのエクシードたちがスピード上げてハッピーたちに迫る。
彼らはエクスタリアから逃げて来たハッピーとシャルルを此処まで追って来たのだ。


「メェーン!」

「っ空中はマズイわ!地上に降りましょう!」
「待ってシャルル!地上にも敵が…!」


ハッピーの言葉に地上へと目を向ければ、数え切れない程の王国軍が三人を待ち構えていた。その中には各魔戦部隊隊長の姿もある。
先程の伝令で兵を一カ所に集合させていたのだ。


「ルーシィ!星霊魔法は…!?」

「このベトベトが魔法を封じてるみたいなの…!」


手に巻き付いた蜘蛛の糸の様なベトベト、それがルーシィの魔力を押さえ込み、魔法を封じている。
空中、地上、どちらにも逃げ道はない。絶体絶命だ。

…そんな様子を初老の男 ファウストと、裸足で元気よく動き回る少女 ココが城の中から見つめる。


「これは一体何事だ、?」

「堕天を追って、エクスタリアの近衛師団が攻めて来たようです!」

「…む、…ぐぅ…、!」

「陛下?」

「…っ…コードETD 発動せよーッ!!」


ココの報告にファウストは唸る様に悩んだ挙句、ある決断を下した。
それはコードETDと呼ばれる、とある作戦。

その命を聞いた兵たちは一斉に角笛を吹いて全軍に合図を送り、エドラス王国の旗を次々に高く翳して行く。


「コード、ETD…!?」
「こんな時に!?」


急に慌ただしくなった周りに魔戦部隊隊長たちも驚きに目を見開き、困惑の表情を浮かべながら作戦の行方を見守る。
…と、何やら兵隊たちが巨大なライトの様な機械を空へ向け始めた。それはまるで照準を定めるかの様だ。


「10番から12番まで準備良し!」
「14番、15番準備完了!」
「6番から9番、OK!」


「国家領土保安最終防衛作戦…発動か、…」


周りのただならぬ雰囲気を感じ取り、シャルルが二人に建物の中へ退避する事を促す。
それと同時に大声で通達される、「コードETD発動!」の報せ。

すると、設置された無数の機械から発せられた眩いまでの青い光が空を飛ぶエクシードたちへと浴びせられた。
その光を浴びるなり、苦しみに顔を歪め、悲鳴を上げるエクシードたち。


「何の真似であるか!?人間共ーッ!?」


ニチヤの怒号が虚しく辺りに木霊す。


「っ何でエクシードの方を…!?」

「どういうこと…!?人間にとってエクシードは天使や神様みたいな存在でしょ…!?これって…反乱!?」

「…良くわからないけど、今はこの混乱に乗じるのが得策ね。今のうちにウェンディたちを助けに行くのよ!」
「あい!」


予期せぬ展開に混乱しつつも、今がナツとウェンディを救出する最大のチャンスと見、ハッピーたちは隙を見て目的地である西塔へと向かう。
それを目撃したエルザは拳を握り、怒りに顔を歪める。


「しまった…堕天と囚人が…!…西塔へ向かう筈だ!守りを固めろ!」
「「「はっ」」」


ニチヤ率いるエクスタリア近衛師団の行方を見ず、エルザは部下を率いて自身も西塔へと向かう。
騙され、良い様に利用された事を高いプライドが許さないのだ。



「おのれ人間共ォォッ!女王様が黙っていない…メェェェェンッ!!」


ニチヤが上げた怒りの叫びを最後に、エクシードに向けられていた青い光は集束されるように小さくなって行き、何とも可愛らしい猫の形をしたラクリマへと姿を変え、地上へと落下した。


「っ、エクシードがラクリマになっちまった…!」
「本当にやっちまった…」
「大丈夫なのか、…?」

「――――この世に神などいない!」


起してしまった反乱、後に加えられるであろう制裁に怯え、慌て出す兵たちにファウストが大声で声を投げる。
すると、混乱や動揺で慌ただしかった周りは一気に静まり返った。


「我ら人間のみが有限の魔力の中で苦しみ、エクシード共は無限の魔力を謳歌している…何故、何故こんなにも近くにある無限を我々は手に出来ないのか、?支配され続ける時代は終わりを告げた!全ては人類の未来のため!豊かな魔法社会を構築するため、我が兵士たちよ…共に立ち上がるのだーッ!!」


ファストはそこで一度言葉を切り、スゥと息を吸い込む。
そしてカッと目を見開き、大声高らかに宣言する。


「コードETD…エクシード・トータル・デストラクション!天使全滅作戦を発動する!!」











あとがきです。なんか三光年のツッコミコメントが多い今日この頃です。それもいいですが出来れば話のコメント欲しいです。それでは次回【魔王と怪獣】でお会いしましょう。

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