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わしゃわしゃと髪をかき回される感触で雄也は我にかえった。
洗濯したての爽やかな清潔感あふれる香りが鼻孔をくすぐる。
(そういえば、幼い頃にこうやってよく、最愛のあの人に濡れた髪を拭いてもらったっけ。)
そんな事を思いながら、自分の状況に思い至って身をこわばらせる。
「よかった。 気がつかれましたか?」
馴れた手つきで雄也の髪をふき終えた彼女は、脇に置いてあった薬箱を差し出してきた。
「申し訳ありませんが、見ての通り、私は目が不自由ですのでお手当てはご自分で出来ますか? もし出来ないようなら…」
「いや、自分でやれるから大丈夫。ありがとう。」
そうですかとわずかに微笑んでから、目を伏せがちにして、
「濡れたままでは風邪をひいてしまいますので、お手当てが終わったら以前にいらした神父様ので申し訳ありませんがこちらに着替えてください。」
そう言って彼女の着ているようなぞろっとした神父服を雄也の脇に置いた。
そして、そのまま焦点の定まらない栗色の瞳で雄也をじっと見つめる。
引きつるような鈍痛に絶えながら雄也はぐしょ濡れになった上着を脱ぎ、シャツに手をかけた所で躊躇しだす。
(まいったな…。)
「あ、あの…。」
「なんでしょう?」
「服を脱ぎたいんだけど、そんなに見つめられてると、…その、…。」
いくら目が見えていないとはいえ、少女に見つめられながら服を脱ぐという事が、なんだかものすごく恥ずかしいことのように思えて戸惑ってしまう。
雄也が言いよどんでいると、少女は言わんとすることを察したのか、ぎゅっと目をつぶり、みるみる真っ赤に染まっていく頬を両手ではさみ、飛び上がるようにして後ろを向いた。
「ごっ、ごめんなさいっ!」
雄也は、今がチャンスとばかりに傷の痛みも無視して衣服を剥ぎ取ると、手早く傷の手当てを済ませて大慌てで彼女の用意してくれた神父服に身を包む。
やはり、ずっと濡れたままでいたせいもあって冷え切っていた身体に、神父服のなめらかな肌触りは心地よかった。
ようやく一息つけた雄也は、ずっと両手で顔を覆いながら後ろを向いている少女に声をかける。
「着替え終わったから…、もう大丈夫だから…。」
「ご、ごめんなさい。 わたしったら無神経で…。」
振り向いた彼女の頬は、まだ少し赤かった。
「脱いだ服はこちらの籠に入れてください。 お洗濯しておきますので。」
彼女はそう言いながら手探りで探し当てた大き目の籠を差し出してくる。
「いや、そこまでしてもらうわけには…。」
「いえ、いいんです。 血がついたまま乾いちゃうと染みになってとれなくなっちゃいますから。」
彼女は半ば強引にずずずいっと籠を差し出してくるので、雄也はしかたなく彼女の好意甘えることにする。
籠に雄也の衣服の重みを感じるとそれを大事そうに抱えて、小さな子供が自分の言うことを聞いてくれた時の母親のような満足そうな笑みをみせた。