小説『アナト -眠り姫のガーディアン-』
作者:那智 真司()

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 ◆◆◆

ぽふんと愛子がひざの上に飛び乗ってきて雄也は既視感から覚める。
どうやらそこが愛子の定位置になりつつあることには気付かない事にしておいた。

「えっと、二人を紹介するね。」

何か言いたげに愛子をちらちらと見るが、美咲は先を続ける。

「男の子が鈴岡 晃司くん。」

「晃司はねぇ、体育以外の成績はみんながんばりましょうなんだよ。」

愛子の説明に「うるせっ!」とそっぽを向くが、すぐに気を取り直して意志の強く、力に満ち溢れる瞳を真っ直ぐに雄也に向けた。

「鈴岡 晃司。もうすぐ上がるけど麻木小学校五年生。晃司って呼んでくれ。よろしくな!」

快活な物言いでニカっと笑う。

「女の子が西倉 由紀奈ちゃん。」

「由紀奈はねぇ。もごっ。」

変な事を言われてはたまらないと思ったのか、愛子の唇を軽く摘まんで、無表情のまま瞳だけを動かして雄也を見据える。
その瞳にだけはありありと警戒心が浮かんでいた。

「西倉 由紀奈です。中学二年生です。よろしく。」

無機質な自己紹介だったが、不思議と冷たい感じはしなかった。

「こちらが、相澤 雄也さん。 神父様になる為のお勉強をなさりにうちへいらしたの。」

まさか恋をしに来たと言うわけにもいかず、雄也は神父見習いという事にしておいた。

「相澤 雄也…です。見習いにもなったばかりで至らないところもあるだろうけど、よろしく。」

打ち合わせ通りに用意しておいたセリフをすらすら言ってはみたものの、どうにも自分ですら違和感がある。

「そう。 神父見習い…ね。」

案の定、由紀奈は疑っていること間違いなしだ。
そんな由紀奈に晃司は目配せをしてからニカっと笑い、

「仲良くやろうぜっ!」

と、手を差しのべてきた。
雄也も立ち上がり、自然と愛子を抱き上げる事になったが、さして抵抗もなく、晃司の手を握り返した。
抱き上げられた愛子はこれ以上ないぐらい喜んでいた。

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