小説『遮蔽』
作者:たまちゃん(たまちゃんの日常サタン事)

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稲森直也と、小林節菜、久志優作の三人は幼なじみであった。
互いが互いに好意を抱いており、いい関係を保っていた。

ひとつの事故が、そのバランスを崩した。
優作は、夜の高速道路に散った。。。

本当の孤独を知る…

漆黒の暗闇を視る…

無音の恐怖を聴く…

存在の否定

完全な孤立

喪失感

虚無感

絶望

失望





暗い闇に堕ちた!
心の中だった!

深く暗い…無意識という名の…深海

戦う敵がいなかった…
自分と闘おうにも、存在が無かった…

そこに在るのは…
無という概念

誰かを信じる前に、自分が信じられない…

自分を欺く。

重要なのは自分が今、どの領域にいるのかだ。

心を海に例えるのならば…
光射する表面部分が、直也の意識だ。

光のあたらぬ闇の世界…それが、無意識。

そんな無意識の中にも生きるモノがいる。
むしろ、闇の中にこそ多くの、未知なるモノが蠢いている。

意識内の生物を、【理性】とするならば…
無意識内には、【本能】が生息する。

ひとは、自分が今どの領域にいるかで、世界が違って視える。

ひとつだけ確実に言える事は、
直也の状態は今、【心の深海】に在るという事。

久志が、死んだ。

悲しい…

しかし、無意識の闇の中から…悪魔がささやく…

『良かったじゃないか!』

直也は、驚嘆する!
その声は、直也自身のものだった。
悪魔などではなく、自分の本能。

「何を言っているんだ?」

刹那、理性が働き罪悪感を生む。
しかし、それは届く事はない…

まるで、深海には光が射し込まぬかのように。

『お前は安心したはずだ!これで、節菜は…自分のモノだと…』

「違う!久志の死を悔やみ、涙した。真実の涙だ!」

『真実は、もっと単純だ。
今、涙を流している自分は、他者の目にどう映っているのだろうか?
美しい友情だ。さぞかし、俺の姿は美しく映っていることだろうと…』

「嘘だ!」

光と影は、表裏一体。
光在る処には闇もまた在りし。

その光が、眩しく暖かなものであればあるほど…
生まれ出でる闇は、重く冷たいものになる。

「嘘だ!嘘だ、嘘だ…偽りだ!悲しみを紛らわす為の、虚構の感情に過ぎない。」

『では、その感情の産みの親が、
自分自身であるという事実からは…目を背けるのか?』

「自分を責めることが、悲しみから逃れる、唯一の手段…」

『現に今もこうやって、罪の意識に苛まれている自分が、
さぞかし美しく見られているだろうと思っている…
お前自身を、否定することさえ出来ずにいるのではないのか?』

「僕は…何故、ここにいるんだ?」

『悲しみの【痛み】から逃れ、安らぎを求めたから…』

「心地良いから?」

『心を偽らず本来の姿で居れるから…』

ここは、深く暗い…無意識という名の…深海
欲望のカオス

そこに在るのは…
無という概念

自由?

万物から解き放たれた…
究極の自由だとでもいうのか…

人の心は川の流れだ!

山から産まれた湧き水は、せせらぎへと…
やがて、小川となり…悠々とたゆたう大河となる

しかし、時折…荒くれた感情が溢れ返り…総てを飲み込む事もある

他者という名の環境が出来始めると、
川は…理性という名の堤防にて区切られる

環境が大都市になる程に…川(心)は汚され…ドブ川と呼ばれる…
そして、フタをされ…陽の光の当たらぬ地下を…流れてゆく

「ただ、逃げたかった!
何から?自由になりたかった!
自由なんてなかった…
みんな気付いてなかった…
俺たちは皆…檻の中に居ることを!
家庭という檻の中
学校という檻の中
社会という檻の中
生活という檻の中
ひとつの檻から抜け出せたとしても
人間という檻からは、逃げることなんて、できない!」





充分な時が流れたはずだった…

しかしまた、節菜も事故で失ってしまった。。。





直也は、心を閉ざした。

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