小説『アナト -眠り姫のガーディアン-』
作者:那智 真司()

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雄也は言葉に詰まる。
大切なものを守りたいと言った晃司の気持ちは痛いほど分かる。 自分も同じだったからだ。
雄也は、守るためにはほかの選択肢がなく、雄也以外の誰かが守ってくれるということはありえなかった環境の中でしかたなく強くあることを課したのだ。
だが、晃司は違う。
守りたいという意思と、強くなりたいという意思を自分自身で選んでいる。
しかたなく強くなった雄也は、自らの意思で強くなろうとしている晃司を『強い』と思った。
だから、必死に頼み込んでくる晃司に「わかった」と言ってしまった。

「ほんとっ!? いやったああぁ!」

「ただし、俺の教えたことは大切なものを守るとき以外には使わないように約束しろ。」

「もちろんさっ!くだらない喧嘩なんかしたりしないよっ!」

「それと、俺が教えられるのは技じゃなく実践だ。 だから、実際に俺と打ち合う事になるけど、いいか?」

「強くなれるならなんだってするさ。」

晃司はニカっと笑った。
それにつられて雄也も笑う。
晃司はその雄也を、なんだか「いいなっ」と思った。
だから、なんとなく思った事を口にする。

「雄也さんなら、咲姉ぇを任せても安心かな。」

「…なんだ、それは?」

「だってさ、雄也さん、咲姉ぇの彼氏だろ?」

雄也は思いっきりたじろいだ。 一瞬アナトの小悪魔的な笑みが脳裏によぎったが…。

「だっ、誰がそんな事を言ったんだ?」

「だってさぁ〜、咲姉ぇったら、雄也さんが来る前の日だったかな? 『天使様が現れて、恋をしろとおっしゃったの』とか何とか言っててさぁ〜。」

その様子を思い出したのかくくっと笑う。

「んで、次の日雄也さんが来たでしょう? 由紀姉ぇと二人で、あれはぜったい恋人を紹介する前フリだったんだって話になってさぁ〜。」

どうやら晃司の中では、雄也は完全に美咲の恋人という立場らしい。

「わざわざ恋人を紹介するのに『天使様』まで持ち出してくるような姉ちゃんだけど、俺にとっては大事な姉ちゃんだからさ。 幸せにしてやってくれよなっ。」

そう言って右手を上げる。

「ほら、雄也さんもおんなじように手を上げて。」

雄也は言われた通りに右手をあげる。

─パァーン

静かな夜の帳の中に、二人のハイタッチの音が響いた。

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