小説『アナト -眠り姫のガーディアン-』
作者:那智 真司()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

雄也にとっては、最愛の人が全てであり、その人の笑顔を見ることだけがたった一つの幸せだったのだから。

「ルールはこの三つ。ただし、二つだけ補足条項があるの。」

アナトの出した補足は必ず守らなければならないという事ではなく、守らなければ雄也自身が不利になっていくということらしかった。

簡単に言えば、一つは彼女を守るという理由であっても人の命を奪ってはいけないという事。 もう一つは全てを包み隠さず誰にでも真実を話してもいいけど、何を願うかだけは誰にも言ってはいけないという事だった。

「まぁ、一つ目は僕は天使なわけだし、開けっぴろげに返り討ちにしちゃえーなんて言えないし。それに返り討ちにしちゃったら、その次はもっと強い相手が送り込まれてきちゃったりして…。 その辺は君に説明は要らないと思うけど?」

雄也は無言でうなずく。

「もう一つはさすがに僕でも40日ってちょっぴり少ないかなーって思うんだよね。 でも、君の最愛の人の魂がそれ以上持ちそうにないってのがあるから、おまけも含めての事なんだよ。 ほら、あの家を見れば分かるように彼女はきっと敬虔なクリスチャンなんだからさ、天使が現れて恋愛しなさいって言われたって事を告げれば素直に恋愛してくれると思うんだよね♪」

そんな事はありえないと思うし、絶対に言わないと心に誓ったが、とりあえずは黙ってうなずく。

「だけど、君がほかの女のためにがんばってるんだなんて知ったらへそを曲げちゃうかもしれないからさ。 無事にミッションがクリアできるようにその二つは僕からのお願いみたいなもんかな。」

「分かった。…もう0時を回ったが、今日から数えて40日間でいいな?」

実を言えば、雄也の軽口も少しでも時間を稼ぎ、ほんの数時間でも自分の有利にするためのものでもあったのだ。

「そうだね。…君のそんなしたたかな処も好きだからおまけして今日からって事にするよ。」

アナトは出会ってから初めて、魔性を秘めた妖艶な笑みではなく、純粋に心からの笑みを雄也に見せた。

「それじゃ、…そろそろ僕は行くよ。 次は40日後に。 君に幸運を。」

そしてアナトはあっけなく掻き消えるようにして雄也の前から姿を消した。

「幸運か。 …俺には一番縁のないものだな。」

-9-
Copyright ©那智 真司 All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える