- 幕間 -
〜深夜のコーヒータイム〜
深夜のファミリーレストランの奥まった席に一組の男女が座っていた。
二人は話をするでもなく、冷めたコーヒーを飲んでいる。
男のほうは50代に差し掛かったぐらいだろうか、髪には白いものが混じり始めている。
顔はいかめしく、眉間には常に深いしわが刻まれており、体格もそれに見合うかのようにがっしりとしていた。
ずんぐりむっくりと形容したくなるが、何かの武道の先生と表現したほうがしっくり来るかもしれない。
一方、その向かいに座る女性は、少しきつめではあるが、切れ長の眼と、すっと通った鼻筋に引き絞られた唇は薄く、それらが神の采配かのように絶妙のバランスで配置されていて、美しいと評するに相応しかった。
年は20代半ばほどで、一見華奢にも見えるが、その見事なプロポーションからは猫科の動物のしなやかな力強さを感じさせている。
二人が座る席を見ると、ほとんどの人が『親子』という印象を受けるだろう。
外見はまったく似ていない二人だったが、雰囲気だけはよく似ていたからだ。
それは、同じ世界に住むもの同士という独特の雰囲気だったりもするのだが。
「来たようだ。」
男が太く、低い声で短く告げる。
女の方はさして興味もなさそうにコーヒーをすすった。
やがて、来店を告げるベルが響くと一人の男が入ってくる。
その男は、ウエイトレスに案内されて二人のほうへと向かってきた。
「コーヒーをくれ。ホットで。」
注文をしながら二人のいる席に腰を下ろして、ウエイトレスが十分な距離を離れてからようやく口を開く。
「岩さん、洋子、少し厄介な事になった。」
いつも忙しなく周りをきょろきょろと見回し、臆病さと逃げ足の速さを揶揄されて皆から『ねずみの忠次』呼ばれている男に二人の視線が向く。
「今日、逃走経路の確認でたまたまターゲットの傍を通ったら奴が居やがった。」
厨房の方からコーヒーの芳香が漂い、ウエイトレスがやってくる。
「お待たせしました。」
忠次のコーヒーをテーブルへと置くと 「お代わりはいかがですか?」 と奥に座る二人にも声を掛けてくる。
「私はもらうよ。」
洋子が差し出したカップに、満点の営業スマイルでコーヒーを注ぐウエイトレス。
洋子が 「ありがとう。」 とやわらかく笑みを浮かべると 「お代わりの際はいつでも声を掛けてください。」 と、今度は営業スマイルではない笑顔で奥へと戻っていく。
美人な洋子に笑みを向けられて気を良くしたようだ。