育ち盛りの晃司の哀願で、ようやく遅めの昼食を取った雄也たちは食後のデザートを頼み、すっかりとくつろぎムードに入っていた。
愛子は口の周りをべたべたにしながら、生クリームのたっぷり乗ったプリンをおいしそうに食べている。
ちなみに美咲も同じものだ。
雄也が紙ナプキンを取り、「少しじっとしてて。」と美咲に声を掛けてから口元についていたクリームを拭いてやる。
「あっ。…ありがとう。」
何をされたのか理解し、赤くなってしまう美咲。
幸いにも晃司は、自分のチョコレートパフェに夢中でからかうどころじゃないらしい。
「そっ、そうだ。 雄君、今渡しちゃってもいいかな?」
「ん? ああ。 一人で持つにはかさばるからそのほうが助かる。」
そう言って脇においてあった沢山の紙袋を選別しだす。
「これが、由紀奈のだな。」
直接本人にではなく、美咲に手渡した。
「ありがとう。」
にこにこと、でも躊躇いがちに受け取った袋を由紀奈に差し出す。
「これ、私が選んでみたの。 気に入るかどうかは分からないけど…。」
「私に?」
「うん。雄君がね、由紀ちゃん達のも選んであげたらって言ってくれたの。 だから甘えちゃった。」
「すごく楽しそうだったからな。 …こっちが晃司のだ。」
「わっ、俺のもあるの!?」
晃司は大喜びで袋を受け取る。
「愛ちゃんのは? 愛ちゃんのは?」
「もちろんあるよ。 でもその前に、お手々とお口は綺麗かなぁ?」
美咲は紙袋を掲げながらいたずらっぽく聞いてみる。
愛子は自分の両手を見つめると、…ぺろっとその手についたクリームを舐めだした。
「…愛ちゃん。お行儀悪いからそれもダメ。」
「むー。」
「ほら、いらっしゃい。ちゃんと手を洗いに行きましょう。」
由紀奈は自分のポーチを手に立ち上がる。
「はーい! 行って来るねーっ。」
「ちょっと、走っちゃダメ。」
パッと椅子から飛び降りると、一目散に駆けていく愛子を由紀奈が追いかけて行った。
その後を「俺も行ってくるよ。」と、雄也も席を立つ。
売り場で見かけた女性の事が少しだけ気がかりだった。
人目の多いこの店内であれば事を起こす事もないだろうが、人気の薄いお手洗いなどは警戒するに越した事はない。
「晃司、美咲を少し頼む。」
「もちろん。まかしといて。」
二カッと笑い親指を立てる晃司の返事を聞きながら雄也は席を後にした。