小説『アナト -眠り姫のガーディアン-』
作者:那智 真司()

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「そうじゃない。」

気持ちはさっさと見回りに戻るよう促している。 だが、心はそんな雄也の意に反して晃司に話しかけた。

晃司は自分のさっきの言葉を否定されたのかと思い、雄也に鋭い目付きを放つ。

雄也は気にせず開いた右手を晃司にみせて、

「拳は小指から順に握って最後に親指で包むように握りこむんだ。」

その言葉通りに拳を握りしめる。
晃司はぱっと顔を輝かせた。

「実戦の場合、相手に対して真っ正面を向くと的が大きくなり、また、急所もさらすことになる。」

言いながら、晃司に対して右足を引き重心を左足にかける。

「半身引けば、急所を守り安く、攻撃を左手で捌く事で利き腕を温存できる。」

晃司は固唾を飲んで雄也を見つめた。
それほど張り詰めた緊張感が漂っている。

「攻撃をするときは手だけじゃなく、肩、背中、腰を身体の中心を軸に回転させながら体重を乗せて最短距離を、打つ。」

バシイィィィッ!

晃司にはその拳の残像すら見えなかった。
その、空気を切り裂く音と、遅れてやってきた風圧が顔を打ち、かろうじて雄也が拳を放ったのだと理解する。

「拳は突き出した速度と同じ速度で戻し、常に次撃を放てるように体勢を整えておくこと。攻撃をする瞬間と、終わった時が一番隙ができるからな。」

それで講義は終わりとばかりに構えをとく。

「すっ、すげえっ!! すげえすげえすげえっ!!」

興奮に頬を高潮させ、憧れと尊敬がその眼を輝かせている。

「雄也さん、何かやってたのっ?」

「いや、俺は実践で学んだだけだ。」

「喧嘩ばっかり、してたってこと?」

「………。 まあ、似たようなもんだ。」

まさか晃司に『人を殺すためだ』とは言えない。

「なあなあっ、俺にも教えてくれよっ!」

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