小説『アナト -眠り姫のガーディアン-』
作者:那智 真司()

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ずっとこんな調子なのである。
何がそんなに嬉しいのか、にこにこしながら自分のひざの上にいる愛子を見ていると、好きにさせておいてもいいような気もするのだが、それを諌めようとしている美咲に対して悪い気もするのだ。
ようするに、完全な板挟み状態。

子供の頃から数々の修羅場をくぐり抜けてきた歴戦の強者も、この場を切り抜ける手段を思いあぐねいていた。

そこへ、意外なところから救いの手が伸びる。

「ただいまー。」

「ただいま。」

宿舎側の玄関が開く音がすると、愛子は一段と顔を輝かせ、飛ぶようにお出迎えにいく。

「ごめんなさい。愛ちゃんはまだ甘えん坊さんだから…。」

席を立つとゆっくりと玄関へ向かおうとする美咲。 しかし、数歩進んだところでけたたましくも元気な愛子の声が帰ってきた。

「あのねあのね!雄也が居るんだよ!神父様なんだよ!見習いさんなんだよ!」

右手でくたびれたランドセルをかついだ見るからに生意気そうな、いや活発そうな少年を、左手でセーラー服に身を包んだ、あまり感情を表に出さないクールな感じの少女の手をぐいぐい引っ張りながら愛子が戻ってくる。

「おかえりなさい。」

食堂に入ってきた三人を見て、雄也は奇妙な既視感を覚えた。

  ◆◆◆

着古されてくたびれたお下がりのセーラー服を、それでも嬉しそうに、少し誇らしげに着て雄也に意見を求めてくる最愛の人。

「どう?」

雄也には正直、よく分からないのだが、その人が喜んでる姿は大好きだったし、笑顔を見るのも大好きだったので、その人が喜ぶであろう言葉を選ぶ。

「すごく似合ってるよ。」

雄也の目論見通り満面の笑みが浮かぶ。
今日からその服を着て、先日入学式を終えたばかりの中学校に初めて登校する日の朝。

「いけない。 遅刻しちゃう。」

そう言って、ずっと今までそうしてきたように、雄也の手をとる。
小学校三年生にもなれば、手を繋いで歩く事に恥ずかしさを感じて来るようにもなるのだが、雄也はその人の暖かい、優しく包んでくれる手が大好きだったので、自分の登校時間には少し早いけど途中まで一緒に登校した。

最愛の人が、まだ自分の力で歩く事が出来た頃の幸せな記憶。
姿形のまったく似ていない二人なのに、なぜかあの頃の自分達を重ね見た気がした。

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