美咲は、これ以上からかわれては堪らないと違う話題を振ってみたりする。
「雄君、今日は何か予定とかあるのかな?」
「いや、特には…。」と言いかけて少し思案する。
「そうだ美咲、悪いけど買い物に付き合ってくれないか?」
「えっ?」
「着替えを買いたいんだけど、ダメかな?」
「そういえば見習い神父さん、ずっと同じ服ね。」
「同じ服をまとめて買うからね。着替えはちゃんとしてるよ。」
軽く苦笑する雄也。
「あの…。私が行っても…、その…。 案内とか選んであげたりとか…できないし。 由紀ちゃんか晃ちゃんに頼んだほうが…。」
「美咲の傍を離れるわけにはいかないからね。無理にとは言わないけど…。」
先ほどまでの勢いは何処へやら、一気に尻込みをはじめる美咲に、その美咲を守る立場としての会話だったのだが。
「それって、咲姉ぇと離れたくないから一緒に来て欲しいってこと?」
「そうなる…な?」
ニヤッとする晃司を見ていやな予感がする。
「ですって、美咲姉さん。私たちじゃ役不足で、愛しい美咲姉さんと一緒に行きたいそうよ?」
雄也はようやく自分の言ったことを理解して思いっきり焦った。
「ちっ、ちがう! いや、違わないんだが、そういう意味じゃない。 そうだ!みんなで行けばいいんだ。 美咲が一緒に来るなら問題ない。」
ますます墓穴を掘っていたりもするのだが、そんな事にも気付かない。
「どうするの? 美咲姉さん。」
真っ赤になってうつむいたり、口をパクパクさせて何か言いかけたり、オロオロしたりしていた美咲だったが、やがて由紀奈の手をがしっと握った。
「由紀ちゃん。 お着替え手伝って!」
そう言うと「少し待ってね。」と残して由紀奈をずるずると引っ張っていく。
ほっとしたような、どっと疲れたような雄也は少しだけすがる思いで傍らの少年に声をかけた。
「晃司も一緒に行くよ…な?」
「もちろん! こんな面白そうな事はないからね!」
少し後悔も混じったりした雄也。
今度はお気に入りのテレビ番組のお子ちゃま体操を一生懸命真似ていた愛子にも声を掛ける。
「愛ちゃんも一緒に行くよ。美咲たちとご用意しないと。」
愛子はパッと顔を輝かせて振り向いたものの、すぐにこの少女にしては珍しく、不安の混じった瞳で「いいの?」と聞いてきた。
「どうして?」
「だって、デートの邪魔をするとね、お馬さんにけられちゃうんでしょう? 愛ちゃん、我慢できるよ?」
くりくりと大きな瞳に真剣さをいっぱいためて雄也を見上げる愛子。
雄也は目の高さを愛子に合わせ、優しく微笑んで愛子をなでてやった。
「みんなでお出かけしよう。俺も美咲も由紀奈も晃司も、もちろん、愛ちゃんも、ね。」
ぱあっと笑みが広がると、いつもの愛子らしく「うんっ!」と元気に返事をした。
「じゃぁ、お着替えしてくるね!」
かけて行く愛子を見送りながら晃司がぽつりと言う。
「さて、女の着替えは長いって言うし…。」
そしてテーブルの上をざっと眺めて、
「後片付けでもやっておきますか。」